インクボトル事件 中身を詰め替えて販売するケース

 問題となったのは、印刷機の製造メーカーXがその印刷機で使うインクを販売していたところ、別の会社Yが、X社のインクの空ボトルを回収して、自社製造のインクに詰め替えてそのままX印刷機用として販売したという事案です。X社はY社を訴えて損害賠償を請求しました。

 東京地裁は、Y社はボトルを回収して中身を自社製品に詰め替えるサービスをしているだけであるから、ボトルにX社の商標が記載してあっても、「X社商標を使用した」とは言えないとして、Xの訴えを棄却しました。
 しかし、東京高裁は、Yの顧客が、購入に当たって、X社インクではなく、Y社インクが充填してあることを知らないケースが取引の一部にあることを指摘し、単純に詰替サービスというだけでなく、積極的にX社ボトル(実はY社インク)を販売したということになる、と認定して、Xの訴えを認めました。

 文字にすると非常に意味が分かりにくくなりますが、要するに、中身を入れ替えたらそのことを顧客に分かるようにしないとダメだよということです。
 いかがでしょうか。最近は家電店に行くと、家庭用プリンタ向けにいろいろな詰替インクが売られていて、「メーカー純正」は比較的高く、非純正品はまったく同じ形でも安いのですけど、もし、非純正品に、メーカー名のみ記載されていて、中身が別会社のものだと記載されていなかったらどうでしょう。おそらく消費者は、メーカー純正品と同じものだと誤解して買ってしまうのではないでしょうか。
 上記の東京高裁判決では、そのようなことを避けるために、「この商品のインクはX社製造ではありません」という表示(いわゆる「打ち消し表示」)をすべきであったと述べています。そのような方法で、商品の出所については、消費者の誤解を避けるようにしなければなりません。
 ちなみに、「X社用」と表示して、非純正品を販売すること自体が商標法に違反するのではないかが争われた事例がありますが、裁判所は、代用品を販売する行為自体が商標法違反になるのではなく、商標表示が、販売する商品と組み合わされる商品を特定するために必要不可欠の場合であれば、商標の使用とはいえないと判断しているので、上記のY社インクが、「X社用」として販売されることそのものには、Xは文句を言えません。

 どうでしょう。ここまで読まれて、なんのことやら意味が分からなくなっていませんでしょうか。
 このあたりの細かい話は、法律的には、目的論的解釈をするという話で、法律は、その立法の目的に沿って解釈すべしという原則の応用問題となります。
 なんだか難しいなと感じられたら、法律の目的は何なんだということに立ち返って素直に考えると、案外正しい結論を出すことができるものです。
 最終的には専門家判断が必要ですが、日常業務でも思わぬ法令違反をしないためには、規制法の目的はなにかということを常に頭に置いて行動するとよいでしょう。

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