どちらも「使用権」ですが、頭の「専用」「通常」部分が違っています。また、「独占的通常使用権」という言葉も商標許諾契約のタイトルによく出てきます。
この「専用使用権」と「通常使用権」は、使用権という言葉は同じでも、法律的な性質は全く違ったものです。
民事的な権利関係では、「物権」「債権」の区別がされており、「物権」というのは、権利の設定・譲渡当事者間だけでなく、それ以外の第三者に対しても、ある一定の要件(登記・登録・公示・占有)が満たされれば、法律上主張できる権利のことです。「債権」というのは、権利の設定・譲渡当事者の間だけで主張・行使できる権利のことです。
物権である「所有権」であれば、AさんはBさんに一つしかないX物を譲った以上、Cさんには同じX物を譲れないので、Bさんは、一定の要件(登記・登録・公示・占有=対抗要件)を満たせばCさんに対して、自分が優先することを主張できます。
他方、債権である「賃借権」の場合、一つしかないX物を先に借りる約束をしたBさんも、後から同じX物を借りる約束をしたCさんも、Aさんに対しては、全く同じ内容の権利を取得し、BさんとCさんとの間には、優劣がつきません。そのため、BさんもCさんも、Aさんに対しては、約束通り貸すように請求できるのですが、Bさんは自分が先に借りる約束をしたのだから、Cさんより自分が優先するのだという主張をすることは、仮に実際に先に借りる約束をしていたとしても、使用時期が定められていない限りは認められません。つまり、その場合に、X物が一つしかなければ、Aさんは矛盾する約束を抱え込むことになり、BさんかCさんか、実際に貸せなかったほうに対しては損害賠償をしなければならない立場になります。
商標の場合、「専用使用権」が上記の「物権」に類似し、「通常使用権」が上記の債権に類似します。
次の問題は、「通常使用権」に「独占的」と付いた場合にどうなるかということです。結論としては、「通常使用権」であることは、「独占的」という冠をつけても、変わりませんので、AさんBさんの間で、Z商標を「独占させる」という約束をしたという「債権的」関係となります。
つまり、AさんはBさんと契約した後にCさんにもZ商標の「独占的通常使用権」契約をすることは可能であり(故意にやれば、それはAさんのCさんに対する詐欺になるわけですが、ここではさておき)、Bさんは自分が「独占的」契約を先にしているから、Cさんの「独占」は認めないという主張をすることは許されないということになります。
さて、ここからまた次の問題が出てきます。
では、Bさんが独占的通常使用契約に基づいて、先にZ商標を実際に使用し始めていたとして、商標権・使用権を持っていないDさんが、類似商標の使用を始めたとしたらどうでしょうか。
上記の説明でいくと、Bさんは、債権(通常使用権)しか持っていないので、第三者であるDさんの販売に対して文句を言えないということにもなりそうです。そうすると、もともとの商標権者であるAさんがDさんに対して損害賠償をするしかないことになります。
しかし、裁判例・学説の有力説では、その債権の行使が第三者により妨げられるケース(第三者による債権侵害)では、その第三者が他人の権利を侵害するという認識を持っていれば、債権に基づいて妨害排除や損害賠償請求などの権利行使が第三者に対して可能だとされています。
つまり、BさんはDさんが悪意であること(A・Bが当該商標の権利者であることをDが知っていること)を主張・立証すれば、Dさんに損害賠償等の請求ができることになります。
いかがでしたでしょうか。民法に基づく権利関係は、上記のように、当事者間や対第三者との間で、どのような法的主張が可能であるのか、またそのための要件として何が必要かという決まり事に基づいて組み立てられています。この法的適用を学術的に学ぶのが民法学であり、それを実社会に応用して問題解決を図るのが法曹・司法です。
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