賞与も退職金も賃金の一部であり、いずれも金額が大きい場合が多いので、支給にあたっては、いろいろな法的紛争の元になり得ます。どちらも就業規則に規定がなければ、事業者側に支払いの義務は発生しませんが、多くの場合、就業規則で支給をうたっています。
まず、賞与について、比較的多いトラブルは、「支給日時点で在籍している場合に限り支給する」という就業規則に基づく不支給の例です。
賞与は、一般には、支給対象期間の労働に対しての「給与の後払い」だと考えられていますが、他方、賞与を支給するかどうかは労働契約上の合意の問題であって、支給日に在籍していない者には支給しないとする合意そのものは有効だとされています。
そのため、支給日直前に退職した人に、賞与を支払わないことが適法かどうかが問題となります。裁判例では、任意退職者の場合は、自分で退職日を選択出来るから問題ないとし、会社都合退職の場合には、自分で退職日を選択できないから、日割計算等によって、支払いをすべきだとするのが一般的です。懲戒解雇などの場合でも、特段の取り決めがなければ日割計算すべきですが、就業規則中に懲戒解雇者への賞与不支給を定めておけば、一応それによります(後日法的紛争になって、不支給が適法とされないケースはあり得ます)。
他方、会社の都合で賞与支給日が変更された場合には、本来支給すべき時期の在職者には支給しなければならないとされています。また、前回説明した年俸制の場合のように、期間中の賃金が総額で決められていて、賞与月が平月よりも多く設定されているようなケースでは、当然ながら在籍日までの日割により給与・賞与を支払う必要があります。
次に、退職金については、「給与の後払い」の性格と「功労報償」の性格があると言われています。この考え方の賞与との違いは、懲戒解雇された者には退職金全額を不支給とするとの就業規則の効力に影響します。給与の後払いであるからには、従業期間に応じて一定の金額が支払われなければなりませんが、功労報償であれば、懲戒により功労報償なしとすることは合理的です。
この点、裁判例では、20年間まじめに勤務した鉄道会社の会社員が、他社電車内での痴漢により2回も罰金に処せられたことを理由に、懲戒解雇した例で、退職金の3割を支給すべきとされたものがあります。
つまり、この裁判例では、給与の後払い部分もあるので、たとえ懲戒であっても、退職金の全額を不支給とすることは認められないとしたわけです。
一般論としては、どの程度の懲戒事由があるのかが問題とされますので、懲戒解雇した従業員に対する退職金の支給・不支給判断にあたっては、やはり対象従業員の納得する理由付けが必要と思われます。
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