Category: 法令

  • 個人(自然人)と会社(法人),その他の団体について

    取引の相手が個人であるか会社であるかはっきりさせることは、実務上重要なことです。

    世の中にはいろいろな団体がありますが,法的に権利義務の主体になりうる団体には必ず法律の根拠があります。
    逆に言えば,法律の根拠に基づかない「団体」には,個人(自然人)と同じような権利義務は原則として認められません。「法人」とは,生まれながらの人(自然人)ではないものについて,「法(律)」で自然人と同じような権利義務を認めるという意味です。

    法人を認める根拠になる法律のうち,いわゆる会社に適用されているのが「会社法」です。この3条に「会社は法人とする」とシンプルに書かれてありますが,このたった一行の条文により,「会社」が代表者や役員,従業員などの個人から離れて,一つの「法的主体」として「会社」の名前でいろいろな取引をすることが可能になっています。

    法人は「会社」だけではありません。例えば,宗教法による宗教法人,学校法による学校法人,医療法による医療法人などは,よくみられるものですし,「法人」と名乗らない法人(例:協同組合労働金庫信用金庫商工会議所など)もあります。

    2008年法改正までは,公益目的でない非営利法人は,法人格が認められていなかったのですが,改正後は,「一般法人」という非公益・非営利目的の法人の設立が認められるようになりました(かつて2002年中間法人法(廃止)に基づく法人もありましたが,これも非公益・非営利の団体には認められていませんでした)。
    このため,2008年改正法以前からあって,財産的裏付けや実績・伝統のある「(民法に基づく,公益目的のある)社団・財団法人」と,法改正後に出来た「(公益目的・非営利とは限らない)一般社団・財団法人」という紛らわしい呼び名の団体が出来ています。このような誤解を生みやすい状況に乗じて,法改正後の「一般社団法人」であるのに,あたかも法改正前からの「社団法人(正確には「特例社団法人」といいます)」であるかのように対外的に表示をして,信用力を偽る団体が希にありますので,ここは要注意です。

    公益目的がある場合であって,なおかつそのことを表示したい場合には,公益法人認定法に基づく認定が必要なので,その認定がないのに勝手に「公益法人」を名乗ることはできません。

    ちなみに,いわゆるNPOが法人となるのは,1998年特定非営利活動促進法に基づくものなので,一般社団法人とはやや違います。

    法人である場合には,かならず代表者があり規約の定めがあります。会社でいえば代表取締役であり定款です。その他の法人でもこの二つの基本は同じです。
    また,法人は,登記がされているので,法務局で調べれば,代表者の氏名住所が分かりますが,活動実体がない法人(休眠法人)では,長らく登記事項が変更されずに放置されている場合もありますので,必ず実体がわかるというものでもありません。

    このようなことを考えると,個人的あるいは経済的な裏付けのない「法人」は,非常にはかないものですので,法人相手に取引をする場合には,法人登記を確認することのほかに,経営者、代表者等の個人的な信用や経営状態(貸借対照表、損益計算書)をよく見極めることが重要になります。


    某所で引用していただいたので、見直して補記

    冒頭に自然人と法人以外には「原則として」権利義務主体性が認められないと書いたのは、いわゆる「権利能力なき社団」を念頭に置いたものです。これが「その他の団体」にあたります。その点の説明が落ちていたので、補足します。

    権利能力なき社団とは、「団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているもの(最判昭和39年10月15日)」と判例上定義されています。
    この定義に当てはまれば、少なくとも日本法領域にあっては、代表者が団体を代表して民事訴訟を提起できることから、あたかも団体が権利義務の主体であるかのようにふるまうことはできます。ただし、権利義務自体は、その団体の構成員全員が「総有(個々の構成員に持分が認められない特殊な共同所有関係)」するのであって、団体そのものが権利義務を持つわけではありません(だから「権利能力なき」社団といわれる)。

    権利能力なき社団による権利者表示は、当該団体の通称名と代表者・管理者個人名を列記するのが日本法の流儀に合致すると思われます。

    なお、著作権保護に関し、日本法領域では無方式主義ですから、これで問題ありませんが、そもそも権利者表示を要する法領域にあっては、厳密にいえば、権利能力なき社団としての著作権者の特定のためには、当該団体構成員全員の個人名の表示が必要ということになります。

  • 仮差押・仮処分(民事保全)とは

     前回に引き続き,法的手続きによる回収に関連して,民事保全の手続についてレポートします。

     裁判所の判決は,確定して初めて,その効力が発生するのが原則です。判決に「仮執行宣言」が付されていれば,確定しなくても預金や不動産の差し押さえの手続(強制執行)に進むことができますが,そうでないときは確定を待たなければ、そのようなことができません。
     裁判を起こしてから判決を確定させるまで、争いがない事件ですら3か月程度はかかりますし,相手方が徹底して争えば,最高裁まで上がって2~3年がかりになってしまうこともあります。そうなると,その裁判をやっている間に,相手方の経営状態が悪くなったり,返還や引き渡しを求めていた物品が処分されてしまったりすることがあり,せっかく判決をとっても意味がなくなってしまう危険性があります。

     そこで,「仮差押」「仮処分」という「民事保全手続」が用意されています。
     どちらも「仮」とあることからもわかるとおり,本裁判での判決が出る前に,あくまでも,「仮に」権利の実現を認めるという制度です。

     「仮差押」とは,判決が出る前に,相手が持っている預金や不動産等の「資産」を押さえておくことです。
     仮に押さえておくだけなので,差押(本差押といいます)と違って,仮差押の時点で現実に金銭を受け取れるわけではありません。処分されてしまわないように,原状維持を図るという制度です。もし仮差押中の預金や不動産が,他の債権者によって本差押された場合には,債権額に応じた按分額が供託される仕組になっていますので,一定範囲で債権回収が確保できます。

     「仮処分」とは,判決が出る前に,相手方が勝手に紛争の目的物を処分したり,価値を減らしたりしないように,処分を禁止するなどの命令をすることです。
     仮処分命令が出されると,権利関係は現状で固定され,相手方は自分の所有物であっても処分できなくなりますし,仮処分後の譲受人は権利主張できません。
     この仕組が使われるのは,物品の引き渡し(典型的には,賃貸不動産の解除明渡請求など)の場合です。
     たとえば,賃貸していた不動産の賃借人が賃料を払わないので,解除をして明渡を求めたとします。この明渡の裁判では,現にその建物を占有している相手方を特定しなければなりませんので,もし,最初の賃借人が,裁判の途中で勝手に第三者に又貸しをしてしまうと,その第三者を裁判の相手に追加しなければならなくなります。素性の分からない人が占有者として入ってきてしまうと,誰を相手に裁判すべきかわからなくなってしまい,判決をとっても,実際に明渡請求できなくなってしまう危険があります。
     そこで,「仮処分」の仕組を使って,賃借人が他の人に又貸ししたり,第三者を勝手に住まわせたりすることを,裁判所の命令によって禁止しておきます。そうすれば,裁判の相手方は仮処分時点での占有者に特定され,以後の占有者は当然に排除できるので,安心して最初の賃借人だけを相手に裁判をすることができます。

     上記のような「処分禁止の仮処分」のほか,「地位保全の仮処分」もよくあるパターンです。
     例えば,勤務先を解雇された従業員が,解雇は無効だとして会社を相手に裁判をする場合に,「労働者の地位」を失っていないことを「仮」の状態として裁判所に認めてもらいます。そして,それに基づいて,給料の仮払いを求めるというような使い方をします。
     また,会社等の団体の役員が不当に解任された場合に,役員の地位にあることを仮の状態として裁判所に認めてもらうというような使い方もあります。
     さらに,たとえば,右翼の街宣車が自宅や会社へ押し寄せてきて誹謗中傷を繰り返すようなケースや,暴力団がらみの恐喝事件などの場合には,「接近禁止,面談強要禁止の仮処分」といって,一定の禁止事項を裁判所から命令してもらい,違反した場合には一定の制裁金(間接強制)の支払いを命じるなどの手段によって,それらをやめさせるという使い方もできます。

     日本の法律では,裁判所を通さないで,相手の意思に反する行為をさせたり,自由や財産を奪ったりすることは「自力救済」と呼ばれ,正当防衛など限られた場面を除き,原則として違法行為になります。たとえば、家賃を滞納した賃借人を追い出すために、賃借人に無断でカギを交換して入れなくしたり、家財道具を放り出したりすることは、違法な行為です。

     そのため,仮処分の制度は,法律実務上,たいへん重要な権利実現の補助手段になっています。

  • BizFAX(旧iFAX)スマートキャスティングツールがWindows8にインストールできない件

    多数の宛先へPCから一括送信できるBizFAXサービスも、電子内容証明と同じく、便利なツールです。これもいざ使おうとして、今のPCにインストールしていなかったことに気づいて、導入作業をしましたので、メモを残しておきます。

     BizFAX(iFAX)の送信ソフト「スマートキャスティングツール」はWindows8にインストールできません。インストーラは開始しますが、ランタイムのインストールで引っかかります。エキスパートにかかれば、なにか回避方法があるかもしれませんが、今回は、ひとまず前回設定した仮想マシンのWindowsXPにインストールしてみましたら、ちゃんと稼働しました。

     実は、BizFAX(NTTCommunications)は、印刷機能を使う「TGドライバ」が、Windows8にもインストールできて、なおかつ稼働します(公式にはWindows8は対応OSに含まれませんので、自己責任でご利用ください。私の場合、初期設定では印刷表示に不具合がでました。)。機能は「スマートキャスティングツール」に劣りますが、FAX送信はひととおり可能です。

  • 電子内容証明ソフトが64bitに対応していない件>対応済

    2013-12-26追記:電子内容証明ソフトが64bit対応しました。詳しくは、日本郵便のe内容証明サイトをご参照ください。
    以下の情報はもう不要のものですが、参考として残しておきます。ご訪問ありがとうございました。

     64bit版ドライバ一本作ってソフト設定を微調整するだけなのに、なぜここまで対応が遅れるのか、一般企業ではありえない遅さだと思うが、ライセンスとか予算とか技術者とかいろいろな障害がおありのことと事情を察し申し上げている間にも、業務に支障が出るので、ネットの先人たちに勝手に教えを乞いつつ、なんとか苦労してWindows8 Pro+仮想化XPで内容証明ソフト稼働成功した。その過程で、クリアした問題点のメモを書き留めておく。なお、Windows7Pro64bitの場合は便利なXPモードがあるのでそちらをご利用されたし。

    Windows8 Proの場合の対応
    1 Hyper-Vを起動して有効化
      ハードウエアが仮想化に対応していることが必要。
      Hyper-Vでチェックボックスにチェックできない場合、BIOSの初期設定が無効になっていることがあるので、その場合はBIOSで有効化して再起動してから再設定。

    (2013/9/4 修正)
    2 ネットワークの構成
     当初(1)仮想スイッチで内部ネットワークを作成(外部ネットワークの設定にすると、仮想化サーバー側のネットワークがインターネットから切断されてしまう)。(2)これまで使っていたインターネット接続を共有化する。
     と説明していた。実はこれは海外のサイトにあった設定例をそのままマネしただけだったが、その後どうも接続が安定せず、どうやら間違いがあったようだ。

     その後、上記のリンクを参考にして設定を以下の通り変更した。ネットワーク構成やPCの設定によって、いろいろなパターンがありうると思われ、各自ご検証されたい。
     1)仮想スイッチで外部ネットワークを作成。その際、必ず「管理オペレーティングシステムに・・・共有を許可する。」をチェックする。
     2)これによって、ネットワーク接続に「ネットワークブリッジ」が追加されて、仮想システムと管理システムとが、両方ともインターネットへ接続できるようになる。
      
    3 仮想マシンの作成
     1)Hyper-Vの新規>仮想マシン から仮想マシンを作成する。
     2)XPを内容証明専用に使うだけなら、メモリの割り当て512MB,仮想ハードディスク16GBくらいで十分。ちなみに、OpenOfficeのCalc、Impress、Writerと電子内容証明BizFAXスマートキャスティングツールを入れた状態で10GB未満である。Win7とか、ほかのソフトも入れるならもう少し多めに必要かも。
     3)「ネットワークの構成」で、2で作成した接続を選択する。

    4 WindowsXPまたはWindows7の32bit版を仮想マシンにインストール
      ライセンスがいろいろあるので、ネット認証で問題が起こったら電話認証を試す。
      電話認証を拒否されたら、マイクロソフトのサポート担当者と話をして事情を説明してもらう。

    5 Windowsのアップデート
      WindowsXPの非SP版を入れると、SP2・SP3の二つのアップデートをする必要がある
      また、仮想マシン接続メニューの「操作」から「統合サービスセットアップディスク」を選択して、インストールすると、ウインドウ間をいちいち「ALT + ←」しないで移動できたりして便利なのでこれもやっておく。

    6 ワードまたは一太郎のインストール
      ライセンスないよ、という方は「OpenOffice」でもOK。内容証明だけならWriterだけ入れれば十分だが、念のため、ImpressとCalcも入れておく。

    7 内容証明ソフトのインストールと初期設定
      インストールしたOSに対応するバージョンを入れる。

    8 受発信名簿ファイルの移動
      プログラムフォルダのjapanpost…csvフォルダにある二つのCSVファイルをコピーして、仮想マシンの同じ場所へコピー(いったん共有フォルダへコピーしてから移動する)。
      共有がうまくいっていない場合は、外部のオンラインストレージを介して移動。

    9 内容証明ソフト・サイトのテスト
      新しいブラウザでは、送信文書の最終チェックを済ませても、「差出」ボタンが現れないことがあるが、互換性の問題なので、互換表示をONにすればOK。

    というようなことです。

    これって、コンピューター苦手な人にはあまりにも高いハードルではないですか?
    XPも来年にはサポートが切れるので、早く64ビット対応お願いします。ていうか、Webベース版で十分のような気はしますけど>>日本郵便様

  • マンション居住者のための区分所有法・管理規約 超入門

     マンションは自分の持ち物とみんなの持ち物との集合で成り立つ建物です。
     自分の持ち物部分を「専有部分」といいます(2条3項)。
     みんなの持ち物(だれか一人の持ち物ではない)部分を「共用部分」といいます(法2条4項)。
     この専有部分・共用部分は法律と規約で対象が定まる仕組みですが,複雑ですので今回の説明は,ひとまずこの程度に留めておきます。

     各区分所有者は、自分のものかみんなのものかにかかわらず,「建物」にとって有害な行為や,管理・使用に関して,みんなの利益に反することをしたらだめというのがいちばん基本的な義務付けです(法6条1項)。
     基本的なルールは区分所有法が決めていますが,多くの点で,必ずしも法律通りにする必要はなく,区分所有者が管理規約や使用細則を定めて,独自のルールで建物を管理運営していくことが可能です。
     いろんなところでよく説明に出てくる「標準管理規約」は,国土交通省が管理規約のモデルを示したものであり,その通りにするかどうかは各管理組合の自由です。ときどき,標準管理規約が個別のマンションの管理規約より優先して適用されるというような誤解をしている方もおられますが,あくまでも,管理規約はそれぞれのマンションの自主ルールを定めたものですから,その内容が法律違反でない限り,それぞれのマンションの管理規約が適用されます。標準管理規約が改訂されても個々のマンション管理規約が変更されない限り,標準管理規約の変更がそのマンションに適用されることはありません。

     最初に説明したように,マンションは自分のものとみんなのものとが入り組んでいますので,各区分所有者は,自分のものかみんなのものかにかかわらず,保存(維持・補修等)や改良(増設・改装等)のために必要であれば,ほかの区分所有者の専有部分や共用部分であっても,使わせてくれるように請求する権利があります。使わせてくれと頼まれた場合,それが保存・改良の必要によるのであれば,認めてあげなければいけません。ただし,ほかの区分所有者が,その使用によって損害を受けるときには,使用するものは補償金を払わねばなりません(法6条2項)。なお,これは使用そのものに関する損害のことですから,たとえば,保存改良工事の結果,逸水・ばい煙等が直接ほかの専有部分へ侵入するようになったなどのトラブルは,単に,加害・被害当事者間での不法行為問題であって,区分所有法の補償金とは別の問題です。

     共用の廊下や階段はみんなの持ち物ですから,その用法(通路)に従って,みんなが自由に使えますが,専有部分ではないのですから,自分の居室の前や隣でほかの人の迷惑にならないからといって,廊下や階段に勝手に物を置いたり,機械を設置したりすることはできません(法13条)。

     たとえば,専有部分につながるダクト(専有部分)の設置が問題になった場合,そのダクトが共用部分である廊下や階段を通過するのは,共用部分の通常の用法でない(通常は,専有部分のダクト設置工事のために廊下や階段があるのではない)のですから,共有部分に関する管理の問題として,原則として集会の通常決議による許諾を得なければなりません(18条1項)。規約で,理事会や理事長にこの権限が集約されているところでは,それらの規約に基づく手続きとなります。もし,ダクト専用の配管スペース(共用部分)があるマンションであれば,そのスペースはその用法どおりの使用ですので,技術的・事務手続的なことはともかく,法的には許諾が不要です。

     管理費は,共用部分の管理のために管理者から各区分所有者に対して請求する費用です(法20条1項)。標準管理規約では,敷地の管理も目的に追加されており,管理費と修繕積立金とに分けて規定されています(規約25条1項)。
     管理費は共用部分の維持管理費用に充てるために徴収されますから,管理費・修繕積立金を専有部分のために支出することは目的外支出であって,認められません。共用部分と連続して一体となっている専有部分の給排水管について,全体として清掃する必要がある場合に,専有部分に要する費用も管理費負担にしてかまわないという標準管理規約の取り扱い(規約21条2項)はありますが,専有部分の設備の「更新」は専有部分の区分所有者が負担すべきと解されています(規約第21条関係コメント(5)参照。さらに例外的場面として規約22条とそのコメント参照)。いずれにしろ,個々のマンションの管理規約がどうなっているのかが最重要のチェックポイントです。

     管理費は一般的には専有部分床面積の割合に応じて負担額が決められていますが(法14条1項,規約25条2項,同14条),上記のとおり,共用部分の管理費用ですので,性質上、管理組合に対する債権と相殺できないと言われています(東京高裁平成9年10月15日判例時報1643号150頁)。たとえば,個人の負担で共用部分を補修して費用を支出した場合の立替金分は、管理組合の負担ではありますが、管理費と相殺することはできません。当然ながら、共用部分の瑕疵以外の原因(たとえば上階住民の漏水や隣家からの延焼等)によって専有部分の使用不能が生じても,管理組合に対する債権は生じませんから、そのことを根拠にして管理費を一方的に減額することはできません。
     理事の不正などのために、管理費を理事に渡してしまったら目的外に流用されてしまうおそれがある場合、法的には、理事の職務停止と職務代行者選任を民事保全により実現したうえで、問題の解決まで管理費の収支を第三者(職務代行者)に取り扱ってもらうという方策はあり得ますが、時間・費用コストがかかるうえ、根本的な解決には集会の多数派を占める必要があるので、現実的でないかもしれません。

     築年数の古いマンションは建物も居住者も高齢化が進み,あやふやな法律知識のもとに,でたらめな管理がされているというケースが散見されます。いわゆる管理会社にしても,専門知識があるのは一部の主任者だけで,営業社員は法律・規約には素人同然ということもよくあるようです。

     理事者にしろ一居住者にしろ,判断に迷ったら,まずはきちんと管理規約を読み,それでもわからなければ,マンション管理士や弁護士に法的見解を確認すべきでしょう。

  • 預り金等の取扱に関する規程(日弁連)の所見

    日弁連預り金等の取扱に関する規程

     4条2項「預り金の総額が五十万円以上となった場合において、当該預り金を十四営業日(日本銀行の休日を除いた日をいう)以上にわたり保管するときは、当該預り金のうち五十万円以上の額を、預り金口座で保管しなければならない。」や、7条2項「当該預り金又は預り預貯金に係る職務が終了した後三年間保存」と、具体的に数値基準が示された点が実務的な影響点でしょう。

     そのほかは、おおむねどの条項も、これまでどんな弁護士でもやっていたようなことで、特に何か対策が必要というものでもありません。たぶん、多くの弁護士は、他人の金を預かることに、なんとなくの気持ち悪さを感じていて、少しでも早く預かり残高をゼロにしたいと思っているのではないでしょうか。

     普通は預かったお金は全部口座保管するのが原則(そのほうが出入金履歴が残って便利)でありますし、弁護士の善管注意義務違反の時効は10年ありますから、預り金記録を3年で廃棄してしまうと、自分の義務履行の立証が出来なくなってしまうので、10年未満で廃棄することもあり得ません。

     うーん、提案時はろくに読んでいなかったけど、いざできあがった規程を見ると、なんだかなあ・・・ですね。

  • 零細事業の売掛金回収(小口編)

    1 法的回収の前に
     後に述べますが,小口の売掛金は,法的手続を使った回収にかかるコストが,請求金額と見合わない場合が出てきます。そのため,逆説的ですが、いかにして,法的手段をとらないで,うまく回収するかがポイントになります。

    (1)確実な決済をする
     例えば,現金販売(立ち飲み屋での「キャッシュオンデリバリ(=注文毎の即時払い制)」や,コンビニ等での小売など)がもっとも確実な回収手段といえます。これはなにかの商品やサービスが,一度のやりとりだけですむようなケースでは有効です。
     これをさらに進めると,前払制(プリペイド)という方法があります。例えば,電車の定期券や回数券のように,一定の金額・期間に有効となる前払い券を発行して,代金を先取りしておくという方法です。一般消費者を相手にする場合には,「資金決済に関する法律」の前払式支払手段に該当するので,一定の法規制を受けます(詳しくは一般社団法人日本資金決済業協会のサイト参照)。
     但し,取引相手が事業会社である場合(いわゆるBtoB)は同法の規制対象外なので,企業間取引であれば,前払制は一つのよいビジネスアイデアです。

    (2)後払いの場合の履行確保
     以上のように,回収を確実にするためには,現金決済(同時履行,先履行)か,前払い(プリペイド方式)がよいのですが,事業モデル上の都合で,そのようにできないケースがどうしても出てきます。このような場合には,「与信」の考え方が必要です。
     与信とは,一般的には銀行や金融業者が資金を融通するときに,相手を審査して,融資枠を設定することがイメージされますが,事業取引にあっても,取引相手の経営・財務状態に応じて,取引のランク付けをすることが有効です。
     例えば,一見さんの場合には,一定の保証金を預かった上で,現金・前払いだけしか対応しないと決め,継続的に取引が重なって信用力がついてくれば,保証金を免除・減額したり,後払い(ポストペイ方式)や取引ワクの拡大をするということです。
     また,このときに法的観点からみて重要なのは,取引の相手方を明確にするということです。例えば,「山田商店」という取引先が,「株式会社等の法人の商号である『山田商店』」なのか「個人事業主である自然人山田某さんが『山田商店』と名乗っている」かの区別は非常に重要です。
     法的には「株式会社○○商店」とその代表者が個人的に経営している「○○商店」とは別のものなので,それを曖昧にしていると,最悪の場合どちらにも請求できないという結果になりかねません。取引相手が法人であれば,登記事項・履歴事項証明書を調査して,本店所在地に実在するかどうか代表者本人の所在に連絡がとれるかどうかなどを最低限調査すべきですし,個人であれば,確定申告書や税務署への開業届などから,経営名義が誰になっているのか(届け上では営業者本人ではなく妻や子どもの名前を使っていたりすることがあります)を確認することが望ましいといえます。そういう地味な調査が、いざ回収というときに役に立ちます。

    2 やむを得ず法的回収手段が必要となるとき

    (1)請求金額の規模に応じた回収プラン
     以上のような対策を尽くしても、やむなく未収金が発生してしまった場合には,その請求金額に応じた回収プランを立てる必要があります。
     i)2000円未満
     これは一度の内容証明配達証明郵便の発送実費に相当する金額です。従って,このレベルの未収金の場合は,内容証明郵便の送付すらコスト倒れということになります。
     ii)5万円未満の場合
     請求の内容証明を顧問先でない弁護士に依頼した場合には,最低3~5万円程度はかかります。そのため,このレベルの未収金は,一般的には弁護士に依頼せずに,自社で繰り返し督促をして根気強く回収するのがベターということになります。
     iii)140万円以下の場合
     140万円は,司法書士が受任できる事件の金額上限であり,簡易裁判所で扱われる上限でもあります。このレベルの未収金は司法書士でも回収出来ますし,自社で法務部員を教育すれば,簡易裁判所の許可を受けて、事件ごとに訴訟代理権を持たせることもできるので,弁護士に頼らないで自力回収できる範囲になります。ちなみに,一般的には,140万円を請求して全額回収した場合の弁護士費用は,着手金・報酬あわせて約2~4割(28~56万円)になります。
     iv)140万円を越える場合
     このレベルになると弁護士介入がベターとなります。
     但し,「支払督促」という手続(=裁判所から相手に督促状が届き,無視すると仮執行ができるので,内容証明よりも強力)であれば,簡易裁判所でも可能であり,金額の制限がありません(裁判所への印紙代が若干かかります)。また,「民事調停(=調停委員が間に入って,相手との話し合いをする)」も金額の上限なく簡易裁判所が扱いますので,それらの手続であれば弁護士を介さなくても利用可能です。しかし,支払督促に相手から異議があると,地方裁判所での通常裁判へ移行しますし,民事調停が不調になれば,原則2週間以内に提訴するほうがよいので,初めから弁護士を依頼しておいたほうがよいと思われます。

    (2)法的回収に必要な情報収集
     法的手続きのためには,相手方の住所,名称,郵便の届く事業所を最低限把握しておく必要があります。もし,所在不明になってしまった場合には,公示送達という特殊な方法で提訴します。これは早い回収を期待するより,主に時効中断のために提訴するケースです(時効が中断し、判決確定から10年に伸びます)。
     また,回収可能性を事前に予測するために,相手方の資産・収入などを調査する必要もあります。その場合は,本人だけでなく,相続財産が入る可能性も考慮して,親兄弟の分まで調べる事があります。この調査でめぼしい資産・収入がないことが分かれば,無駄な回収費用をかけずに貸倒償却するほうがベターというケースもあり得ます。

    (3)法務設置のメリット
     企業の立ち上げ段階や成長過程では、どうしても営業に比重がおかれて、受注増に伴って、請求・回収の管理が甘くなりがちです。
     経理担当者にしても日々の帳簿整備に手一杯で,請求管理は請求書を発行すれば一仕事終えたつもりになってしまいがちです。このようにして、いつのまにか収支不明の備忘記録がホコリのように溜まってくることがあります。日々の業務にはほとんど支障がないので,放置されているのですが,そのような不明瞭経理横領や背任の温床でもありますので,注意が必要です。
     前記のように,140万円までの債権であれば,簡易裁判所での民事訴訟が使えますし,貸金・信販系会社では,法曹資格のない社員が裁判所の許可を得て代理人となって,司法書士・弁護士のように法廷で活動しているケースもあります。債権管理以外にも,法令遵守(コンプライアンス)のための社内監査などの仕事もありますので,総務や人事のなかに法務担当を置くことを検討されるのも良いと思います。

  • 個人情報保護の要点

     最近は,なんでもかんでも個人情報保護で,弁護士の立場からすると,以前よりも情報の取得が難しくなってきた感があり,訴訟や後見などのいろいろな手続が面倒になってきています。
     しかし,それだけ個人情報がシステムとして保護されている状況が定着してきたということで,全体的には好ましいといえるでしょうか。
     ところで,一般論として、漠然と個人情報を保護しなければという認識はありますが,法律上どのように規定されているのかは意外に知られていません。そこのところをお知らせするのが今回のレポートの趣旨です。

     法律は平成15年に出来た「個人情報の保護に関する法律」です。
     個人情報は,「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と定義されています。

     つまり,「亡くなった人」の情報はこの法律では保護されていません。また,「特定の個人」を識別できない情報(例:イニシャルだけ,ありふれた姓名だけ)などは保護対象でありません。但し,それらの情報をまとめて保有していて,いつでも個人を特定できるような状態にしてあるとき(例:公開ファイルはイニシャルだけだが,固有の番号を付けたりして,本名・住所等のファイルに関連づけられている場合やクロス検索機能で簡単に抽出できる場合など)には全体が法律による保護対象になります。

     個人情報はだれもが慎重に取り扱わなければならないのですが,この法律では,とくに「個人情報取扱事業者」という定義を設けて,それに該当する場合に限って,法律による種々の規制をかける仕組になっています。もちろん,法律で規制されなくても,自主的に個人情報保護ポリシーを設けることは望ましい事です。

     「個人情報取扱事業者」は,現在の基準では,「ある事業のために,過去6ヶ月間を通じて一度でも5000人を超える人数を特定できる情報を管理している者」です。つまり,6ヶ月以内に5001人以上の個人情報を集めていたことが一日でもあれば,個人情報保護法の適用を受けて,次に述べるようないろいろな保護法準拠対策を講じなければなりません。なお,この情報は日本国籍者に限らないので,法人ではない「個人(自然人)」であれば,外国人も数にカウントされます。亡くなった方は含みません。

    (1)利用目的の特定: 個人情報を記録する際に,利用目的を決めることです。ここで決めた目的以外には原則として使わないようにします。
    (2)利用目的による制限: 本人の事前の同意がないときには,原則として,定めた目的以外のために利用してはいけません。例えば,荷物送付のために聞いた個人情報宛てに,事業の宣伝等のDMを送付したりすることはできません。そのようなことをしたければ,目的に定めておくか,個別に本人の同意をとっておかねばなりません。
    (3)適正な取得: 本人をだまして個人情報を聞き出すことは違法です。
    (4)取得に際しての利用目的の通知等: 本人には,個人情報の利用目的を知らせておかねばなりません。利用目的をWEB上で公表している例が多いですが,公表していても,新規取引毎に個別に「個人情報利用についてのお知らせ」をするほうがよいでしょう。利用目的が変更された場合には,本人へ通知しなければなりません。
    (5)データ内容の正確性の確保: 一旦集めたデータは,正確かつ最新の内容に保つようにする努力義務が課せられています。
    (6)安全な管理: 当然ながら,集めたデータが漏洩したり,なくなったりしないようにしなければなりません。
    (7)従業者の監督: 安全管理の一環として,従業員の指導監督も必要です。
    (8)委託先の監督: データ入力やDM代行業者などへ情報を委託する場合は,その業者がきちんとした個人情報保護ポリシーをもっているかどうか確認すべきでしょう。
    (9)第三者提供の制限: 当然ながら,本人の同意なしの個人情報第三者提供は禁止されています。ただし,これにはいくつかの例外があります(例:捜索差押や伝染病検疫の場合など)。
    (10)保有個人データに関する事項の公表: いわゆるプライバイシーポリシーです。法律が求めている内容は,①当該個人情報取扱事業者名称,②個人データの利用目的,③開示手数料,④苦情申出先です。
    (11)個人データの開示・訂正・利用停止: 本人の求めがあれば,保有している個人データを本人へ開示しなければなりません。その場合は一定の手数料を徴収できます。データがない場合には,データがない旨を回答しなければなりません。
     また,本人から訂正を求められたときは,内容確認のうえ,これに応じなければなりません。訂正できないときにはその旨を報告しなければなりません。これは,その本人にとっての不利益情報(例えば,料金滞納の事実や,暴力団関係者である等の事実)が記載されている場合に,生じてくる問題です。
     個人データが不正取得・不正利用されている場合は,当該データの利用停止や消去をしなければなりません。
     個人情報保護については,各業界の団体が「認定個人情報保護団体」となり,共通のガイドラインを定めている場合もあります。

     もし,「個人情報取扱事業者」が法律の定めた措置を執らずに,個人情報漏洩や不正使用などをした場合には,行政から是正勧告が出されることがあります。この勧告に従わなかった場合には,是正命令が出され,さらにそれにも従わないときは刑罰(六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金)に処されることもあります。

     事業が拡大すると,すぐに個人情報を5000件を越えて保有する状況になると思いますので,それらについての適正な管理をすることが,事業経営課題の一部になってきます。

     

  • 「内容証明」について

     今回のレポートは,「内容証明」についてです。
    1 内容証明とは
     内容証明とは,日本郵便株式会社の「内容証明郵便」に「配達証明」をつけたものを指します。業界用語では「ナイハイ」と略して呼ぶこともあります。配達証明をつけておけば,いつ誰が受け取ったかを日本郵便がハガキで差出人へ通知してくれますので,便利です。
     法律の世界では,一定の内容の文書を間違いなく相手方に届けて,そのことを証拠として用いなければならない場合が多くあります。ビジネスの場面では,売掛金の督促状や債権放棄書,相殺通知書などを出す場合によく内容証明郵便が使われます。
     内容証明が法律の世界で意味があるのは,そこに記載された「意思表示(=一定の法律上の効力を発生させようとする人の意思が表示されていること)」を相手方に届けて,受領してもらうという点です。従って,内容証明に記載する事項を,法的に有効なものとするためには,民法や商法などの基礎的な知識が必要です。
     単なる督促状も,貸金,賃料,売掛金などの請求内容の違いに応じて,正しく,もれなく必要事項を記載する必要があり,記述が不十分な場合には,せっかく届いても法的に意味がないものになってしまうこともありえますので,注意が必要です。
     一方,内容証明郵便そのものに、なにか特別の強制的な効力があると誤解されているケースがありますが,原則としてそのようなことはありません。そもそも,内容証明は,単に一定の内容の文書が間違いなく相手に届いたことを後日証明するために用いられる書留郵便物に過ぎず,裁判所が発する訴状や,差押通知などの「特別送達」と違って,それ自体でなんらかの強制的な効力が受取人に対して及ぶということはありません。
     例外といえるのは,時効にかかりそうな請求の時効進行を止めるために,内容証明郵便で請求(「催告」といいます)するケースです。その場合には,時効期間満了前に相手方が受領する必要があり,なおかつ,時効進行を止められるのは6ヶ月間以内までで,その間に必ず別途裁判上の請求もしなければなりません。
     以上の通り,「内容証明」は,法的観点からすると,さほど強い効力がありませんので,第三者から内容証明郵便が届いても,必要以上に恐れることなく,弁護士に相談するなどして冷静に対応して下さい。
     他方,裁判所から発送される各種書類のなかには,「特別送達」という方式で配達されるものがあります。これを無視すると,欠席のまま敗訴判決が言い渡されたり,知らないうちに自宅が差押えられたりする危険があるので,必ず目を通す必要があります。最近は「・・・民事訴訟局」などと架空の名称を使って,「振り込め詐欺」のようなことをする犯罪者集団もあります。多くの場合、内容を見れば、偽物であることは一目瞭然ですが、届いた書類が正式な文書なのかどうかがよくわからないときは、きちんと裁判所や弁護士へ確かめる必要があります。連絡先が裁判所や実在する弁護士でない場合は詐欺文書の可能性が高いです。

    2 内容証明の出し方
     内容証明は法的な構成をふまえて過不足なく記述する必要がありますが,日常的な売掛金債権の回収や,取引上の通知・通告などの簡易な内容であれば,ある程度自由に記述しても,その効力にさほど影響ありません(後日の補正ができます)。
     文具店等に,日本法令の「法令様式」のコーナーがあり,「内容証明郵便用紙」が販売されていますが,その用紙を使わなければならないものではなく,普通のコピー用紙にプリンターで印字したものでも,便せんに手書きをしたものでもかまいません。用紙は5年間の保存に耐えられるものであればなんでもよく,枚数の制限もありません。
     但し,1枚の用紙に書ける文字数は,1行20文字で26行以内(横書きの場合は13文字40行以内)と決められていますので注意が必要です。
     すべて文字と記号だけで構成する必要があり,図表を付けることはできません。文字に下線や傍点をつけることは出来ます。
     内容証明文書以外の別紙などを同封することはできません。
     また,①のような特殊な文字は二文字とカウントしますので,一行の中にそのような文字がある場合には注意が必要です。
     出し方は,同じ内容の文書を3通作成して,記名捺印して郵便局の窓口へ持ち込みます。複数枚になるときは割り印をします。また,宛名を書いた封筒も準備しておきます。
     郵便局の窓口では,文字数の制限や宛名と封筒の表記の一致等を点検して,受付印を押して,2通を封筒とともに返してくれます。これは,「その封筒に1通を入れて,残り1通は控えとして持っておいて下さい」という意味なので(窓口の人はいちいち説明してくれないことが多いです),封筒に文書1通を入れ,封をして窓口へ戻します。料金は差し出し枚数によって違いますが,2-3枚程度のものであれば,2000円以内で足ります(詳しくは日本郵便のホームページなどでご確認いただくか,窓口でおたずね下さい)。
     このほか、やや使い勝手は悪いのですが、電子内容証明郵便というものもあります。これは一枚あたりの文字制限がない(枚数は5枚まで)ので、紙ベースの内容証明にすると2枚以上にわたる内容でも、1枚に納めることが出来ます。詳しい使い方等は日本郵便のホームページをご覧下さい。

  • 企業取引契約への法律適用

    1 外国との取引で最低限決めるべきこと
     商売上の取引はすべて契約法が支配します。そして,契約は,最終的には法律の強制力によって守らせることができるからこそ,意味があるものです。
     日本国内の契約では、ほぼ例外なく日本法を適用し、日本の裁判所で審理されることを前提に考えておけば足ります。
     国際間契約書では,戦争や国交断絶に至るまで,様々な突発事故を考慮した細かい規定が定められることがありますが,日本国内の契約実務では,大きな柱は立てるものの,細部は「信義誠実に基づいて協議する」条項で広くカバーし,問題が起こったときに話し合って決めればよいという発想が、いまだに主流です(本来これでは契約書の意味を成さないのですけど、慣用的にまあよしとしてしまっています)。

     外国との取引では,国内企業同士の取引の場合と違って,決めておくことが望ましい大切な二つの事があります。それは,「準拠法」と「管轄」です。管轄は国内企業同士の場合にも重要です。
     準拠法とは,その契約にどこの国の法律を適用するかという問題です。準拠法は第三国法でもよいのですが,双方が他国の法律に準拠すると,法令調査がたいへんだという問題もあります。法律の内容によっては,日本の裁判所で適用されない条項もあり得ますので,出来れば,日本法を選択したいところです。
     次に管轄とは,その契約に基づく紛争が生じたときにどこの裁判所で解決をするかという問題です。これも準拠法とは別に,当事者が合意により決めることができます。国際取引の場合には,裁判管轄のほかに,商事仲裁機関を紛争処理における第一次専属管轄とする例も多くあります。例えば,中国には,中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)があり,日本では一般社団法人日本商事仲裁協会があります。

    2 特に国際売買取引について
     国際物品売買契約に関する国連条約(CISG 通称ウイーン売買条約)を日本が批准したことにより,2009年8月1日以降の国際売買取引に適用されることになりました。これ以前は,準拠法を定めない場合には,それぞれの当事国の法解釈により,どの法律を適用するかを決めていましたが,この条約適用後は,当事者間で別の合意をしていない限り,この条約が適用されることになります。なお,これはあくまでも売買契約が対象であり,運送契約や請負契約等には適用されません。

    3 準拠法を決めなかった場合
     準拠法や管轄裁判所を全く決めていなかった場合にどうなるかについて説明します。
     準拠法を決めていなかった場合には,まず自国の法律が適用されるかどうかを検討します。その場合の基準になるのは,平成18年までの契約であれば「法例」,平成19年以降であれば「法の適用に関する通則法」です。その内容には微妙な違いがあるので,いつの時期の契約なのかによっては解釈が違ってくる可能性があります。
     準拠法が決まれば,裁判管轄についてもその準拠法の定めにより決まります。
     裁判管轄はあるが,相手が外国会社であるという場合には,日本の裁判所へ提訴できますが,その際には,相手国の言語による訳文を添付して提訴し,相手国政府を通じたルートで相手に届けることになります。これにはかなり時間が掛かることもあると言われております。たいていの場合には日本に支店があることが多いでしょうから、あまりこのようなケースはないかもしれません(私は未だやったことがありません)。
     日本に管轄がない場合には,相手国の裁判所への直接提訴ということになります。その場合,相手国裁判所では,自国法に基づいて管轄権の有無を判断し,管轄がないと判断して却下することもあり得ます。また,準拠法に関する相手方からの異議により,改めて準拠法と管轄が問題となる可能性もあります。
     このように,準拠法や管轄を決めておかないと,内容の判断に入るまでに,門前で無益なやりとりを延々と続けなければならない羽目になりますので,注意が必要です。