Category: 医療問題
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医療問題について、AIから適切なアドバイスを受けられるのか
私が比較的多く取り扱っているのは、患者側の立場からの医療紛争に関する事案です。 高度な医療技術と医療者の献身的な熱意によって、日本の現代医療がきわめて高水準の対応になってきているのは、ほんとうに感謝に堪えません。 しかしながら、医療の専門家の間では、「法律」とか「権利義務」に対して、一定のアレルギー反応的ななにかがあるように見受けられ、自分からは遠いもの、知らなくて当たり前のもの、であるかのように考えられているのではないかという懸念を、実務上の実感としてしばしば思うところでもあります。 とある事件で、「診療情報提供書は、個人情報保護法34条1項の対象ではないので、患者から訂正を求められても応じる必要がない」との主張が医療側からなされました。 ある意味唖然とするしかない発想に基づく主張なのですが、こういう基本的なところは、医療者自身が、法律やガイドラインを直接読んで、適切な対応ができるはずの問題です。 それをする時間が足りないというのもある程度理解できるので、少しでも手助けにならないかと思い、簡易なものではありますが、「医療分野における個人情報保護に関するQA」に対応できるChatBotを作ってみました。 上の画像をクリックすると、「Poe」というサイト上で私が公開している上記のAIchatbotが表示されます。 利用している言語モデル(LLM)は、チューニングされていないものとしては、実質的に世界最高水準にあるGPT-4もしくはClaude2となります。どちらも有料なので、試用しかできないのが残念ですが、それより低いレベルのLLMでは、回答の正確性が実務レベルに達していません。 根拠資料も参照できるように設定してありますので、注釈をクリックすることで、AIが引用した部分を自分で直接読んで確認することができます。 引用したのは次の文書です。 いずれも厚生労働省サイトに掲載されている資料です。 全文を読むと数日から数週間かかってしまう分量ですが、AIに読ませて、質問をすれば、必要な分だけ見ることができます。 ご活用いただけましたら幸いです。
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医療事故案件のご相談を検討されている方へ
一般向けの案内文書です。 当職への相談にあたって、先にご一読いただけましたら幸いです。 1 はじめに 医療事故の法的紛争では,患者の状態に応じて,その場そのときに,医師がすべきでないことをしたこと,またはすべきことをしなかったことについて,後遺障害・死亡等の結果に対する法的な関連性(相当因果関係といいます)があるのかどうかを逐一争います。そのような関係にない苦情は法的問題としては扱えません(道義上の問題です)。たとえば,レストランに対して料理が自分の口に合わなかったから金を返せという文句は法的問題ではないけれども、料理がどれだけ美味しかったとしても、衛生管理が悪くて食中毒になったら法的問題になります。 医療行為でいうと,説明や対応がまずいという「だけ」では法的問題にならず,それによって副作用・副反応・合併症の通常許容される範囲を超えて何らかの実害が出てはじめて法的に損害賠償の問題になります。しかも、医療行為の場合、一般には患者は何らかの疾患がある状態なので、医療行為に問題がなくてもそれが悪化することがあるので、そうでないことの立証も必要となります。 以上のとおり、医療事故を解決するための考え方としては、まず,患者の状態が問題の時点でどうであったかという点を確認し、次に,医師の義務とその義務違反行為の有無を検討し、どの程度の損害結果が関連性を持つのかを判断するという流れになります。それらは、いずれの点でも患者側が立証の責任を負うので,裏付けとなる証拠資料があるかどうか,主張を立証できるかどうかが重要です。 医療相談の一般的な流れ 相談 > 調査 > 交渉 > 法的手続 > 賠償の獲得 2 相談から相手への請求まで 前記の通り、相手医療者に法的責任があるかどうかは、証拠資料を元に慎重に判断する必要があり、そのために、民事訴訟の提訴に匹敵する程度・内容の証拠資料による事前検討を要します。 従って、相手医療者がミスを自認して賠償額を具体的に提示しているなどの例外的な場合を除き、相手医療者が有責の可能性が高いという確信が得られない限り交渉自体を開始しません。 そのため、当職は、受任のレベルを3段階に分け、次の段階への見通しがない場合にはその先の受任をお断りしています。 レベル1 相談 医療事故として調査をするかどうかを簡易判定するための相談です。前記の通り、これだけですぐに交渉を開始することは、ほとんどありません。 電話相談は1回30分を超えない限り何度でも無料です(通話料はご負担ください。また、当職の繁忙状況により応対できない場合や、中断する場合もありますことをご承知おきください)。 面談・30分以上の電話の場合は、30分毎5000円で、メール相談は1往復5000円です(消費税別)。 相談を受けて、相手医療者に法的責任があるかどうかの判定のための資料が不足していると判断したときは、それらを当事者で集めて頂くか、弁護士に依頼するかを決めていただきます。 レベル2 調査 弁護士が医療事故として相手医療者の法的責任を問える可能性がどの程度あるかを検討するための証拠収集、検討の活動です。 費用は、弁護士費用(手数料)が10~20万円(事案の内容や法テラス利用の有無などで変わります)、専門医からの意見聴取費用が5~20万円で、最低でも20万円程度が必要です。 収集した資料を検討し、医療者の法的責任についての意見書をまとめて報告するまでの業務となります。 この段階で、相手医療者に法的責任がないと判断された場合は次のステップには進みません。 法的責任に確証を得られるケースはほとんどありませんが、一応の責任追及可能性がある場合には、責任や損害の大小に応じて、交渉限り・ADR・民事調停・民事訴訟のいずれかの手段を次に検討することになります。 レベル3 交渉等の開始 一般的には,治療費・医薬品代などの実支出額のほか,通院交通費,装具・器具などの医療関係費、入通院慰謝料、休業損害、後遺障害慰謝料が主たる請求内容となります。 交渉限り 勝訴可能性が少ないと判断された場合、いわばダメ元で相手への請求だけをする方法です。相手が拒否回答をした場合は原則として交渉終了です。弁護士費用着手金20万円(法テラス利用の場合は調査・交渉の合算で10万円程度の着手金になります) ADR 勝訴可能性が少ないが、相手になんらかのインパクトを与えたい場合に使う民間調停の方法です。相手が話し合いに応じない場合は原則として事案断念となります。交渉の弁護士費用+追加10万円(弁護士を通さず本人か親族代理人が手続すれば実費1万円です。) 民事調停・訴訟 勝訴可能性があり、費用対効果的に問題がない場合の最終手段です。弁護士費用は請求する金額に応じた額になります。目安としては着手金が請求額の10-15%程度(但し、最低額30万円)、報酬金が実際に回収した金額に応じた額(回収額の20%程度)です。 専門医の意見書取得(私的鑑定)や裁判所鑑定などのために、別途20~100万円程度の費用が必要になる場合もあります。
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交通事故賠償額表計算シート マイナーバージョンアップV3.2
交通事故賠償額を計算するための、マクロ使用の表計算シート(Microsoft Excel用) tracalcuです。 変更部分 * 令和2年の賃金センサスを反映しました。 なお、今回の統計から学歴分類が一部変更されています。 「専門学校」と「不明」が追加され、大学と大学院が分離されました。 * ファイルのハッシュ値(SHA256) 7544B907CCDCA9FC6DE4B0E4E1146D099C5205D1E5FB40799102D3068A450C04 残念ながら、当職が昨年度で交通事故紛争処理センターのあっせん委員の任期を終えましたので、今後の算定表の改変について十分なフォローができなくなりました。 有用な情報をお持ちの方からのご提供を歓迎します。 令和2年簡易生命表は7月頃発表です。
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医療用語略語データ アップデート
医療用語の略語集をアップデートしました。 いろいろな情報源からノートに転記しているものをまとめています。 内容の誤り等がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。 医療用語略語集
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医療契約の相手方と訴訟上での相手方表示の問題
患者が医療機関を受診すると、患者とその医療機関との間に原則として一定の「契約関係」が成立します。医療契約の法的性質論については、いろいろとあるようで、その説明は私の能力不足で出来ません。 債務不履行構成で請求する場合には、相手方とのなんらかの医療契約関係の存在が請求原因事実となり、裁判実務上、相手方として誰をどのように表示するか、については、一定の決まり事があるので、説明しておきたいと思います。 ちなみに、不法行為構成で請求する場合には、医療契約の存在は請求原因事実でないので、故意過失の主体となる医師個人を単純に被告にすればよいです。当該医師が病院との間で雇用関係や委託関係がある場合で、病院に対しても使用者責任を追求したいとなったときには、相手方表示の問題が出てきますが、それは、患者と病院の医療契約の問題ではなく、当該医師と病院との間の雇用・委託契約の問題です。とはいえ、その病院表示の特定については、以下医療契約の相手方として述べる部分がそのまま参考になります。 考え方 1 契約の相手方は、当該医療機関の「開設者(医療法7条)」であり、医師個人の開設であれば当該個人、法人の開設であれば、当該法人が相手となります。 2 国立病院は独立行政法人国立病院機構が開設者であり、地方公共団体の経営病院は当該地方自治体が開設者です。 3 団体・法人が相手になる場合の訴訟の相手方には、当該団体・法人の代表者を指定します。 独立行政法人国立病院機構理事長、地方公共団体の首長、医療法人等の理事長がそれぞれの代表者です。 ただし、地方公共団体が、地方公営企業法に基づく病院事業管理者を置いている場合には、当該公営病院の代表者は「病院事業管理者」になります。 注意点 病院に・診療所には、「開設者」とは別に「管理者(医療法10条)」がいますが、この「管理者」は必ずしも当該病院の「代表者」ではありません。 また、病院には「院長」と呼ばれる職位の医師がいることが多いですが、その呼び名にかかわらず、当該「院長」が「開設者」でも「管理者」でも、当該医療法人の「理事長」でもなく、直接診療行為をした当該医師個人でもない、のであれば、その「院長」は、当該病院に対して訴訟をするときの相手方には、なりません。 では、ある医療機関の「開設者」「管理者」を知りたいときにはどうしたらいいでしょうか。 そういうときは、「医療情報ネット(厚生労働省のリンク)」 を使います。 検索のシステムは、各都道府県別になっていて、多くの場合は病院名称で簡単に検索できますが、稀に病院名称だけでは検索結果に出てこない場合もあります。そのときは、当該病院の所在地で検索すると出てくることが多いです。基本的には病院の報告がそのまま掲載されているのと、一定のタイムラグは不可避にあるので、必ずしも最新情報ではないという問題点はありますが、それさえ注意すれば、役に立つ情報源です。
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示談書の書き方について
示談書の目的は、一定の紛争状態について、当事者が一定の合意をして、その紛争を「完全に」終了させることです。 そのため、①紛争を完全に終了させない合意書は、「示談」というより、「覚書」「確認書」というべきであり、②「示談書」である限りは、どの範囲の紛争に適用するのかを厳格に特定する必要があります。 示談書の内容を順に検討してみましょう。 1 タイトル 「示談書」「和解書」「合意書」いずれでも結構です。ただし、上記の通り、中間的な合意は「覚書」「確認書」と表現されることがあるので、最終の合意であることを示す意味では、「示談」「和解」のタイトルがよいです。 2 頭書き 示談書に署名する当事者を列挙して、それらの者の間の合意であることを確認します。その際、主に権利を主張する側を甲、義務を負う側を乙とし、その他の関係者には、順次丙・丁(ヘイ・テイ 普段使うのはせいぜいここまで、以下・戊・己・庚・辛・壬・癸 ボ・コ・キョウ・シン・ジン・キ と続きます)と符号をつけると後の記述が楽です(ただし、混乱して表示を間違わないようにしましょう)。 3 各条項 (1)案件の特定 まず、その示談書が何の解決のために作られたのかを明示します。事件・事故の場合は、5W1Hで、対象を具体的に特定します。 この特定が重要なのは、最終条項で、「本示談書に定める条項のほか、本件に関し、当事者間に一切の債権債務のないこと」を確認するときに、「本件」として引用されるためです。 たとえば、当事者甲・乙の間に、全然別のA事件とB事件があって、それぞれ紛争になっている場合、A事件の示談書で、「・・・条項のほか、当事者間に一切の債権債務のないこと」と記述して「本件に関し」の部分を書かないでいると、最悪の場合、B事件のほうもその示談書で解決済みと扱われても仕方がありません。そのため、「本件に関し」を入れるか入れないか、よく考えて決定する必要があります。 (2)権利の行使条件 示談書は、単なる当事者間の約束事に過ぎず、公正証書にしない限り、裁判なしでは強制執行ができません。また、公正証書にした場合であっても、強制執行できるのは金銭給付請求部分のみであって、建物の明け渡しや、物の引き渡しを強制することはできません。 内容があいまいであったり、違法が含まれていたりして、公正証書にできないようなレベルの示談書を作成してしまうと、後に違約があった場合の対応措置が制約される危険性があるので、権利義務の内容や、行使の要件などは、民法・商法・会社法その他の法令に適合し、かつ一義的に特定できるように記述し、誰から見ても同じ意味での解釈をされるように留意する必要があります。 (3)違約時の対処 違約があったらどうするかを事前に完全にカバーすることは結構難しい問題です。しかし、合意なしに法的に主張できる制裁手段は非常に限られているので、話し合いができるうちにできるだけ有利な条件設定をしておくことは有効です。 (4)包括的清算条項 「示談書」完成時点では、原則として、当事者間のすべての債権債務関係の清算が合意されている必要があります。一般には、「相互に請求を放棄」「その他の債権債務なし」の二つのセンテンスで権利関係をリセットします。 (5)日付・署名 日付は原則として作成日です。持ち回りなどで署名時期がずれる場合は、最後の日とすればよいでしょう。 日付を遡らせることは可能ですが、当然合意が必要ですし、具体的な状況次第では遡らせることに意味がなくなるケースもあるので、事実と違う記述をするのはあまり好ましくありません。 示談書は最終合意で基本的には変更不可のものなので、慎重を期するためには、きちんと当事者が面談をして、その場で自署・捺印を確認するのが原則です。代筆や印刷では、後日信用性を争われた際に反証が難しくなる可能性もあるので、自署にしましょう。 (6)その他 契約ですので、各自1通づつ原本を持つのが原則です。ただ、印紙税の節約のために、一通だけを作って、債務者にはそのコピーを控えとして渡すという方法もあります。 合意書のなかでもっとも難しいのは、上記(2)の書き方です。これは、法律の体系をきちんと理解していないと、正確な記述をするのが難しい部分ですから、示談前に専門家にチェックを依頼していただくほうがよいでしょう。
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不正競争防止法で保護される「商品等表示」
この関連で問題となった事案には、次のようなものがあります。 VOGUE事件。米国で1892年に創刊された著名なファッション雑誌の名前を分譲マンションの名前の一部に使った事件です。裁判所は、不正競争行為であると判断しています。「Vogue」は英語(語源は仏語)で「流行」の意味らしいですが、ファッションと不動産という違う分野であってもダメだとされました。 映画・書籍・ゲーム等のタイトルに関しては、「超時空要塞マクロス」「究極の選択」「スイングジャーナル」「ゴーマニズム宣言」「D・カーネギー」「ファイアーエムブレム」などの裁判例があります。それらの結論は、不正競争とされたものもあれば、そうでないものもあり、保護範囲に関しては、具体的な事情により、判断が分かれている状況です。 裁判の勝敗を分けるのは、権利者側が当該表示をどれくらい市場に周知・認識させていたか、侵害者側が当該表示を使って、どの程度消費者を誤認させたか、その二つの程度の問題です。この立証のために、不正競争の商品表示が問題となった事案では、新聞雑誌の記事やパンフレット、取引状況など膨大な証拠資料の提出が必要になります。 契約に基づく請求は比較的簡単な事件ですが、上記のように、双方の言い分が真正面からぶつかり合う種類の裁判は労力が大変なものになりがちです。一般の事件でいえば、双方過失のある交通事故、専門的判断が争われる医療事故、離婚原因に争いのある離婚事件などの不法行為案件は、立証に苦労する類型の事案です。 裁判実務をよく知る弁護士の多くは、この手の事案は、最終結論を判決に委ねずに、早期に和解をすることが望ましいと考えていると思いますが、一般の方にとって、自分の言い分を貫徹させない決着方法は、なにか、負けを認めるようで、あまり受けのいいものではないかもしれません。 目先の勝ち負けにこだわらないことは、いろんな戦陣訓でも言い古されていることではありますけれども、まさに言うは易く行うに難しです。しかし、本当に判決まで取るべき難しい事件というのは、結構限られた数しかないように思います。 弁護士が増えて訴訟社会化と言われる今日、当事者の利益そっちのけで法的手続きを強行し、紛争をあおるような弁護士も巷間少なからず出現しているようですから、当事者にとって本当の利益がどこにあるのかを見失わないように、紛争が起こってもまずは落ち着いて対処することが肝要です。
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歯科関係雑談
歯科関連事件の調査がてらちょっと息抜きです。 自分はといえば、32・33が融合歯というのが自慢のおっさんですが、48 が横倒しで象牙質まで齲蝕ある状態にかかわらず、抜歯の怖さに放置している意気地なしです。歯痛もなくなってきて、そろそろまずいかなと思いつつあるところです。 もののはずみで、ホワイトニングを調べてて、なんや、オキシドールとフッ素歯磨きでちまちまやってたら、なんとかなるんちゃうんとか妄想しつつ、サイトをめぐっていて、いいもの見つけました。 医療法人天真会 ふくしげ歯科 院長ブログ 「フッ素入り歯磨き粉は危険ってホントなの?(結論:ウソでした)」 昨今、いい加減な医療情報を垂れ流してアクセス収入を稼ぐとんでもサイトが話題になっていた折ですが、一つの似非医学トピックに対して、専門家として詰めていった実録は、賞賛に値します。 特に、この言葉がいいですね。 『医学は日々進歩していくものですので、臨床は「現時点で最も確からしいと思われることを行うしかないものだ」という宿命を背負ってしまうのです。それが医学の限界なのです。』 医師も患者も謙虚になって、冷静な医学的議論と法的賠償議論の両立ができる状況を作っていけたらいいなと思います。