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月の土地販売について雑感 補足

 以前から,月の土地問題は,閲覧回数の多い記事なのですが,イベントがらみのプレゼント需要に関連してか,最近再び上昇しているので,補足情報を入れておきます。

1 基本の基
1-1 所有 「所有」(大きくいえば財産権)制度は,地球の中でも国によっていろいろと制度が違っていて,動産にしろ不動産にしろ,だれが,どうやったらそれに関する権利を取得できるのか,また,二重所有権のトラブルはどのように解決するのか,という諸問題は,それぞれの国の民事法によって,細かい取り決めがされています。
 要するに,「所有」という概念は,そのような所有権を守るための法制度(ルール)のない所にはあり得ないわけです。
1-2 領有 国がある一定の地域に対して,自国法の適用を主張して現実に占有した場合,それを他の国が認めてくれれば,「領土」となります。
 隣接国がそれに反対すれば「領土問題」が起きます。我が国でも過去のいろいろな経緯から,多くの領土問題が起きています(領海についてはさらに状況が複雑なので,ここでの記述は,領土の点に絞ります)。
 前記1の通り,「所有」のあり方は法制度によるので,日本国領土については,日本国法に従って,日本国民が所有できます。
 外国に関しては,その外国のそれぞれの法に従って,人や法人が所有できるかできないか決められます。
1-3 まとめ・出発点
 ここまでに書いたことが基本です。
 それでは地球外の土地についてはどうなのか・・・というのが「月の土地問題」の発端になります。
 この点については,宇宙条約月協定(Agreement Governing the Activities of States on the Moon and Other Celestial Bodies)があり…という話が言われているわけで,基本的には宇宙条約の批准国(United Nations Office for Outer Space Affairsによると195カ国だそうで,アメリカ合衆国・日本も含まれています)に関しては,この条約が生きている限り,地球外天体に領有権を主張することはありません。
 いずれにしろ,宇宙条約下では,日本が月の領有権を主張しないので,日本国民としては,日本の法律による所有権としての月土地所有権を保護されることはないわけです。

2 ネット上に見るいろいろな誤解
2-1 法律の適用範囲について
 基本の基でも書きましたが,「所有権」は法律制度上の概念なので,一定のルールを考察する場合は,そのルールの適用範囲の要素(場所,人,時期・期間,対象物など)を確定したうえで,議論することが必要です。このことはまず押さえておきましょう。この原則が分かっていれば,この問題についての認識をもっと深めることができると思います。
2-2 無主物先占について
 法律用語でいうと,無主物先占は日本国民法239条1項で,「日本国領土内」に適用される「動産」に関する規定です。
 つまり,月の土地問題(日本国領土外)でこの概念が出てくる余地はありません。ちなみに所有者がない不動産(海底が自然に隆起して出来た土地・・・そのほかの例ってどんなのありますかねえ・・・)は最初から国のものです(同2項)から,クルージング中に領海内で新しい島を発見して上陸しても,個人的な所有権は認められません。海面の埋立などで土地を作った場合については,公有水面埋立法というルールがあります。日本国外でも,当然に,それぞれの国がそれぞれの内容で所有権を規律する法律制度をもっているわけです。
 事実上の先占がやがて所有権へと変化していく例は,たとえばアメリカ合衆国の黎明期や帝国植民地などで歴史的に見られますが,このことと,法律学上の無主物先占とは議論の位置づけが違います。
2-3 登記について
 登記をしなければ土地所有権を「対抗」できないとしているのは,「日本」の「不動産」に対する取扱に過ぎないので(民法177条),月の土地問題で、現状ではこの概念は出てきません。また,登記(登録)をしなければそもそも「所有権」を取得しないという制度をもつ国(ドイツなど)もあります。ちなみにアメリカ合衆国の場合は譲渡証書の登録が対抗要件です(アメリカは宇宙条約批准国なので,月の領有権を主張せず,当然ながら月面土地の譲渡証書を登録する制度も設けていません)。

3 現状に対する見解
 ネット上で多くの方が述べられているように,現状販売されている「月の土地」は,おそらくそのまま土地所有権に変化していく可能性は限りなくゼロに近いものです。中国版の月面土地販売(月球村事件・2005年)では北京市の工商当局が,投資関係法違反で営業停止・罰金の処分をした例(裁判でも販売業者が敗訴)がありますが,日本語版の某社サイトにも,「月に鉱物資源があれば土地所有者の利益になる」趣旨の記述が見られます。もし準拠法が日本法になるとすれば,おそらく消費者契約法4条1項に抵触して契約取消を主張できることになるでしょう。
 単なるファンタジー世界の話として受け止めるのであれば,取消云々のヤボな話はナンセンスということになりますが,かえって,月面を切り売りするという話に「ファンタジー」感をもつような感性は,正直どうよと思います。小ぎれいな紙切れの対価が一私企業の利益としてむなしく消えていくだけならば,むしろそれと同額をWWFユニセフへ寄付するほうがよほどよいと思います。残念ながら,日本の宇宙開発(JAXA)へ直接寄付することは現状できないようです。


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