今回は競争業者を意識した秘密管理の問題についてです。
多くの裁判例がありますが、要点は、対象となる資料・情報が(1)どの程度秘密として厳格に管理されていたか。(2)どれくらい有用であるか。(3)公知のものでないか。の3点です。
とある裁判例を見てみましょう。
事案は、墓石販売業者の元従業員が、①会社にある顧客名簿(電話帳から見込み客として抜粋したものも含む)、②取引のあった顧客情報の管理簿、③墓地使用契約書、④墓地来訪者名簿、⑤墓地・墓石の加工図、⑥墓石の原価表を、自ら設立した独立後の新会社に持ち込んで、その営業に使ったというものです。
裁判所(東京地裁)は、①~⑤全部について(1)秘密管理性と(2)有用性を認めました。しかし、⑤と⑥は墓石の外観と価格が載っているだけのものであり、すでに公知(社外の者でも容易に知りうる)と判断されました。この事案で、販売業者が得られた損害賠償金額は630万円でした。
個別に要件を見ますと、
(1)秘密管理については、「テレアポ専用の部屋に、責任者が決められて、①と②は施錠可能なロッカー内に保存され、③と④は社員が日常業務で使う事務室内の営業課長の引き出し内に保管されていた。⑤は事務室内の書棚においてあり、⑥は営業課長の机の引き出しに保管されていた。会社は、営業資料を営業活動以外に使わないように指導を徹底していた」という状況でした。
本件以外の裁判例を見ると、このあたりの認定は、裁判所によって比較的判断が分かれやすいところですが、弁護士の感覚からすれば、この墓石事案は、その程度でも秘密管理性が認められる可能性があるというぎりぎりの案件かと思われます。
一般的には、専用の施錠可能な保管場所を決める。一定の役職者以外閲覧できないようにする。社外秘情報であることを明示する。等の措置が必要であり、鍵のかかっていない書棚においてあり、社員誰もがいつでも参照できるようなものは、事案によっては秘密管理性が否定される危険があります。また、それらの事実を後日に裁判上で立証するため、保管場所の整備や責任者の定め、文書・情報管理規定の作成、秘密保持契約など、客観的証拠を整備しておくほうがよいでしょう。
(2)有用性について、裁判所は、「①②には、継続的な営業(テレアポ含む)で得られた補足情報が含まれており、無差別に電話・訪問営業をするより効率的な営業が可能になる」「③④には関心を持って来訪した見込み客の情報が載っており、成約に至る可能性が高い顧客資料として有用である」「⑤⑥は①~④と比べるとそれほど有用とは言えないが、一応の有用性はある」と述べています。ただ、⑤⑥は結果的に公知と判断されており、端的に営業上有用な情報とまでは言えないとの判断もあり得たのではないかと思われます。
(3)公知・非公知を区別するには、営業に関連して社外の業者等にその資料を示す機会があるのかどうかという視点で見るとよいでしょう。加工図や原価表は、状況によっては加工業者や顧客に対して示す可能性もある資料ですし、上記事案でもそのようなものとして扱われていたのだと思われます。その場合には、当該加工業者や顧客との間でも、当該情報が秘密であること、その秘密は外部に出さないことについての了解がなければ、非公知だというのは難しいでしょう。
御社には営業上の秘密と思われる情報はおありでしょうか。この機会に情報管理について一度検証してみてはいかがでしょうか。
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