並行輸入という言葉は、もしかしたらかなり耳になじみのある言葉かもしれません。
一般的な意味合いとしては、日本国内に正規代理店がある場合に、その代理店から買わないで、他国にある販売者(これも正規・非正規両方あります)から購入することです。安易に考えていると大変痛い目を見ますので、なにが問題なのかを理解してから、取引に取り組まれるようにしてください。
まず、商標は、各国単位での申請になりますので、商標権者は、自社製品を販売しようとするそれぞれの国で、商標権の登録をしなければなりません(一括申請という便法はあります)。
外国の商標登録をしている会社から、正規代理店契約を持ち掛けられたとします。この場合、その外国会社が日本で商標権を持っているかどうかをまず確認する必要があります。日本のパートナーが見つかれば日本でも商標登録するという流れで代理店契約を結ぶ場合もあれば、日本の商標登録はすでに持っていて、それを譲渡したい、あるいは使用権を設定したいという話の流れもあり得ます。
ちなみに、国内商標権の譲渡とは、その商標権を日本国内では元の会社が主張しないという結果になる取引であり、使用権の設定とは、商標権は引き続き元の会社が主張するが、一定のルールに従って設定を受けた人(商標使用権者)が使用する限りでは使用の承諾をするという取引です。例えば、世界の各地域に製造工場があり、ある工場から出荷される製品に限っての販売権を設定されること(製造地制限条項)や、使用権者が独自に製造工場を立ち上げたり、既存の製造工場に生産を委託したりすることを制限すること(製造者制限条項)などの条件が付けられた取引契約です。
原則として、商標権者でない人が、日本で登録された商標品を、商標権者の許諾なしに海外から輸入することは商標法違反になります。しかし、海外の販売業者が商標権者から正規の許諾を受けていて、国内と海外の販売業者がその商標権の保護について共通の利益を持っていて、商標権を付した商品の品質管理にも一定の関与ができるという場合には、商標権を実質的に侵害しない適法な並行輸入であるといわれています(最高裁平成15年2月27日フレッドペリー事件)。
さて、さらに複雑なことに、ここに「特許権」の問題が加わると、また違った局面が出てきます。たとえば、日本と国外の両方で特許権を持っている製造販売業者があるとして、国外で製造販売されたその特許商品を、特許権者でない人が日本へ輸入して販売することは適法でしょうか。この点が問題になった判例にBBS事件(最高裁平成9年7月1日)があります。この判例によれば、国外で販売されたものは、販売後の転売等が契約で禁止されていない限り、自由に再販売できるのであり、それは特許権者のいる日本への輸入であっても同様に自由であって、特許権侵害にならないと判断されています。商標権のケースとの違いは、特許権者が許諾していなくても、海外で販売された特許商品を輸入できるということです(国際消尽がない)。ただし、特許商品が商標権を伴うものであれば、商標権侵害に関しては、上記の商標権の基準が適用されることになりますので、実際上は、主として商標権侵害が問題になることのほうが多いでしょう。
並行輸入は、上記のように、販売者のもつ権利がどのような制限を受けているのか、国内と国外の販売者がどのような関係にあるのかをしっかりと確認しないと、「危ない」ですから、くれぐれも貧乏くじをひかないように用心しなければなりません。
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