Category: 法令

  • 労基法 賠償予定の禁止

     社員を留学に出して、新分野の開拓をやってもらおうと期待していたら、帰国した直後に退職して競合他社へ転職してしまった・・・
     資格試験の取得を金銭面・時間面でサポートして、会社の為に働いてもらおうと思っていたのに、合格したとたんに退職された・・・

     さて、こんな問題が起きないようにするためにはどうしたらいいでしょうか。
     もちろん、会社をずっとそこに居たいと思ってもらえるような魅力ある環境にすることがベストの答えですが、ここでは、ひとまずそれを置いておき、法的にはどのような可能性があるのか検討してみます。

     まず考えつくのは、雇用期間を長期にして、転職を防ぐ考えです。しかし、労働契約の期間は日本では原則最長3年(例外的に専門職・高齢者で5年)に制限されているので、それ以上の長期拘束はできません(特定プロジェクトのための雇用という方式はあり得ますが、あまり一般化できません)。

     次に、掛かった費用を記録しておいて、一定期間・内容で会社に貢献しないときに、会社が被った損害として、一定額の賠償を予定する方法が考えられます。しかし、この方法は、労働基準法16条により、労働契約の不履行を理由として違約金や損害賠償を予定することを禁止されている点で、問題を生じます。これに類する事例としては、
    ・早期退社の場合に、未払い給与・賞与から一定額を控除すると定めること
    ・勤続年数に応じて支給すると定めた退職金について、留学・合格等の後一定期間を経過しない退職者には支給しないこと
    ・退職後同業他社へ就職したときは退職金の全部または一部を返上すると約束させること
     などの多くのパターンが考えられますが、どれも違法・無効となる可能性が高いものです。

     また、上記の通り労働契約で拘束できないうえに、そもそも、仮に会社の損害があったとしても、裁判上、それを立証することは非常に難しく、不法行為に基づく賠償請求は非現実的です。

     以上の問題を回避するため、社員に対する援助を貸付としておいて、一定の期間会社に残らなかったら、返済してもらい、一定期間経過したら免除するという契約を交わしておくことが考えられます。このような方法による場合は、有効になるとされた事例もあります。ただし、貸付の返済という形を法律違反にしないためには、留学などの利益供与が、その社員の個人的な利益にもなることや、帰国後の就労期間をあまり長期にしないことなどの、細かな配慮が必要になってきますし、税務会計上も給料との区分や免除益課税の配慮等が必要となります。
     
     賠償予定の禁止に関しては、数多くの裁判例がありますので、社内規程作成にあたっては、それらを斟酌してよく検討しておくべきでしょう。

  • 職業紹介事業

     労働法分野で近年大きく動いているのが、人材派遣職業紹介の領域です。もともとは、人身売買手配師などによる中間搾取など、過去の労働者に対する人権侵害の反省に立って、労働者派遣や職業紹介は、原則的かつ広範囲に禁止されていました。しかし、自由に雇用調整をしたい使用者側からの要求が強く、むやみに規制を強化することは得策でないと考えられた結果、法規制は徐々に緩和され、今日では、派遣業・人材スカウト等の人材ビジネスが社会的な存在感をもつようになってきました。

     2014年1月現在、職業紹介制度がおおむねどのようになっているのか概観しておきましょう。

     まず、公共の職業紹介は「ハローワーク」で有名ですね。他方、民間による職業紹介は、有料か無料かで規制が違います。有料で職業紹介をする場合には、厚生労働大臣の許可が必要であり、なおかつ、港湾と建設の労働者については職業紹介できません。無料で職業紹介をする場合には、すべての職業を対象にできますが、原則としてやはり許可制(一部については届出制)です。かつては職業紹介事業者は兼業禁止で、営業供託金制度もあったのですが、現在ではいずれもありませんので、職業紹介事業主は兼業も可能ですが、事業認可を受ける際には、専業の場合よりも財政基盤や人材設備等の審査が厳しくなります。その他、講習会を受講した職業紹介責任者を選任する必要があります。事業規制のトレンドとして、このような責任者選任の仕組が流行っており、古くは宅地建物取引主任者がありますが、最近は貸金業務取扱主任者、マンション管理業務主任者など、いろいろな分野に広がってきました。

     有料職業紹介は、求人者(雇用主)から手数料(上限制の場合、1件につき670円)を受けるものであって、求職者(労働者)側に手数料を求めることは原則としてできません。

     例外的に、芸能家(放送番組・広告放送、映画、寄席、劇場等で音楽、演芸その他の芸能の提供を行う者)、モデル(商品展示等のため、ファッションショーその他の催事に出席し、若しくは新聞、雑誌等に用いられる写真等の制作の題材となる者又は絵画、彫刻その他の美術品の創作の題材となる者)については収入に関係なく、また、科学技術者(高度の科学的、専門的な知識及び手段を応用し、研究を行い、又は生産その他の事業活動に関する技術的事項の企画、管理、指導等を行う者)、経営管理者(会社その他の団体の経営に関する高度の専門的知識及び経験を有し、会社その他の団体の経営のための管理的職務を行う者)若しくは熟練技能者(職業能力開発促進法に規定する技能検定のうち特級若しくは一級の技能検定に合格した者が有する技能又はこれに相当する技能を有し、生産その他の事業活動において当該技能を活用した業務を行う者)については、就職後の年収が700万円を超える場合に限り、求職者からも手数料を受けられます。受けられる手数料の上限は法律で一定額・割合に定められています。
     また、芸能家、家政婦(家政一般の業務(個人の家庭又は寄宿舎その他これに準ずる施設において行われるものに限る。)、患者、病弱者等の付添いの業務又は看護の補助の業務(病院等の施設において行われるものに限る。)を行う者)、配ぜん人(正式の献立による食事を提供するホテル、料理店、会館等において、正式の作法による食卓の布設、配ぜん、給仕等の業務(これらの業務に付随した飲食器等の器具の整理及び保管に必要な業務を含む。)を行う者)、調理士(調理、栄養及び衛生に関する専門的な知識及び技能を有し、調理の業務を行う者)、同項のモデル又はマネキン(専門的な商品知識及び宣伝技能を有し、店頭、展示会等において相対する顧客の購買意欲をそそり、販売の促進に資するために各種商品の説明、実演等の宣伝の業務(この業務に付随した販売の業務を含む。)を行う者)に限っては、手数料670円を受けることができます。

     詳しくは、下記サイトをご参照ください。
    厚生労働省のサイト
    大阪労働局のサイト

  • 派遣労働の考え方

     派遣労働については、労働者派遣法(昭和60年成立、同61年7月1日から施行)以来、度重なる改正を経て、次第に規制が緩和されてくる傾向にあります。
     施行当初、適用対象業務は13種類に限られていましたが、同年10月にすぐに3業務が加えられ、平成8年12月には11業務が加えられました。そして、平成11年12月1日からは派遣対象業務を原則禁止例外許可から原則許可例外禁止へ(ポジティブリストからネガティブリストへ)改めました。併せて、派遣期間を原則1年とする制限を設けました。平成12年12月1日からは紹介予定派遣(派遣先で正社員候補として働く方式)が法制化され、製造業派遣も解禁されました。平成16年改正では、自由化業務の派遣期間を3年に延長し、旧政令26業務については派遣期間制限が撤廃されました。なお、現行法でも、建設・警備・港湾業務に関しては、派遣禁止(医療は一部可能)となっています。平成24年改正では、日雇派遣(30日以内の期間を定める場合)が原則禁止となり、労働契約のみなし申込制度(施行は平成27年10月から)が設けられるなど、労働者保護への配慮もされましたが、登録型派遣・製造業派遣は維持されました。
     派遣労働は、景気の好不調による雇用調整が正社員労働者に及ばないようにする仕組として機能している実情にあり、法律が当初想定した「専門的能力をもった、流動性のある人材活用」というイメージから遠くなりつつあります。平成16年改正の雇用申込義務の新設や、平成24年改正も、いわゆる「非正規労働者」が増えすぎて、雇用の不安定性が社会問題にまで至ったことが原因です。

     成立から25年以上になる現在でもなお、派遣法適用の場面では、いろいろな問題点を抱えています。
     その一つが、派遣先と派遣労働者との間の「黙示的労働契約」と言われる問題です。
     これは、派遣労働者を受け入れた派遣先が、単に派遣先というにとどまらず、派遣されてきた労働者との間でも、使用者の立場に立ち、明示的に契約を交わしていなくても、ある一定の条件が満たされれば、まるで、派遣先自身がその派遣労働者を雇用したのと同じような関係が成立するという考え方のことです。
     これを読んでどう思われたでしょうか。こんな労働関係が成立するとしたら、派遣先(派遣労働者を受け入れる側)の企業は、思いもよらない人員コストを負担せざるをえなくなる、非常に「怖い」状態に置かれていると言えるわけです。
     他方、労働者の側から見れば、派遣先が人事権を持っていて、給与の額まで派遣元に指示できるような関係にあったときには、派遣というのは名ばかりで、実際には派遣先に雇われているのと同じと考えても仕方がない事かも知れません。
     上記の例に限りませんが、企業としては、どのような人事労務管理政策をとるのかは、非常に重要な経営戦略の一つであると言えます。

  • 「労働者」とはなにか

     これもまた一般用語と法律概念とがストレートに結びつかない例の一つですが、基本的な考え方として、法律上「労働者」とは、「使用者」の「指揮監督に服し」て働き「賃金の支払いを受ける」人のこととされています。
     どうしてこのような定義が必要かというと、「労働者」であれば、労働法による保護(労働時間や休日、最低賃金、労災補償など)が原則適用され、「労働者でない」ならば労働法の保護は原則適用されないからです。
     会社(使用者)側からすれば、従業員が労働者でなければ、残業代も払わないでよいし、休日出勤も無制限で、賃金の規制もなく、労災保険料も払わないで済むという、非常に都合の良いことになります。そのため、質の悪い会社は、なんとかして会社の負担を減らそうと、いろいろな「工夫(脱法行為)」を試みてきました。
     例えば、以前話題になった「偽装請負・偽装派遣」などはその一種ですし、完全歩合制の代理店制度や、個人営業者への「業務委託」などの方法も、脱法行為に使われます。
     しかし、どのような脱法的な仕組を作っても、結局は「使用者の指揮監督に服し」「賃金を支払う」という二つの要素から、実際上の取扱をみて裁判所が判断しますので、上記のような労働法の適用を逃れようとする努力は、たいていの場合「無効」になります。
     裁判例によると、(1)指揮監督関係があること、(2)報酬が労務の対価として払われていること、(3)業務経費の負担、専属性の程度、服務規律の有無、租税公課の負担などの付随的要素、の3つをそれぞれの事案に応じて判断されています。
     要するに、会社で使っている個人が「労働者でない」といえるためには、その個人が会社の指揮命令に従う義務がなく(取引や労務を拒否したり、裁量で変更する自由がある)、報酬が時間給や日給ではなくて、業務成果に応じたもの(請負)になっているなど、完全に「自営業者」の実態がないとダメということです。
     人件費をはじめとする経費節減は、適法行為の範囲内で考えるようにしましょう。

  • 株主と株式

     法律用語で「社員」という場合、社団の構成員(株式会社では「株主」)であると説明しました。一般用語の「社員」は「従業員」の意味で、その場合法律用語では「使用人」といいます。
     「株主」は、株式の所有を通じて、その株式会社に対して資金を提供している立場になります。

     株主には、必須の権利2つと、会社の制度上任意の権利1つがあります(会社法105条)。
     必須の権利は、「剰余金の配当を受ける権利」と「残余財産の分配を受ける権利」です。会社の任意の設定による権利は「株主総会における議決権」です。
     必須の権利のない株式は定款に決めることができませんが、「議決権のない」株式を作ることは自由です。この目的は、「金はほしいが、経営に口を出してほしくない」会社にも投資家からの出資の機会を与えるという点にあります。この場合、株主は口を出せない代わりに、他の株主よりも配当を多くすること(優先配当権付無議決権株式)で、経済的な満足を付与するやりかたが一般的です。

     必須の権利その1の「剰余金」とは、要するに「配当可能利益」のことです。あくまでも配当可能な利益がある場合に、配当を受けられるという権利ですので、利益がなければ配当を受けられないのは当然です。この点、いったん利息の支払いを約束したら、会社が赤字であっても払わなければならない「社債の利息」とは全く違います(利益があるときだけ配当すればいいというのが会社にとっての株式のメリットです)。
     利益がないのに配当することは、「蛸配当・蛸足配当(蛸が自分の足を食べる様(…が本当にあるのかどうかはさておき)になぞらえて、こういいます)」といって、違法な配当となり、経営者は会社に対して賠償責任を負いますので、そのようなことはできません(粉飾決算をすれば別ですが、それでは重ねて刑事責任まで負いかねません)。

     必須の権利その2の「残余財産」とは、その会社が破産や清算などによって、存在しなくなってしまう場合に、全部の債権者へ弁済をした後になお残った財産をいいます。破産の場合に残余財産があることはまれですが、清算(自主廃業)のような場合には、多額の残余財産が生じることもあります。ちなみに、2001年に額面株式が廃止されるよりも前に発行された株券には額面額が記載されていますが、これはあくまでも発行時点でそれだけの払込金があったという事実を示すだけであり、株主が、いつまでもその券面に書かれた金額を会社から払い戻してもらえるということではありませんので、誤解のないようにしてください。
     それらの必須の権利であっても、法律で決められた範囲内であれば、内容に差をつけることが認められています。例えば、優先配当をする株式(優先株)や、逆に他の株主よりも不利な条件で配当を受ける後配株(劣後株)などがあります。
     株式は複数の株主で「共有」することもできます。例えば、株式を遺産相続した場合や、持株会で保有した場合などに共有になることがあります。共有になったときには、株主のほうで「議決権行使者」を決めないと、原則として権利行使できません(会社法106条)。
     株主は、上記のような数種類の株式を持つことがありますが、原則として同じ種類の株式の株主は、その持ち株数に応じて「平等」に扱わなければいけません(会社法109条)。A株主は名誉会長だから配当2倍、B株主は従業員だから配当半分という扱いは、どちらも同じ種類の株式であれば、できません(そのようなことをするときは、別の種類の株式として発行する必要があります。なお、非公開会社では定款での定めなら可 2項)。

  • 株式・株券

     株式は、株式会社のあらゆる財産価値(資産、負債のほか貸借対照表や損益計算表に乗らない得意先関係や人材などの無形的資産などを含めた総合評価)を一身に集めた存在です。その存在を、投資や取引の対象とするために作られたのが株券であり、株式取引はまさに人間の知恵を集約したシステムです。

     最初の株式は、会社設立の際に、出資者が「引き受ける」ことにより誕生します。そのときの引き受け価額が、「出資の額」となり、株式の原始価格となります。それと同時に、出資者の会社債権者に対する責任は、この出資額の範囲に限定されます(会社法104条 有限責任)。この有限責任の仕組は自由主義・資本主義経済の拡大に大きく寄与しました。もし、この有限責任のシステムがなかったら、出資者はその事業に関わったというだけで、会社の債権者からの追求があれば、全財産を持ち出してでも返済しなければならなくなります。これに対して、有限責任ならば、最初の出資分が戻ってこないことだけ覚悟すればよいので、リスクが限定でき、その分いわゆるハイリスクハイリターンの事業にも積極的に関わっていくことが出来ます(残念ながら、日本市場でのリスクテイクを阻害しているのが、会社の代表者を連帯保証人にする制度と、リコースローンと呼ばれる抵当権制度ですが、このことは又後日機会があれば説明します)。

     株式は、会社の価値を体現するものであることから、会社が繁盛してその価値が上がってくると、当初の出資額以上でもその株式を買い取りたいという人が出てきます。逆に、会社の価値が下がると、当初の出資額を下回ってでもだれかに株式を譲り渡して資金を取り戻し、別の事業へ振り向けたいという人が出てきます。このような流動性の発生を多くの参加者を集めることによって収拾するのが株式市場です。現代の株式は、会社経営者・投資家の様々な思惑から、非常に複雑な仕組になっていて、どのような場合にどんな内容の株式を発行できるのか、会社法で細かく決められていますが、株式が会社の価値の表現であり(法104条)、それ自体を取引できる(法127条)という点は基本です。

     以上のように、株式は本来的には株式市場で自由に取引されることが原則ですが、経営者=株主であるような場合には、同じ経営者・株主仲間や、非経営者株主(外部出資者)との間で、会社の実質的支配権を巡って、争いになることがあります。また、株式には前記のような会社そのものの持分を意味する財産価値がありますので、その相続が発生すると、親子間・兄弟間・遺族と会社経営陣の間などで、いろいろな法律紛争が発生してしまいます。そのため、会社法は、株式の譲渡について、会社の承諾を必要とする旨を定款で定めることを認めています(法107条1項1号)。そのような定めのある会社を「非公開会社」といいます。非公開会社であっても、一定の事情が発生したときに、株主の不利益にならないように、会社がその株式を買い取らなければならない場合があります(法116条)。

     かつては株式には「株券」が必須でしたが、現在では、会社の種類を問わず、原則として株券発行不要であり、株券を発行する場合には定款にその旨記載するという仕組に変わりました(法214条)。従来の株券取引ルール(譲渡・質入れするには株券必要とか、名義書換に提示必要など)は、「株券発行会社」に限って適用されることになります。

  • 商号と商標の違い

    違いをまとめました

    商号 商標
    意味 会社の名前(1社に一つ) 商品やサービスの名前(1社が多数持つことも可)
    登録 法務局・登記 特許庁・登録
    根拠 会社法,商業登記法 商標法
    記号 なし(法務局の認める文字でないと登記不可) あり(記号や図形も登録可)
    期間 有効期限なし 10年ごと更新必要

     会社が大きくなり、需要者に周知されてくると,その名称そのものが一種の財産的価値を帯びてきます。ネームバリューとも言われます。
     最近では,コーポレイトアイデンティティ(CI)とか,ブランディングということで,広告業者や特許事務所などが,商号と商標の同時登録という広告戦略を勧めているようです。商号の登記・維持には登記費用とその後の変更登記費用がかかり,商標には出願登録時に約20万円くらい,更新時(10年ごと)に10万円くらいの費用がかかります。かといって,それだけの価値を生み出した時点で出願しようとしても,先に登録されてしまったりすることがあり,ブランディングの観点からは、著名にならないうちに先取りしておかなければなりません。
     商号や商標を不正に登記・登録・使用することは、民法や不正競争防止法により損害賠償請求の対象となります。不正使用の被害拡大を防止するための差止という方法もあります。
     ちなみに、「商標権」は知的財産権の一種です。このほか会社関連では、「意匠権」という言葉もよく出てきます。
     「意匠」は、物のデザインを保護する仕組で、商標と同じように特許庁の登録が必要です。製造企業では非常に重要な権利といえます。非製造企業では、サービスそのものの名称である「商標」のほか、独創的なサービスの仕組を一定のシステムと結びつけることで、「特許」を取得することが考えられますが、ありふれたアイデアはすでに登録されていることが多く、非常に多くの先行事例があるので、さらにその先を行く新しい発想が必要なため、なかなか狭き門といえます。

  • 離婚問題:養育費は子どもの権利とみるべきことについて の注意喚起

    注意喚起です。

    ネット情報を検索すると、「養育費の請求を、離婚協議書の包括的放棄・清算条項で阻止できる」という趣旨の情報が流布していますがかつて見られましたが、これは、明らかに間違いです(この記事を書いてから?ほぼなくなったようです 2014/10/20 追記)。

    財産分与慰謝料は、夫婦間の債権債務関係に基づくものなので、清算条項の範囲に含まれます。そういう意味では、包括清算条項は確かに有用です。しかし、養育費は子どもの権利(扶養請求ですが、未成熟子の扶養を養育というようです)なので、夫婦間の放棄合意(増減不可合意も)は処分権がないという意味で無効(民881)であり、夫婦間の合意としても公序良俗違反で無効になります(一定の当事者間効力を認めないわけではないけれども、子の福祉が最優先になるので、それに抵触する限りは公序良俗違反であるということ)。

    養育費は、子どもの必要を満たすために、夫婦の資力に応じて分担しあう支出ですので、夫婦の資力の変化や子どもの必要具合の変化に応じて、いつでも権利者・義務者双方から増額・減額の請求ができるものです(協議がつかなければ、家庭裁判所に「養育費増額・減額請求調停の申し立て」ができます)。

    夫婦間でとりあえず養育費内容を決めているのは、あくまでも子の福祉のための後見的配慮であるわけで、そういう意味で、個人的には、養育費については当事者の調整任せにしないで、もっと家庭裁判所の職権的な判断を強く出してもいいのではと思っていますけれども。。。

    協議離婚の公正証書に記載される包括放棄清算条項に、規定以上の養育費の請求放棄まで含まれているように当事者が理解していたとしたら、それは誤りですが、もしかすると公証人が、そこまで丁寧に意思確認してくれないかもしれませんので、上記のような誤情報に基づく一定数の錯誤が発生していて、そのうち紛争になる可能性はあります。

    繰り返しますが、養育費を包括放棄し、あるいは増減不可とする内容の離婚協議書の条項は、無効ですので、ご注意ください。

  • 商行為・商事契約のまとめ

    会社法は,わざわざ「事業行為」と「事業のための行為」を「商行為」だと決めています(会社法5条)。なぜ「商行為」という定義が必要なのでしょうか。
    それは,「商行為」であるかないかによって,「民法」「商法」のどちらが適用されるかが決まるからです。
    もともと,会社法は,平成18年改正までは「商法」の一部として規定されていました。いまでも「商法」という法律は残っていて,そこに「商行為」が規定されています(商法501条、502条)。
    商行為であるとき(商事)とないとき(民事)の、法律行為に関する違いは次の通りです。これらの規定は商行為全般に適用されます。

    商事 民事
    代理・顕名(本人のためにすることの表示) 不要(商法504条) 顕名必要(民法99条)
    委任 明示的委任外の行為も可(505条) 明示的委任範囲に限る(643条)
    委任による代理権 本人死亡により消滅しない(506条) 本人死亡で消滅する(653条)
    申し込み 直ちに承諾しないと申し込みは失効(507条) 民法には規定なし
    隔地者申し込み 相当期間内に承諾しないときは申し込み失効(508条) 承諾の通知を受けるのに相当な期間経過を要す(524条)
    諾否通知義務 通知義務あり・見なし承諾あり(509条) なし

    また,商事契約に関しては次のような違いがあります。

    商事 民事
    多数当事者の共同債務 当然に連帯債務(511条) 当然には連帯債務にならない(452条)
    委任の報酬 当然に相当額を請求できる(512条) 当然には報酬請求はできない
    貸金の利息 当然に商事法定利率(年6%)を請求できる 利息の取り決めをしなければ請求できない。
    流質処分 流質できる(515条) 流質できない(349条)
    債権の消滅時効 原則5年(522条) 原則10年(167条)

    要するに,一般民事よりも,素早く・簡単に物事をすませようというのが「商事」の基本的発想になっています。
    このほかにも当事者双方が商人である場合の売買については,次のような特別な取扱がされています。

    • 受領拒否・受領不能の場合に裁判所の許可なく競売が可能(商法524条)
    • 履行期日が重要な意味を持つ売買で,履行期が経過してから直ちに履行を請求しないときは解除とみなされる(商法525条)
    • 買主は通常の瑕疵は遅滞なく通知しなければ瑕疵担保・損害賠償責任を追求できない(商法526条)

    前記の商事法定利息(商法513条1項)は,両当事者にとって商行為である場合に限り適用されます。つまり,貸すほうは同じ貸金会社でも,商人に貸せば当然に商事法定利率(6%)で利息の請求ができますが,商人でない人に貸した場合は利息を約定しないと利息が取れません(利息を決めても利率を決めなければ5%です)。

  • 会社の種類について超まとめ

     前回は個人と会社について述べましたが,今回は,会社の種類についてです。
     会社は,次に述べるようないろいろな区分がされています。大きな目的は,会社の規模に応じて,柔軟な法規制をすることですが,会社の内部組織をどのようにするかは,重要な経営問題でもあります。

    ・資本形態 株式会社(特例有限会社含む),持分会社(合名会社,合資会社,合同会社)
     会社のオーナーは,その会社の「株式」ないし「持分」を支配している人のことです。株式会社では「株主」持分会社では「社員」と呼びます。一般用語での「社員」は「従業員」と同じ意味で使われていますが,法律用語としての「社員」は社団(人の集まり)の構成員という意味です。
     非公開会社の場合は創業者・創業家が株式等を独占していることが多いのですが,公開会社は,性質上単独支配が難しく,株主総会・社員総会の運営が問題になります。
     有限会社は,2006年法改正で「株式会社」と見なされることになり,それ以後は新設できません。従前の有限会社は「特例株式会社」として以前の有限会社に近い内容での存続が特例として認められています。
     持分会社の違いを理解するには,有限責任・無限責任の考え方の理解が必要です。何が「有限・無限」かというと,もし,その会社が倒産した場合に,債権者に対して,「出資の範囲内・会社にある財産だけで責任を負う(=有限)」のか,「出資額を超えて・会社の財産がなくても、個人としての財産まで提供する責任を負う(=無限)」のか、ということです。「合名会社」は,社員全員が無限責任ですが,「合同会社」では全員が有限責任です。「合資会社」は,無限責任社員と有限責任社員の両方がいます。「株式会社」の社員は全員が「有限責任」です。つまり、株式会社の株主と、合同会社の社員は、会社の債務を保証していない限り,出資額の範囲で(つまり,株式が紙くずになって,会社が解散しても払戻額は0円になるという意味で)責任を負えばよいわけですが、無限責任社員は、会社に財産がなくなったら、個人の財産から会社の債権者に対して弁済しなければならなくなります。

    ・公開性 非公開会社・公開会社・上場会社 同族会社・非同族会社
     公開・非公開は、会社の株式を誰が保有できて,どのように入手できるかの違いです。基本的に株式の譲渡を認めていないのが非公開会社(閉鎖会社ともいいます)です。公開会社は,株式の譲渡が原則自由であり,だれでも株式を持てるという意味で公開されています。このことをいっそう徹底して,株式を証券市場で不特定多数の投資家の売買にさらす会社を上場会社といいます。上場が起業家の成功の証拠のように言われていますが,上場に伴うコスト・リスクとメリットをよく考えないと、大失敗してしまいます。非上場化の手法としてMBO(経営陣による会社の買い取り)があります。
     同族・非同族は、法人税の場面で区別されている種類です。要するに,同族支配(出資者一族とのつながり)が強い会社の場合には,個人・家族資産と会社資産の区分が不明瞭になりがちなので,規制をかけているわけです。

    ・系列・実質的支配関係 親会社・子会社
     基本的には、議決権の半分を超えて保有しているほうが親会社で,保有されているほうが子会社です。ただし、「経営を支配している(法2条4号)」「財務及び事業の方針の決定を支配している(施行規則3条3項)」という拡張した定義概念がありますので、具体的にどういう関係であれば親子会社といえるのかはそれらの規定に従ってチェックされます。
     一般用語では、元請け・下請け関係のことを,親会社・子会社と言う例もまれにあるようですが、議決権による関与がない場合には,その言葉遣いは法的に間違いです。

    ・資本の規模 大会社,中会社,小会社
     会社法では,資本金5億円以上,負債200億円以上を大会社と規定して,厳しい規制を掛けています。中会社・小会社は中小企業基本法や法人税法などで,各種の優遇措置対象としての定義がされています。くわしくは、中小企業庁のサイト等をご参照ください。

    ・組織 取締役会,会計参与,監査役,監査役会,会計監査人,委員会 等の設置会社
     かつて、株式会社には3人以上の取締役を置かなければならず,必ず取締役会がありました。しかし,現行法では,取締役は1人または2人以上と規定され、かつ、取締役会の設置も会社の任意になりました。例外として,公開会社,監査役会設置会社,委員会設置会社には取締役会の設置義務があり、その場合には取締役は3人以上置かねばなりません(法331条4項)。そのほかの機関も置く必要があるかどうかは,法律の規定により必要とされる場合と,会社の任意による場合とがあります。

     他にも,民法上の組合(民法667条),匿名組合(商法535条),有限責任事業組合(LLP法),投資事業有限責任組合(LPS法),特定目的会社(SPC法)などが,共同事業やファイナンスのスキームで用いられています。

     以上のように,会社組織や共同事業の形態には様々な構成方法があり,規模の大小にもよりますが,それぞれにメリット・デメリットがあります。取引関係法や内部統制はもちろんのこと,税法上の取扱にも大きく影響します。そのため,事業を展開して他の事業者と提携・合併する場合や,会社の規模を拡大・縮小するには,どのような組織形態がよいのか,その都度、税理士・公認会計士との相談もして、慎重に検討する必要があります。