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アスベスト問題と今後の新テクノロジーについて

 昨年5月19日に大阪地方裁判所「泉南アスベスト(石綿)工場国家賠償請求第一陣原告訴訟」の判決があり、原告の一部を除いて請求一部認容の結果となりましたが、国は控訴しました。この控訴審がいよいよ大詰めを迎えようとしているようです。

 阪南市・泉南市・泉佐野市には、第二次世界大戦前から昭和50年代ころまでの間、多数の零細なアスベスト(石綿)工場がありました。そこでは、女性男性問わず、有害な石綿粉じんを吸い込みながら長時間労働をしており、工場近隣に住む住民も工場から排出される粉じんを浴びて暮らしていました。

 最近になって取りざたされている石綿ですが、実は、国は昭和12年にこの泉南地域の大規模調査を実施しており、肺の病気が多発していることを知っていました。しかし、当時は軍備拡張のために石綿の存在は欠かせないものだったため、何の対策もされませんでした。
 ようやく昭和22年になって労働基準法で規制をしましたが、有効といえる対策が取られたのは昭和46年の特定化学物質等障害予防規則が初めてでした。石綿が発癌物質であることについては、昭和35年頃にアメリカで報告されており、国もそのことを把握していたのですが、10年以上にわたって何らの規制もしなかったのです。
 被害者にとってさらに不幸なことは、石綿による病気は潜伏期間が長く、気づいたときには手遅れになるという恐ろしさでした。

 この問題は過去の話ですが、実はこれからの未来にも関わってきます。
 例えば、電磁波による健康障害についての研究は最近一応のレポートが出されましたが、まだ問題は残っているようです(WHOリポート)。また、最近のナノテクノロジーで生成されるナノ物質はあまりにも小さくて人体からの排出機構に乗らず、体内に蓄積されてしまう可能性があるため、物質の性状によっては石綿に似た健康被害を生じるのではないかとも言われています(ワシントンポスト記事)。
 このように、今の世の中では利便性・経済合理性を追求して膨大な化学薬品や科学技術が使われていますが、その全部が数十年後の健康被害を生まないことを保証されているわけではありません。極端に恐れることはないと思いますが、便利な技術の背後に常に危険が潜んでいることは、心に留めておくべきではないでしょうか。

 上記のアスベスト訴訟には直接関与していませんが、私も大阪アスベスト弁護団に所属しており、アスベストによる健康被害の相談を受けたり、企業賠償請求の訴訟を担当したりしています。じん肺や石綿肺などの病気で苦しんでいて、過去に粉じんのある職場で働いていたことのある方やそのご遺族は、国や職場に対する損害賠償請求ができる場合があります。身近の方にそのような方がおられましたら、弁護団へご相談ください。

 *昨年5月ごろに書いた文章に最近修正を加えたものです。


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