Category: 法令

  • 内容証明作成の目的と弁護士の事件選択について

     サイト上に,内容証明作成の事件依頼についてお問い合わせを頂きました。

     申し訳ありませんが,メールによる個別の相談や,当サイトからの相談依頼は,現状お受けしていませんので,一般論として弁護士への事件依頼についての考え方を述べて,回答に代えさせて頂きます。

     結論からいうと,法的請求権の裏付けのない内容証明は作成できません。
     例えば,医療過誤について医師の責任を問う内容証明を出すためには,少なくとも,診療記録を全部検討し,専門医の意見を聴取し,自分なりに医学文献や裁判例等を調査したうえで,医師に対して法的責任を問える可能性があると判断できることが,内容証明作成の前提条件です。

     どんな弁護士もそうだろうと思いますが,弁護士が仕事を受ける場合には,最後まで責任をもてると考えた事件のみを引き受けます。
     その条件は,事件の種類によっていろいろですが,おおまかなところでは,次のようなチェックポイントがあります。
    ・依頼された事件が,訴訟手続を使って解決できる問題であり,かつ,訴訟手続を使ってでも解決すべきであること
    ・依頼者の要望する結果あるいは手段が,違法・不当・不可能でないこと
    ・もし,自分がその事件を自分のこととして捉えた場合に,自分の良心に従っても,同じように進められること
    ・依頼者がリスク・コストを理解しており,最悪の結果になった場合でも依頼者において受容が可能であること

     これらの観点からいうと,法的権利性のあいまいな問題(例えば,過失の有無が分からない医療事故,口約束に基づく貸金請求など)については,どうしても受任に慎重にならざるを得ません。

     弁護士になったとき,先輩弁護士から,「たとえ依頼者の話であっても,責任が持てるようになるまで,安易に乗りかかってはいけない」と,教わりました。これは,依頼案件を責任を持って戦うためには,ときとして依頼者さえ疑うことが必要というパラドクスです。

  • 月の土地販売について雑感 補足

     以前から,月の土地問題は,閲覧回数の多い記事なのですが,イベントがらみのプレゼント需要に関連してか,最近再び上昇しているので,補足情報を入れておきます。

    1 基本の基
    1-1 所有 「所有」(大きくいえば財産権)制度は,地球の中でも国によっていろいろと制度が違っていて,動産にしろ不動産にしろ,だれが,どうやったらそれに関する権利を取得できるのか,また,二重所有権のトラブルはどのように解決するのか,という諸問題は,それぞれの国の民事法によって,細かい取り決めがされています。
     要するに,「所有」という概念は,そのような所有権を守るための法制度(ルール)のない所にはあり得ないわけです。
    1-2 領有 国がある一定の地域に対して,自国法の適用を主張して現実に占有した場合,それを他の国が認めてくれれば,「領土」となります。
     隣接国がそれに反対すれば「領土問題」が起きます。我が国でも過去のいろいろな経緯から,多くの領土問題が起きています(領海についてはさらに状況が複雑なので,ここでの記述は,領土の点に絞ります)。
     前記1の通り,「所有」のあり方は法制度によるので,日本国領土については,日本国法に従って,日本国民が所有できます。
     外国に関しては,その外国のそれぞれの法に従って,人や法人が所有できるかできないか決められます。
    1-3 まとめ・出発点
     ここまでに書いたことが基本です。
     それでは地球外の土地についてはどうなのか・・・というのが「月の土地問題」の発端になります。
     この点については,宇宙条約月協定(Agreement Governing the Activities of States on the Moon and Other Celestial Bodies)があり…という話が言われているわけで,基本的には宇宙条約の批准国(United Nations Office for Outer Space Affairsによると195カ国だそうで,アメリカ合衆国・日本も含まれています)に関しては,この条約が生きている限り,地球外天体に領有権を主張することはありません。
     いずれにしろ,宇宙条約下では,日本が月の領有権を主張しないので,日本国民としては,日本の法律による所有権としての月土地所有権を保護されることはないわけです。

    2 ネット上に見るいろいろな誤解
    2-1 法律の適用範囲について
     基本の基でも書きましたが,「所有権」は法律制度上の概念なので,一定のルールを考察する場合は,そのルールの適用範囲の要素(場所,人,時期・期間,対象物など)を確定したうえで,議論することが必要です。このことはまず押さえておきましょう。この原則が分かっていれば,この問題についての認識をもっと深めることができると思います。
    2-2 無主物先占について
     法律用語でいうと,無主物先占は日本国民法239条1項で,「日本国領土内」に適用される「動産」に関する規定です。
     つまり,月の土地問題(日本国領土外)でこの概念が出てくる余地はありません。ちなみに所有者がない不動産(海底が自然に隆起して出来た土地・・・そのほかの例ってどんなのありますかねえ・・・)は最初から国のものです(同2項)から,クルージング中に領海内で新しい島を発見して上陸しても,個人的な所有権は認められません。海面の埋立などで土地を作った場合については,公有水面埋立法というルールがあります。日本国外でも,当然に,それぞれの国がそれぞれの内容で所有権を規律する法律制度をもっているわけです。
     事実上の先占がやがて所有権へと変化していく例は,たとえばアメリカ合衆国の黎明期や帝国植民地などで歴史的に見られますが,このことと,法律学上の無主物先占とは議論の位置づけが違います。
    2-3 登記について
     登記をしなければ土地所有権を「対抗」できないとしているのは,「日本」の「不動産」に対する取扱に過ぎないので(民法177条),月の土地問題で、現状ではこの概念は出てきません。また,登記(登録)をしなければそもそも「所有権」を取得しないという制度をもつ国(ドイツなど)もあります。ちなみにアメリカ合衆国の場合は譲渡証書の登録が対抗要件です(アメリカは宇宙条約批准国なので,月の領有権を主張せず,当然ながら月面土地の譲渡証書を登録する制度も設けていません)。

    3 現状に対する見解
     ネット上で多くの方が述べられているように,現状販売されている「月の土地」は,おそらくそのまま土地所有権に変化していく可能性は限りなくゼロに近いものです。中国版の月面土地販売(月球村事件・2005年)では北京市の工商当局が,投資関係法違反で営業停止・罰金の処分をした例(裁判でも販売業者が敗訴)がありますが,日本語版の某社サイトにも,「月に鉱物資源があれば土地所有者の利益になる」趣旨の記述が見られます。もし準拠法が日本法になるとすれば,おそらく消費者契約法4条1項に抵触して契約取消を主張できることになるでしょう。
     単なるファンタジー世界の話として受け止めるのであれば,取消云々のヤボな話はナンセンスということになりますが,かえって,月面を切り売りするという話に「ファンタジー」感をもつような感性は,正直どうよと思います。小ぎれいな紙切れの対価が一私企業の利益としてむなしく消えていくだけならば,むしろそれと同額をWWFユニセフへ寄付するほうがよほどよいと思います。残念ながら,日本の宇宙開発(JAXA)へ直接寄付することは現状できないようです。

  • 不当訴訟!?

    民事訴訟の提起や,法廷での言動・提出した書面の陳述などが相手方に対する不法行為になるのはどんなとき?

    不当訴訟」「濫訴」という言葉をよく耳にする。
    そもそも,相手の請求が確かに不当なのであれば,その裁判で争って勝てばいい。裁判で勝った者が,その裁判の原告であった者に対して,逆に訴えて,提訴そのものが不法行為だとして損害賠償をするようなことは,私の美意識からすると,「勝てば官軍」的な横暴・過剰防衛であり,はっきり言って無粋であるから,あまり気乗りのしない裁判である。
    しかし,相手の提訴が,真にでたらめで不当な提訴なのであれば,わざわざ応訴して,出廷して弁護士費用も持ち出しになって(…よく誤解されるが,被告事件の判決で勝訴して「訴訟費用は原告の負担とする」と裁判官が述べても,被告の依頼した弁護士への報酬等は原告の負担にならないので,被告の持ち出しになる。)腹が立つのも無理からぬことだろう。
    そこで,今回は,「不当な提訴」にあたるのはどのような場合か,また「不当な提訴」によって勝訴した被告が被る損害の内容について考えてみたい。

    この問題点については,すでに最高裁判例(最三小判昭63・1・26民集42巻1号1頁)があり,そこでは,次のように言われている。
    「民事訴訟を提起したことが相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利または法律関係が事実的法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」
    一般論としては,①提訴者の主張した権利・法律関係に事実的・法律的根拠がないこと。②提訴者が①のことを知っており,または(弁護士や裁判官等の専門家のレベルではなく)通常人であれば容易に知り得たのにあえて提訴したなどの著しく相当性を欠くとき。に提訴が違法行為になるとされているが,抽象的すぎてよく分からない。
    そもそも,この最高裁判例の事案はどのようなものだったのか。

    発端となった裁判(前訴)は,土地の(実質的)所有者・売主であるYが,売却対象土地を過小測量した土地家屋調査士Xを訴えた件である。その土地家屋調査士Xは,前訴の控訴取り下げによるX勝訴確定後に,前訴は不当訴訟だと主張して,Yを逆に訴えた。まさに訴訟合戦そのものだが,最高裁はこの合戦の勝者を最終的にYと定めた。

    ちなみに,一審の静岡地裁昭和59年3月23日判決は,前訴は不当訴訟ではないと判断し,最高裁同様にXが敗訴した。
    同裁判所の認定事実は次の通りであった。
    「本件土地は,もとA社の所有であったが,Aが破産し,ブローカーKを通じて,破産管財人からYに対して代金1億500万円で売渡された。Yはこの物件を転売目的で購入したので,Kを通じて買主Bに対して,坪当たり金5713円の実測売買の約定で売却することにした。YはBとの契約書に名前を出さず,売主名義をKとし,内金9000万円もKを通じてBから受領した。なお,売買単価は,3000~5000坪の縄伸び(実測値が公簿値より大きくなること)があることを予測して割安に定めていた。
    Yは,Bの親族にあたるXに実測を依頼しようと考え,B社にその伝達を頼んだが,BはYに測量日を伝えなかった(編者注:この部分が控訴審では違う事実認定になっている)。
    Xが本件土地の測量に臨んだところ,現場にはBとKしか居なかったので,XはKらに対して,隣接土地所有者らの立会で境界確定しないと測量はできないとして一旦は断ったが,Kらが,取引の資料にするにすぎないから周辺をKの指示する測点に従って測量して,その内にくい込んでいる他人所有地(実測面積は公簿面積より少ない)については公簿面積を(つまり実測よりも過大に)控除して算出する(測量結果は,結果的に実測値よりも過小な数値になる)方法で測量してほしいと言われ,そのとおりの方法で,本件土地の面積を15,191坪と算出した。
    他方,Yは,売買契約締結直後ころ,Kらが過少測量して代金を少なくし,その分を山分けしようと画策していることを察知し,YはKよりXにおいて精算金受領権限のあることを示すY・K間の覚書およびK名義の委任状をとりつけていた。
    Xは,Kらが指示したとおりの方法で測量した測量図と面積計算書をBに交付したが,BはXに対し,右測量図等をYに渡さないよう希望した(編者注:この事実認定は控訴審にはない)。
    Yは,Xに対し測量図の交付を求めたが拒まれたので,別の業者に測量させ,それに基づきBに精算金544万5000円の支払を求めたが,BはXの測量を主張して,逆に過払金224万6310円の返還を求めて,話が付かなかった。
    その後KとBはYに内密に,別の業者に測量させ,Yの知らないうちに勝手に精算をすませてしまった。」
    つまり,ブローカーKと買い主Bとが結託して,Xに指示して過小測量をさせ,Yが受け取るべき実測相当の代金を勝手に値切ったという事実を認めたわけである。
    一審の認定によれば,YはK・B・Xなどの玄人にだまされた可哀想な被害者であり,Xは,K・Bにそそのかされて国家資格者にあるまじきいいかげんな測量業務をした不届き者である。このような事案で,なぜXがYを訴えることができるのか不思議に思うほどである。

    しかし,控訴審(東京高等裁判所昭和59年10月29日判決)では,Xの主張が認容されてしまった。一体なにがどう変わったのだろうか。

    本件土地がブローカーKを通じて,Yに渡り,Bに対して坪当りの価格金5713円の実測売買の約定で売り渡され,手付金9000万円が支払われたところまではほぼ同じである。しかし,控訴審のその余の事実認定は,次の通り,原審地裁とはかなり異なっている。
    「Yは,売買契約の翌日,KがBに働きかけて,本件土地の実測面積を実際よりも少なくし,少なくした分の代金相当額を両者で折半しようとしているとの情報を入手したので,早速,Kとの間で,本件土地の実際の所有者はYである旨の覚書を取り交し,KにBからの残代金をYが直接受領するための委任状を差し入れさせ,Bに対し,内容証明郵便で本件土地の実際の所有者はYであるから残代金はYに支払ってほしいこと,本件土地の実際の所有者がYであることを裏付ける証拠として,右覚書及び委任状の写を別便で送付することを通知した。しかしながら,Bは,本件土地の売込みから売買契約成立の過程を通じて交渉に当ったのは主としてKであったし,売買契約もKがしたことから,売主はKであると認識していた。
    売買の際,Kは,Bに測量を依頼し,BはXの名を挙げてKの了解を取り,B名義でXに本件土地の測量を依頼した。」
    Xが,BとKの指示で,境界確定もせず,測量域に含まれる他人土地の公簿面積を概算実測値から控除する方法で測量し,その後独自に測量をやり直したYが,Bとの間で,代金精算について紛争になったとの事実認定は原審と同一である。

    控訴審事実認定の要点は以下の部分である。
    「(Bが清算金支払いに応じないので),Yは,責任追及の矛先をXに向け,Xに対し内容証明郵便でXに測量を依頼したのがYであることを前提に,その測量結果の誤りによる損害として,金500万円を請求したが,Xが,Bの依頼に基づきKの指示に従って実施したから,XY間には直接のかかわりがないとして,支払を拒絶したので,前訴を提起するに至った。
    …(中略)…
    右事実によれば,Xに対し本件土地の測量を依頼したのはBであって,XY間には右測量に関し委任請負等の契約関係は存在しないのであり,XはKの指示に従い,その測量結果がBK間の売買資料に供されるにすぎないとの認識のもとに,本件土地の測量を実施したのであって,このことはBも了承しているところというべきであるから,たとえ,Xが実施した測量の結果算定された本件土地の面積が実際のそれより少なかったからといって,YがXに対し委任請負等の契約上の責任はもとより,不法行為上の責任も問い得ないことは明らかであり,Yが前訴で敗訴したことは,けだし当然のことといわなければならない。
    原審におけるY本人尋問の結果によれば,Yは,前訴の提起当時,Bとの本件土地の売買における売主はKではなくYであり,Xに対する本件土地の測量の依頼もBを通じてYがしたものであるとの認識を持っていたことが認められるが,しかし,これはYが本件土地の実質上の所有者であったことから発したYの全くの主観的認識にすぎず,現にYは,測量図面等が作成されるまでの間にXとは一面識もなく,本件土地の測量について,Xに対し何人が,どのような依頼や指示をしたかについてさえ,ほとんど客観的な事実認識を有していなかったことは右証拠に照らして明らかである。
    そうだとすれば,Yは,前訴の提起に先立ち,まず,Xに対し測量図面等が何人の,どのような依頼や指示に基づいて作成されたかについて,事実の確認をすることが通常人の採るべき常識に則した措置というべきであり,そのような措置を採っていれば,Yは,容易に先に認定した測量図面等が作成されるまでの経過事実を把握することができ,したがって,Xに対し本件土地の測量につき損害賠償の請求をすることは,本来,筋違いであることを知り得たものというべきである。
    それにもかかわらず,Yは,先に認定のとおり,Bに対し自己の依頼した専門業者の測量結果をもとにした残代金の精算を要求して拒否されるや,矛先を転じてXに金500万円の損害賠償の請求をし,これも拒否されると,いきなり前訴提起の挙に出たものであって,Yは,前訴の提起当時,前述した事実確認の措置を怠らなければ,Xに対する請求が埋由のないことを知り得たものであるから,Yによる前訴の提起はXに対する不法行為を構成し,したがって,YはXに対しそのために蒙った損害を賠償すべきである。
    …(中略)…
    そのほか,Xは,前訴の提起によりその主張のような精神的損害を蒙ったと主張するが,右損害は,Xが前訴において勝訴し,また,本訴において前訴に要した弁護士費用に相当する損害全部の賠償請求が認容されればひとまず満足を得られるものと考えられ,ほかに特段の事情の認められない本件においては,右精神的損害を独立に賠償の対象とするまでの必要はないと解されるから,この点に関するXの請求は理由がない。」

    控訴審ではYの前訴での敗訴は当然と断じている。確かに,契約責任はそうだろう(おそらく前訴の一審判決理由も同じと見られる)。しかし,不法行為責任も全く成立しないのか?
    本件では,実測の利益が(縄伸び等により)Yの側にあるから,Yが自己を測量依頼者であると認識していたことを,控訴審認定のように「全くの主観的」と切り捨てていいのか疑問がある。清算金を期待するYは,積極的に測量を望むはずであり,そのことは,KもBも当然認識しているはずである(KもBも代金をYに払うことを約している)。そうだとすれば,Bを通じてYの存在を知っている(編者注:この部分は重要事実であるのに,いずれの判示からもあいまいでよくわからないのは残念だが)はずのXが,実測取引と言いながら,なぜ隣地の立会もなしに,実測より過小な数値を出さなければならないのか,専門家として,一度は測量を断るほどに,その意味を理解していたのであれば,K・Bの言いなりになって,過小測量を実施したこと,その測量結果をBがYに主張して,過払金の返還まで要求されて円滑な取引を害されたこととの間には因果の流れがあり,Xとしても自分は無関係だとまで断言できないのではないだろうか。
    Yの属性が分からないので,決めつけはできないが,普通,Yの立場で,KやBなどの仲介者・相手方を信用して取引していればこそ,あえて誰が測量するかとか,どういう指示をするかなどといちいち気にしないのも自然なことだろう。KやBがXを完璧に騙して過小測量させたのかもしれないし,Xは測量結果がYに対して主張される可能性を認識しながら過小測量したのかもしれない。それは,いくらYがXに問いただしたところで,いずれにしろXの内心の問題であって,提訴前に真実を知ること(しかも,ここでいう真実とは「裁判官の目に映る」真実であって,「歴史的事実としての」真実ではないことに留意したい)は非常に難しいのではないだろうか。もし,控訴審が言うように,Yが事前にXと接触して,Xが誰からどんな指示を受けたのか知ったとしても,その内容に憤慨することはあっても,XがKやBと結託していた可能性が皆無であることまでは確定的に知ることはできないはずだ。
    このように考えてくると,果たして,本件の事案で,提訴者Yが「(自己の主張する)権利・法律関係に事実的・法律的根拠がないこと」を「(弁護士や裁判官等の専門家のレベルではなく)通常人として,容易に知り得た」といえるのかどうか,極めて疑問である。おかしなことに,実際は一審裁判官と控訴審裁判官で判断が違っているのに,そんな判断を「通常人」に要求してもいいのだろうか。

    果たして,最高裁判決は,Yの上告を容れ,Xの主張を認めなかった。
    それにしても,なぜ,高等裁判所は一審を逆転させてまで,(なおかつ,経験不足の私でさえすぐにおかしいと思えるような判断内容で)Xを勝たせたのか。おそらく,高裁の裁判官は,前訴の判決でYが敗訴しているので,Y悪人説に立ってしまったのかもしれない。高裁はYが「通常人」としての判断を誤ったと決めつけたが,そもそもいわゆる「訴訟マニア」ではない「一般市民(通常人)」が,自分に何の権利もないことを知り,あるいは予期しながら,誰かへの腹いせのためにわざわざ裁判を起こしたりするだろうか。「裁判所の常識」はときとして「世間の非常識」であったりするが,本件東京高裁判決はまさにその典型かもしれない。

    最高裁はX主張を棄却したので,不当訴訟の場合の損害論には言及されなかった。
    前掲東京高裁は,不当訴訟の被害は弁護士費用相当の経済的損害を原則とし,応訴負担等の精神的損害は,特別の事情がない限りは,前訴の勝訴によって償える程度のものであると述べて,Xの精神的損害請求部分を棄却しており,私見であるが,この理屈そのものは,正当と考えている。
    被告事件への応訴は,その請求が正当であれ不当であれ,いずれにせよ精神的には大いに負担となるものであるが,原告の請求が被告からみて不当であれば,その怒りは倍増するだろう。しかし,不当訴訟の定義から明らかなとおり,不当訴訟における侵害には過失から故意まで幅があり,訴訟上の主張のうち,その被告が苦痛を被ったのは,原告主張の直接事実なのか間接事実なのか,もしくは訴訟とは関係ない単なる事情としての主張なのか,これまた広い幅がある。従って,一律に精神的損害を見積もることは極めて難しい。なにより,名誉毀損の観点からみると,争訟の結果,被告主張事実を確定判決という形で世に出すことができるのだから,かなりの部分で被告の精神的損害は(一時期存在したとしても)回復されているといっていいだろう。
    もっとも,「特別の事情」としてどんな場合がありうるのか,考えてみると結構難しい。
    たとえば,主張事実の内容について極めて悪質な虚偽作出があった場合を考えてみる。確定判決がそのような事実を否定し,公に確定してしまう効力からすれば,一般的に,仮に当該訴訟係属中には精神的苦痛があるかもしれないが,判決確定により,最終的にはかなりの部分が慰謝されると評価すべきであろう。また,主張内容自体が事実と違っているというだけでなく,侮辱的・名誉毀損的であれば,それはそのこと自体を不法行為として問題にすべきであり(訴訟上,訴訟外を問わず),ここで問題にしている不当訴訟とは別次元の問題であろう。東京高裁の理屈でいくと,不当訴訟が精神的苦痛の慰謝料を発生させるほどの「特別の事情」は,ほとんどないと思われる。

    最高裁判例の評釈で指摘されているとおり,本件(最三小判昭63・1・26民集42巻1号1頁)は被告勝訴確定後の別訴による賠償請求が問題になった事案であるから,前訴係属中の応訴において,相手方提訴もしくは訴訟中の主張等が名誉毀損等の不法行為であると指摘する事案については,射程範囲外と思われる。

    そこで,以下では「裁判中に作成・提出した準備書面や陳述書の記載内容が名誉毀損(不法行為)となるのはどのような場合か」について考えてみる。

    訴訟手続内での準備書面や陳述書の記述による中傷行為については,もし,その中に,相手方やその代理人の名誉を毀損するような行為が多少なりともあったとしても,それが訴訟における正当な弁論活動と認められる限り,違法性がないものと解すべきである。
    しかし,当初から相手方当事者の名誉を侵害し,又は相手方当事者を侮辱する意図で,ことさら虚偽の事実又は当該事件と何ら関連性のない事実を主張する場合や,あるいはそのような意図がなくとも,相応の根拠もないままに,訴訟追行上の必要性を超えて,著しく不適切な表現で主張し,相手方の名誉を害し,又は相手方当事者を侮辱する場合などは社会的に許容される範囲を逸脱したものとして違法性を阻却されない。この言い回しは裁判例によって多少違っており,最高裁判例は見あたらないが,ほぼこのようなまとめ方でよいと思う。

    この問題に対する裁判例を次に概観しておく。

    <問題となった表現一覧と判決結果>
    東京地方裁判所平成15年(ワ)第17018号(不法行為否定 表現限度内)
    「余罪を摘発された犯人が摘発を非難すると同じであり,その厚顔無恥さ加減には呆れ果てるのみである」
    「明らかな虚偽の,且つ子供騙しのような,とぼけた主張,立証」
    「嘘の主張・立証を法廷で平気で行うような,極めて不届きな業者であり(中略)そもそも主張は全て「マユツバ」と考えても当然」
    「…裁判所及び相手方を騙そうとしたものであり,まさに弁護士としてあるまじき卑劣極まりない行為を犯した」
    「…虚偽の主張・立証を平然と行うという程の鉄面皮ぶりであり(中略)平然と嘘の主張を繰り返す悪質な企業であり(中略)嘘つきの主張はそもそも根底から信用できる筈がない」

    東京地方裁判所平成12年(ワ)第15615号(不法行為否定 真実性あり)
    本件授業1について(あ)原告が報告を始める際,「この大学院は学部並みのレベルなので,相応にごく簡単に説明します」というようなことを言った。(い)原告の報告の内容は実に簡単・単純で,ほんの数分間で終わった。(う)原告の報告終了後,丙野教授は,原告の前記発言に対し「そのようなことを言うべきではない」と注意した。出席していた何人かの本大学院生も,「侮辱的発言を撤回すべきである」と抗議した。(え)前項の注意や抗議に対し,原告が,「この大学院の奴等は程度が低い」と発言し,その後も丙野教授や本大学院生に対する侮辱的発言を続けたため,授業を続けられる状態ではなくなった。
    本件授業2について(あ)原告が報告を始める際,「本当は発表したくないが,仕方なく発表する」というようなことを言った。(い)出席していた本大学院生の丁野と戊野からの質問に対し,「程度の低い質問には答えられない」「自分の発表とは関係のない質問だ」「もっと勉強してから質問しろ」との発言を続け,授業を続けられる状態ではなくなった。

    水戸地方裁判所平成9年(ワ)第379号(不法行為認容 不相当)
    「通常人と異なった性格を有し…」
    「通常人と著しく異なった性格を有し,…これ将に狂人沙汰といわなければならない。…無軌道極まる行為を敢えてしている」
    「異常的・狂信的な者がいて…」
    「…かかる狂人に近いと思われる工作をした…将に誇大妄想狂である。異常な心理・通常人の常識をもってしては到底理解し得ぬ…」
    「…狂信しきった異常性がもたらすものでこれにきく妙薬はなかったわけである。異常性が出て来てから異常行動に出た…」
    「通常人と異なった性格の持主であった」「通常人と著しく異なった性格を有した」
    「…如何に常識を逸した狂人的行為をするか等を立証し,被告家の異常性を帯びていることも立証する」
    「…将に狂人の沙汰である」
    「…狂人の沙汰というべく密かに前訴の主体である」
    「この一点から…が異常人格者であることの一端を示す」
    「その家族の中に一種の異常行為に出る者が表れ,…誇大に空想する一種の病的症状に陥り…狂信的になった…」
    「その行為は狂信的な違法行為であるとしか考えられない」
    「…豹変し,狂信的行為を取るようになった。…が通常人でないことに…」
    判旨:そのような表現をする訴訟上の必要性があったとは認められないし,その記載について相応の根拠があったとも認められない

    東京地方裁判所平成9年(ワ)第21854号(不法行為否定 相当性・真実性あり)
    (差出人不明の手紙に関し,被告本人尋問の次の供述)
    問 あなたはこの手紙を原告甲野太郎が書いたと思っていますか。
    答 最初読んだときは文字が女文字だと思いましたけど、内容は太郎らしいと思いました。
    問 あなたは太郎が女性に書かせたと思っているのですか。
    答 多分そうではないかと思います。
    (陳述書での次の記述)
    「…夕方電話のベルが鳴りましたが何の応答も有りません。無言電話でした。私は亡夫の誕生日だったのでなんとなく感じで太郎さんだなと思いました」
    判旨:当事者主義、弁論主義を基本的理念とする我が国の民事訴訟法の下では、当事者が、その信ずるところにしたがって自由に忌憚のない主張、立証(弁論活動)を尽くしてこそ、訴訟が活性化し、事案の真相を解明し私的紛争の適性迅速な解決をはかるという民事訴訟の目的が達し得るのであって、このように対立当事者に攻撃防御の機会を十全かつ対等に与えることは、それ自体が公正な裁判のための基本原則(双方審理主義)として古くから採用されてきたところであり、現行民事訴訟制度においても口頭弁論主義を採用して、これを徹底した形で保証しているのであるから、民事訴訟における主張立証行為(弁論活動)は、一般の原論活動以上に強く保証されなければならないのである。そこで、一方当事者の主張立証行為が、相手方の名誉を毀損するものであり、その後の審理において右主張事実が真実と認めることができなかった場合でも、これをもって直ちに名誉毀損として違法なものであると評価することは相当ではなく、訴訟上の主張は、これが一見妥当性を欠くように見えても、その当事者において、特に故意に、しかももっぱら相手方を誹謗中傷する目的の下に、ことさら粗暴な言辞を用いて主張立証行為を行なったような特段の事情がない限りは、原則として違法性は認められないと解するのが相当である。
    このような観点から判断すると、別件訴訟の供述や別件陳述書の記載は、その内容自体から、右違法性があると認められる要件を充たすに至っていない。

    東京地方裁判所平成9年(ワ)第24755号(不法行為否定 相当性あり)
    「原告は性格異常」と記載した準備書面を提出
    法廷で担当裁判官に対し「原告は趣味で訴訟をしている」などと発言

    東京高等裁判所平成9年(ネ)第2459号(不法行為否定)
    高裁判決で事実認定不詳
    判旨:我が国の民事訴訟制度は、当事者主義及び弁論主義を基本理念としている。訴訟制度の目的は、事件の真相を解明し、私的紛争の適正な解決を実現することにあり、法曹の一員である弁護士の訴訟活動も、この目的の実現に資することが要請されることはいうまでもない。しかし、当事者から訴訟代理を受任した弁護士としては、委任者たる当事者のために、その立場に立って主張・立証活動を尽くすべき責務を負うのであり、当事者双方の代理人が当事者主義と弁論主義の下にその活動を尽くすことによって、右の目的の実現が図られることが期待されているのである。そして、民事訴訟は、私的紛争を対象とするものであることから、必然的に、当事者間の利害関係が鋭く対立し、個人的感情の対立も激しくなるのが通常であり、したがって、一方当事者の主張・立証活動において、相手方当事者やその訴訟代理人その他の関係者の名誉や信用を損なうような主張等に及ばざるを得ないことが少なくない。しかしながら、そのような主張等に対しては、裁判所の適切な訴訟指揮により是正することが可能である上、相手方には、直ちにそれに反論し、反対証拠を提出する等、それに対応する訴訟活動をする機会が制度上確保されているのであり、また、その主張の当否や主張事実の存否は、事案の争点に関するものである限り、終極的には当該事件についての裁判所の裁判によって判断され、これによって、損なわれた名誉や信用を回復することができる仕組みになっているのである。
    このような民事訴訟手続における訴訟活動の特質に照らすと、その手続において訴訟代理人がする主張・立証活動については、その中に相手方やその訴訟代理人等の名誉を損なうようなものがあったとしても、それが当然に名誉毀損として不法行為を構成するものではなく、相当の範囲において正当な訴訟活動として是認されるものというべく、その限りにおいて、違法性を阻却されるものと解するのが相当である。もとより、当初から相手方の名誉を毀損する意図で殊更に虚偽の事実を主張したり、訴訟上主張する必要のない事実を主張して、相手方の名誉を損なう行為に及ぶなどの場合は、訴訟活動に名をかりるものにすぎないから、その違法性の阻却を論ずる余地はない。しかし、その活動が、当事者の委任に基づき、その訴訟上の利益を擁護することを目的としてされる場合には、その主張するところにつき相当の根拠があると認められる限りにおいて、広くその正当性が認められるものというべきであり、そして、右に述べた訴訟活動の特質に照らして考えれば、その相当性が認められるためには、その主張するところが裁判所において認容される高度の蓋然性の存することまで要求されるものではなく、裁判所において認容される可能性があると考えるべき相当の根拠の存することをもって足りると解するのが相当である。

    東京地方裁判所平成8年(ワ)第15863号(不法行為否定 表現限度内)
    和解期日で裁判官の面前で文書を示して「これは…甲野弁護士の名誉に関する文書である」「…ぼろぼろにしてやる」と述べた
    通知書で,「…を、刑事告訴する」「…は,会社財産について…如何なる不正不当消費しているか測り知れない嫌疑がある」と記載した
    別件で,「取下げの合意が成立した。」と虚偽の事実を述べ,その旨の記載のある準備書面を提出した
    準備書面で「…は何等正当の理由も無く裁判官忌避中立(申立て)を為し」「全く濫訴と見る他無い本件関連別件訴訟においては虚偽ねつ造の事実の立証を口実として本件訴訟裁判官を証人申請する等およそ常軌を逸する訴訟活動を平然と敢行している」「現行民事裁判制度を機能不全に陥し入れかねない危険をはらむ非違行為と断ぜざるを得ず」「…侮辱中傷等の誹謗をくり返し,…個人攻撃」「…弁護士倫理に反している。」「…卑劣邪道な訴訟行為である」「度重なる侮辱中傷等の誹謗等一連の非違行為」「…裁判官に危害を及ぼすに至り」「…全くの虚偽と徹底した事実歪曲による捏造であり,一読唯々唖然とするばかりである」「…軽々かつ頻々と随処に犯罪者呼ばわりしている。右所為は右弁護士倫理に激しく抵触する非違行為を構成する」「虚偽とねつ造を事としている」「理性と良心を喪失している」「…が原告の虚偽事実ねつ造の資料として悪用された」等と記載

    東京地方裁判所平成6年(ワ)第13224号、平成6年(ワ)第21298号(不法行為否定 表現限度内)
    「平然と不法行為に加担し,それにより不利益を受けないどころか,利益を享受する職業,そういうことを生業としている人間であると考えられてもやむを得ない」

    東京高等裁判所平成3年(ネ)第3627号(不法行為肯定 真実性なし,相当性なし)
    「指示を受け入れず,死産になってもいいから,…方に置いて欲しい旨述べて,お辞儀をされてしまった」との供述

    東京高等裁判所昭和63年(ネ)第171号(不法行為否定 相当性あり)
    「金員を脅し取ろうとしている」「脅し行為」

    東京地方裁判所昭和61年(ワ)第9911号(不法行為肯定 相当性なし)
    「…守銭奴としてケチで有名な被告が…」
    「以上により被告が訴訟狂であり,他人を悩ますことにより自己の快感を満足するといった特異性格の人物であることが容易に判断されるのである」「…は告訴されたので事務所を訪れ,誠に申し訳ない,と土下座して謝罪したと伝えられている」「しかし,被告はその職業も不明,それに右裁判官からの訴訟書類が送達不能となる程の居所も不明確であるからその名誉を毀損されるような社会的地位にもない」
    「…被告を言葉巧みに教唆したから被告は軽率且つ濫訴狂の性格を発揮し,原告両名に嫌がらせのために行なったものである」
    「被告の非難攻撃は,山窩出身で人を疑うことを日常生活の信条として養育され成長してきただけにその猜疑心に基づく発想である…」「被告が愛人とする積りで口説いたところ,悪僧のような顔をした人相の悪い被告を嫌って…」
    「…と言えばあのマンションゴロですかと大阪地方裁判所民事部の書記官全員が口を揃えて発言する位有名で大阪市内のマンション業者を相手に次々に嫌がらせの訴訟を提起しては敗訴するのでマンションゴロとしての悪名は大阪一帯に知れ渡っている。猜疑心,ひねくれ根性,いやがらせ屋,非強調性の性格と思考力,単純で軽率,それに感情の起伏が激しくその感情を害したものには理非を問わず徹底的に非難攻撃する直情径行型の人物である…」「全く根拠がないのに…を山窩の出身であると断定したうえ昔からこの山窩は人里はなれた深山の中を転々として流浪し,狩猟や竹細工を家業として生活していた。西欧のジプシーと同様で一定の土地に定着せず流浪のため収入不安定と貧困の末,山麓の村落の田畑を荒したり,家畜を盗んだりする外,追いはぎや押込強盗をする者が多く,粗暴性を発揮するので村人達から山賊同様にみられていた」「…彼等仲間の山窩以外の者とは交際せず,秘密厳守で口が固くなり,そして必ず人を疑うことが日常生活の信条となり,かつ,猜疑心が強くなりそれが習性化されるに至った。一般社会との融和性,強調性を欠くのは当然のことで,とくにひがみ根性,嘘をつくことは,その猜疑心と共に山窩特有の性格が形成されるに至った」「…一族は村人達との折合が悪く他処から流れ者として相手にする者がないので孤独な生活をつづけていたが祖父が死亡し,父が当主となるや融和性,強調性がなく,ひがみ根性が強い性格から同部落で仕事がなくなり,北九州やその他の各地に出稼ぎに行き,年数回妻子の許に帰る程度であった」「…は同地で成長したが,山窩特有の猜疑心,ひがみ根性,非協調性,反権力的思想はその家庭生活の中で培われたものである」

    大阪高等裁判所昭和58年(ネ)第2261号、昭和59年(ネ)第359号(不法行為肯定 相当性なし)
    判旨: 相応の根拠もないままに、訴訟遂行上の必要性も超えて、相手方及びその訴訟代理人を犯罪者であると断定強調し、これを執拗に繰り返したものであって、その表現内容、方法、主張態様は著しく不適切であり、これにより被控訴人らの名誉は著しく害されたというべきであるから、それは、もはや正当な弁論活動の範囲を逸脱したものとして、違法性を阻却されない

    大阪地方裁判所昭和56年(ワ)第5159号(不法行為肯定 相当性なし)
    「…並びに弁護士…は,本件土地をその所有者である被告等から横領することを企て,その実行を共謀した。右共謀者等は,同年二月及び三月頃二回にわたり共謀者の一人である右訴外…を被告等のもとに派遣して,被告等の主張及び手持ち証拠等をつぶさに調査した上,本件土地について速やかに所有権移転登記手続に応じてもらいたいとの被告等の請求を無視して,本件土地にかかる売買予約契約を締結し,これに基づく本件仮登記を行なつて本件土地に対する横領行為を開始した」
    「…以下五名が,右横領行為の正犯であることはいうまでもない。しかし,原告代表者,並びに前記弁護士両名も又共謀共同正犯理論により,右横領行為の正犯である。もし仮りに正犯でないとしても,同人等は教唆犯兼幇助犯であり,その犯情はむしろ…以下五名よりも遥かに悪辣である」
    「…以下五名は売買代金を取得できず(すなわち原告とその弁護士の甘言に躍らされて犯罪的訴訟の当事者及び証人にならされただけの徒労に終り),原告のみが隣地に住む被告等から強引に本件土地を奪取するという結果になるであろう」
    「原告等の本訴請求は,民法一七七条及び訴訟制度を悪用して本件土地に対する被告等の所有権を横領行為により奪取しようとする原告代表者,その取巻き連中,及び原告代理人等(いずれも横領行為の共謀共同正犯者又は教唆犯者もしくは従犯者に該当する)の悪質な試みに外ならず…」
    「阪本弁護士が,末尾に写しを添付する関連事件の準備書面で原告等が主張している趣旨での本件土地にかかる横領行為の共謀共同正犯者又は教唆犯者であり…」
    判旨:表現内容・方法を顧みるに、もともと、二重売買における背信的悪意者あるいは公序良俗違反の主張といえども、他の主張と同様、具体的事実を摘示して主張すれば足りるのであるが、事柄の性質上、ある程度相手方の名誉感情等を害する事実が指摘表現されることはやむを得ないといえようが、刑事裁判により当該事実との関係で有罪判決を受けている場合ならともかくとして、これを超えて、相手方を違法行為による犯罪者とまで断定して主張しなけれはその目的を達しないというものでもないことは自明のことであるところ、被告川井の本件主張の表現内容、方法は、背信的悪意者性あるいは公序良俗違反性を基礎づける具体的事実の主張ではなく、原告らが横領罪という刑事犯罪者であると断定強調するといつた著しく適切さを欠くものであり、ことに、原告らは、山川幹夫らの先代との間の本件土地売買の存在を争い、同山川らと銀装との本件土地売買が横領の犯罪行為を構成しない旨自らの根拠をひれきして反論しており、しかも、証拠上、原告らが横領行為の犯罪者であること一見明白とはいえない本件において、相手方訴訟代理人たる弁護士が訴訟当事者と共謀し横領の目的で二重譲渡をなし、もつて犯罪行為を犯したと断定することは、被告川井が法律専門家たる弁護士であることを考慮すると、二重譲渡当事者の背信的悪意者性あるいは公序良俗違反性の背景事実の主張としても慎重さを欠いた極めて不適当な表現といわざるを得ない。しかもその主張の態様は第一訴訟の和解手続中に、担当裁判官から背信的悪意者性の主張立証の薄弱さを指摘されるや、突如として本件主張をなし、第一、第二訴訟を通し、原告らの抗議にもかかわらず数回にわたつて執拗に繰返しなされており、非常識なものといわざるを得ない。そして、前認定のような第一及び第二訴訟の経過の中で、反社会的な犯罪者であると断定された原告らの主観的な名誉感情の侵害の程度が著しいことをも併せ考えると、被告川井のこれら一連の本件主張行為は、もはや法廷における弁論活動としての内在的制約を超え社会的に許される限度を逸脱した違法な行為であり、その違法性を阻却しない

    東京地方裁判所昭和56年(ワ)第6704号(不法行為否定 相当性あり)
    「催促というよりもむしろ強要に近い」
    「原告は街の不動産屋であり」
    「(原告が報酬を請求するなどというのは)非常識きわまりない」「原告の行為(訴提起行為を含めて)は宅地建物取引業の免許の取消事由(例えば、宅地建物取引業法六六条九号)ないしは業務停止事由(例えば、同法六五条二項一号同法四七条二号等)に該当するおそれすらある」

    神戸地方裁判所昭和55年(ワ)第618号(不法行為否定 相当性あり)
    「虚偽文書を作成した」「隠匿又は廃棄させたと推認するほかない」「私利私欲に捉われ,無理難題をふきかけている」
    判旨:故意に,粗暴な言辞を弄して,相手方を著しく中傷誹謗するものでない限り,名誉毀損にはならない(違法性がない)

    千葉地方裁判所館山支部昭和39年(ワ)第32号(不法行為肯定 真実性なし,相当性なし)
    「この家は控訴人自身とは関係なく…弁護士自身が争うておるのである」「なぜ弁護士がこの家をこのようにしつこく争うかというと,この家そのものは重要でなく,本件家屋の北側のためである」「ただ代理人の弁護士がこれをこじらせて弁護士自体の事件にしてしまって,このように紛糾せしめておるのである。こんなヒドイ訴訟は類例がなく」「(本件家屋を)控訴人はすてゝかえりみず,ただ弁護士のための訴訟で,仮執行の必要大である」
    「弁護士と…とは満八年間仮処分事件で刑事訴追をうけ裁判を受けており,弁護士は無罪となった両者の関係である」
    「…民事訴訟となり,ついで…は弁護士と…を相手として不動産窃盗,執行吏占有中の建物の毀棄で告訴しており,逆告訴が行われて,近く何らかの処置がされる段かいに来ている」
    「控訴人…と…弁護士は本件事件についても高度の法律知識を使い,法律の裏をかくあらゆる途を講ずる処置をしておる」
    「別件仮処分事件で証拠を偽造したということで右二名が刑事被告人となり,満八年刑事裁判をうけ,…弁護士は偽証教唆が無罪となったが,…は有罪である。千葉県下の新聞に大々的に報導されたので原告一家の心痛甚大で,万全の処置を代理人もとらざるを得なかった」
    「本件事案についても本件家屋を仮処分をして占有を執行吏に移しながら,これを解体して新築したので告訴事件になっておる。八年前の大事件の関係もあり,検察庁もまだ処置していない」

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    これらの裁判例の概観から,訴訟行為が不法行為になってしまうポイントが抽出できる。
    すなわち,①故意に虚偽の事実を主張すると,そのことが虚偽と立証された場合に,不法行為責任を負う可能性が高い。②当該訴訟に無関係の事実について虚偽か真実かに拘らず,相手方の人格をもっぱら非難攻撃するために主張すると,その表現の程度次第では不法行為になる可能性が高い。③訴訟に関連する事実については,かなり刺激的な表現をとっても,相当性があると判断される可能性が高い。
    一般論としては,東京高等裁判所平成9年(ネ)第2459号の判旨がわかりやすく記述してあるので参考にされたい。

  • 月の土地販売について雑感

    以前,芸能人がらみの月の土地所有権購入のニュース報道があったので,ひょろりんと考えてみたこと。

    1 地球外天体を「所有」することは出来るのか

    1-1「所有」の起源を考える
     原始的には事実上の「支配」から始まると考えられます。つまり,誰かが何かを自分だけのものであると宣言し,その実質を形作り,これを守っていく体制を作ったとき,そこに原始的支配状態が生まれます。ここでは何らの国家も政府も必要なく,実力だけの世界ですが,それゆえに法的に承認された意味での「権利」ではありません。
     この支配状態はやがて,自分が生命財産を懸けなくてもそれが何らかの権力によって保証され(承認された支配権),他人の排除を主張できるようになり(排他的支配権),それを守る制度が構築されます(財産権制度)。
     このように,「支配」という事実状態が社会的に安定すると,それが法的権利に質的に変化し,支配物を他人に安心して利用させることができるので,支配者と管理者の分離が可能になります。ここに「所有」と「占有」の分離が生まれ,「賃貸」も可能になります。

    1-2 土地所有は上下に無限大?
     ところで,日本の土地所有権はどのように定められているでしょうか。民法207条は,「法令の制限内において,その土地の上下に及ぶ」としています。そうすると,日本国に土地を所有する限り,その下は地球の中心から,上は大気圏内(*1)にまでに至る膨大な空間の所有権が「一応」日本国に保証されていることになります。
     これでいくと,概念的には地球の中心のどこかの一点は日本国民のうち土地所有権者全員が共有していることになるんでしょうね。また,なぜ上限を大気圏と考えるかというと,地球が自転公転しているため,そこで区切らないと天空のあらゆる部分がランダムに所有対象になってしまう不都合が生じるからです。
     これらの点については,いろいろな見解があるようですが,私はそのように考えています。

    1-3 所有の対象範囲に限定はあるか
     1-1で述べたように,「支配」と「制度」の構造によって維持されているのが,現在の所有権のあり方です。 この地球という天体の地表においては,土地はほぼ何らかの法主体に帰属する固有財産制度が確立しており,多数派の所有権制度は,国家が対象地の領有を主張し,国際的に承認されている境界の範囲内で,当該国家及び国民の財産権を保証する仕組みになっています。
     ただ,南極のような特殊な領域では条約という国際的合意によるルールが確立されており,国家の領有権主張が凍結されているため,何者かが領有・私有を宣言しても,それを守ってくれる制度がないので,結果的に「所有権」が成立しない状態になっています。
     大気圏外の宇宙空間に関しては,Treaty on principles governing the activities of states in the exploration and use of outer space, including the moon and other celestial bodies(通称The Outer Space Treaty 宇宙条約)があり,やはり国家の領有権主張を制限しているので,個人の私有を宣言してもそれを守る制度がありません。

    2 月に所有権は成立しうるのか
     これは仮定の話ですが,もし、ある私企業が自前で月面の一定領域をカバーするセキュリティシステムを作り,月面を区割りし,一般私人に分譲し,登録された購入者のみが当該月面領域にアクセスできるような体制を作ったとすると,原始的形態である「支配状態」が一応完成します。あとは,その支配力を確保するための制度を構築し,国際的に安定した制度になったと認められたとすれば,そこで「所有権」が成立する可能性が全くないとは言い切れません。
     月面販売事業者は,国家の領有権主張が制限されていることの限定解釈ないし反対解釈として,私人の所有は否定されていないとする見解を取るようですが,前述のとおり,所有権は,支配と制度が公に承認されたところに発生する法的概念なので,対外的には実態が伴わず意味を成さない(排他力,保証制度がない)ように思われます。

    3 逆転の可能性
     ここまでは,地球人のことしか考えてきませんでしたが,もしも、地球外主体が月の所有権を主張した場合,地球人との優先関係はどのように決められるのかという大問題があります。
     本稿を振り返れば分かるとおり,所詮,支配し制度化した主体が所有権を取得するのですから,両者が接触し,相互に権利主張し,勝者の制度に委ねるか,休戦して権利制度協定を結ばない限りは,単なる事実状態としての意味しかないのが現実でしょう。
     もしかすると,あなたが買ったという月面土地はおろか、あなたが自分のものだと思いこんでいる登記された日本国内の所有地ですら、すでにどこかの地球外生命体が勝手に権利証を作って売買しているかもしれません。「対象土地所在生命体の自由捕食権付き」で(*2)・・・。そんなことを認めていいのでしょうか・・・。

    4 結語・・・「月面土地販売事業」に対する私見
     所有とは,権利調整ルールを前提とした概念である。
     ルールは共通認識のもてる状況において,複数の利害関係者が共同参加して初めて決定できる。
     現状では,各国家単位で,内部的に所有権ルールを定めているほか,国際法で国家間の領域に関するルールを大まかに決めているが,地球外惑星に関して「地球人」と「その他の利害関係者」が作成した所有ルールは,まだない。ルールがない場合には,事実状態が優先される。やがて,事実状態の衝突が無視できなくなってきた場合には,権利調整ルールが必要となり,一定の制度が現れる。
     その場合の利害関係者として,月の土地上の一定の区画に,それぞれが観念する内容の「(ルールとして未承認の留保付き)所有権」を主張する者が,当事者として参加できるかどうかは,利害関係の程度による。しかし,所有の根源は「支配」である以上,なんら事実的支配を伴わないペーパー上の「所有権証書」の所持者が利害関係人として認められる可能性は皆無であろう。法的保護を与えなければならない根拠が希薄すぎるからである。
     ただし、さらに考察を進めると,国家の領有権が主張されない領域には,国家外主体(たとえば個人や私企業)による「国家の枠を越えた」地球外空間の開発という抜け道があることに気づく。これを最大限利用すると,巨大営利企業が,天体所有利益を独占することがあり得る(アメリカのSFドラマには,このようなテーマが頻繁に登場する)。
     「月面土地販売」が,そのような状況を未然に防ぐために,出来るだけ多くの人々に月その他の惑星に関する個人的な権利を主張してもらおうという象徴的な政治運動(乱開発阻止のための一坪地主運動や立木トラスト運動のようなもの)であるというならば、その程度の意義ぐらいは,もしかしたらあるのかもしれない。
     しかしながら,日本で「土地を買う」という言語表現には,「所有権(排他的支配権を含む)を取得する」含みがあるので,現に販売されている「月の土地所有権」と日本語の「土地所有権」とは内容が違っている。違うものを紛らわしい名称で販売する契約は,消費者契約法の趣旨からすると,無効ないし取消可能だと解すべきだろう。「月面土地所有予約債権(一種の先物取引商品)」だという理解もあり得るかもしれないが,そうだとしても同様である。
     現在月面土地を販売する事業者は,その主張から判断するに、法制度に無知であるように思われ,弁護士の立場からすると,契約をしないことをおすすめする次第である。

    *1 大気圏とは おおむね地上高度800km以内の範囲を言います。人が到達可能という意味での利用可能性としては,気球で高度34km,飛行機でも高度100km程度が上限です。低軌道ステーションはおおむね高度約400km,静止衛星は高度約36000kmの位置にあります。宇宙空間という場合,おおむね高度80kmから120km(熱圏から外)を超える領域を指しています。ちなみに月までの距離は約38万kmあります。

    *2 単なるブラックジョークですよ(念のため)。でもほんとにあったら怖いですね。

  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律について(前編)

    第一 はじめに
     遺留分について民法の原則を修正した規定がメインディッシュですが,これは来年3月1日からの施行なので,当面お預けです。しかし,附則で,様々な前処理がされているので,この適用を受けるための準備も忘れないようにしましょう(規則附則2条など)。また,代表者・経営者個人への融資制度はすでに始まっていますので,活用できるかどうか検討しましょう。では,法律の条文に沿って,逐条解説風に説明していきます。

    第二 総則
    1 この法律の目的(法1条)
     事業活動そのものと,就業機会の面で中小企業が経済基盤であることを認め,代表者や資本提供者などのキーパーソンの死亡で発生する相続問題により企業継続の円滑が害されないようにしようとした経済関連立法です。具体的には,遺留分に関する民法の特例を設け、税負担を減らして会社資産の散逸を防ぎ,事業承継に関連して生じる資金需要に対する供給要件を定めて資金面から事業継続をバックアップしようとしています。
     すべての中小企業を一律救済しようとするものではなく,財政負担も伴うことから,細かい要件や書類提出,経済産業大臣の認定などの規制手法がとられ,救済対象を必要な企業者に絞り込もうとしています。現時点では,中小企業の相続問題にどの程度のバリエーションが現れるのか不明であり,本法施行後,要件の細部でいろいろな問題が生じる可能性があります。

    2 どんな会社・個人が対象になるのか(法2条,施行令)
     本法が対象とする「中小企業者」の範囲を定めています。会社も個人も対象になります。
     会社は,資本金・出資基準と,従業員数基準,業種基準の三つで区分されています。個人は,従業員数基準と業種基準の二つで区分されます。文章ではわかりにくいので,表にしてみました

    資本金・出資総額 従業員 業種
    三億円以下 九百人以下 ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く。)
    三億円以下 三百人以下 製造業、建設業、運輸業その他の業種,ソフトウェア業又は情報処理サービス業
    一億円以下 百人以下 卸売業
    五千万円以下 二百人以下 旅館業
    五千万円以下 百人以下 サービス業
    五千万円以下 五十人以下 小売業

    以上のいずれかに当てはまる会社・個人が本法の適用を受けられます。
     資本金・出資基準は会社の決算書上の資本金の額です。個人の場合には問題になりません。
     従業員基準は,「常時使用する従業員の数」となっており,臨時雇用社員を含みません。
     業種基準は,「主たる事業」となっており,複数の事業を経営している場合は,そのうちの基幹事業の種類で判断されます。自分の事業がどれにあたるか分からないときには,中小企業庁のサイト(http://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html)を参考に,どの分類にあたるのか調べてみて下さい。

    第三 支援措置
    1 支援措置を使うとどんなことができるのか
     第二章については,施行期日がまだ来ていませんので,後で説明することにして,本年10月1日から施行されている第三章を先に説明しましょう。
     第三章は,「支援措置」とタイトルがついています。これは,中小企業経営者の個人資産が事業に使われている場合などで,これを事業者が承継のために取得する費用などを一定の要件のもとで融資しようとする仕組みです。融資は日本政策金融公庫 http://www.jfc.go.jp/)が担当します。

    2 経済産業大臣の認定(法12条)
     まず,一定の支援要件に該当することを経済産業大臣に認定してもらわなければなりません。この認定は行政裁量に基づくものですが,法律・規則には,次の通り,裁量基準が示されています。当事者の関係が複雑になりますので,はじめに概念図を書いておきます。
       

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     会社も個人も抽象的支援要件は「事業活動の継続に支障が生じていると認められること」であり,どのような場合にそれにあたるかは,法令で定めています。しかし,規則にも概括的規定があり,現に事業活動の継続に支障が生じていることを認定してもらえるかどうかは,経理担当者・税理士会計士弁護士のスキルが役立つ場面となるでしょう。なお,会社については,上場会社等でないという要件も付加されます。

    3 支援要件
    ケース1(法12条1項) 代表者資産取得
     経営承継に伴って,新しい代表者・経営者が前の代表者・経営者から事業用資産を取得するために多額の費用が必要になるケースです。
     なお,経営承継という表現を使っていて,事業承継と言っていないのは,いわゆる営業譲渡との違いを意識したものです。
     また,事業用資産とは,不動産(土地・建物又はこれらに関する所有権以外の権利 地上権,賃借権など),動産,当該中小企業者に対する貸付金及び未収金を含む概念です(規則1条8号)。

    ケース2(施行規則6条1項1号,3項1号) 代表者外資産取得
     経営承継に伴って,代表者・経営者以外の者から事業用資産を取得する必要が生じるケースです。多額要件がないのは,自己取引の側面が薄いことからだと推測されますが,配偶者財産などの場合には,ケース1に類する取り扱いになるおそれはあります。

    ケース3(施行規則6条1項2号,3項2号) 税負担
     代表者・経営者に相続税・贈与税負担が生じるケースです。個人の場合は多額要件がなく,会社の場合には後に述べるケース7(施行規則6条1項7号)と違って,多額要件があります。

    ケース4(施行規則6条1項3号,3項3号) 売上減少
     代表者・経営者が交替してからの3ヶ月間の売り上げが,前年同期の3ヶ月間の売り上げよりも2割を超えて減少したケースです。条文上は,「~見込まれること」となっているので,実際に3ヶ月を経過しなくても,最初の一月で大幅に減少していれば,この要件に適合する可能性はあります。

    ケース5(施行規則6条1項4号,3項4号) 取引条件悪化
     仕入れ先の取引条件に不利益変更があったケースです。
     会社の場合には,仕入れ総額の2割以上を占める仕入れ先から条件変更をされたことを要しますが,個人の場合には,仕入先が一社でも不利な条件変更を申し入れてくれば,このケースに該当します。

    ケース6(施行規則6条1項5号,3項5号) 与信条件悪化
     金融機関からの与信条件が悪化したケースです。
     ここでいう金融機関は,いわゆる銀行,信用金庫,信用組合,労金,農協,公庫等であり,いわゆる消費者金融や高利の事業者金融業者は含まれません。また,会社・個人いずれの場合でも,借入金総額の2割以上を借りている金融機関からの与信悪化でなければ対象になりません。しかし,この融資割合要件については,現実の中小企業運営からすると,やや厳しい要件との感は否めません。

    ケース7(施行規則6条1項6号,3項6号) 相続対策資金
     条文のイはいわゆる代償分割,ロは遺留分減殺を意味します。内容は,確定判決,裁判上の和解,家事審判確定,調停成立のほか,裁判外の和解でもよいので,当事者間で作成した合意書(せっかくですので,第二章の要件を満たす内容にしておきましょう)でも足ります。中小企業の社会的意義(法1条)を尊重して,円滑な当事者間の合意が望まれます。

    ケース8(施行規則6条1項8号,3項7号) 救済規定
     経済産業大臣には一定の行政裁量がありますので,上記に当てはまらなくても,それらに類するような状況で事業活動の継続に支障があれば支援しようとする救済規定です。上記に掲げるもののほか,どのようなパターンが現れるかは施行してみないと分からないこともあり,このような要件があるのですが,この適用については,今後の行政実例の積み重ねで範囲が定まっていくと思われます。

    ケース9(施行規則6条1項7号) 会社の通常税負担
     会社のみ適用される規定です。ケース3の税負担型に似ていますが,1項2号と違って「多額」要件がありません。そのため,この法律の目的から救済すべき会社を絞り込むために,次のとおり,8項目の適用要件を設けています。

    (1)風俗営業会社に該当しないこと。
     趣旨は分かりますが,これで生計を立てている人もいるので,あえて除外するのは,憲法論的に問題ありかとは思います。

    (2)資産保有型会社に該当しないこと。
      資産保有型会社とは,特定資産(要は事業に関係のない余裕資産)が,会社の資産の7割以上を占める会社です(詳しくは規則本文参照)

    (3)資産運用型会社に該当しないこと。
      資産運用型会社とは,上記の特定資産を運用した収入が全体の75%以上を占める会社です。
     なお,このロ,ハ要件については,みなし規定(規則6条2項)があるので,みなし要件の該当性を示せば,ロ・ハの会社に当たらないことが認められます。事業の実態があるかどうかという点から規定していますが,特に3号要件は,いわゆるベンチャー企業の特殊性を考慮した緩和規定になっています。
      みなし要件
       一 事務所、店舗、工場その他の固定施設を所有し、又は賃借していること。
       二 常時使用する従業員の数が五人以上であること。
       三 経営承継相続人の被相続人の死亡の日において、三年以上継続して、自己の名義をもって、かつ、自己の計算において次に掲げるいずれかの行為をしていること。
        イ 商品販売等(商品の販売、資産の貸付け又は役務の提供で、継続して対価を得て行われるものをいい、その商品の開発若しくは生産又は役務の開発を含む。以下同じ。)
        ロ 広告又は宣伝による商品販売等に関する契約の申込み又は締結の勧誘
        ハ 商品販売等を行うために必要となる資料を得るための市場調査
        ニ 商品販売等を行うに当たり法令上必要となる行政機関の許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等をいう。)についての同号に規定する申請又は当該許認可等に係る権利の保有
        ホ 知的財産権(特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。以下同じ。)の取得をするための出願若しくは登録(移転の登録を除く。)の請求若しくは申請(これらに準ずる手続を含む。)、知的財産権等(実施権及び使用権を含むものとし、商品販売等を行うために必要となるものをいう。以下同じ。)の移転の登録(実施権及び使用権にあっては、これらの登録を含む。)の請求若しくは申請(これらに準ずる手続を含む。)又は知的財産権若しくは知的財産権等の保有ヘ商品販売等を行うために必要となる資産(第一号の固定施設を除く。)の所有又は賃借
        ト イからヘまでに掲げる行為に類するもの

    (4)当該中小企業者の直近の事業年度における総収入金額が零を超えること。
     1円でも収入があれば,赤字決算でも適用されます。

    (5)当該中小企業者の常時使用する従業員の数が一人以上であること。
     一人でも従業員があればいいのですが,臨時雇用は除外されますので,要注意です。
     代表者が従業員を兼ねる場合にも適用を認めて差し支えないと思われますが,結論は施行後の行政解釈によります。

    (6)当該中小企業者の特別子会社が上場会社等、大法人等又は風俗営業会社に該当しないこと。
     この要件の意義については,前述のとおりです。

    (7)経営承継相続人であること。
     経営承継相続人の要件は次の5項目です。いずれの要件も,法15条の指導助言を必要とするかどうかの観点から絞られているものですが,本来はここまで絞る必然性はありません(行政実務の便宜を考慮した規定です)。

      ①相続又は遺贈で当該中小企業者の株式等を取得した代表者(代表権を制限されている者を除く)であって,同族関係者と合わせて当該中小企業者の総株主等議決権数の過半数の議決権数を有し,かつ,当該代表者が有する議決権数が,ほかの同族関係者の誰よりも多いこと。
     *同族関係者の定義は規則1条9項で定められています(実質的な利益共通性から,かなり広い範囲に及びます)。

      ②規則15条1項の確認(後注参照)を受けた当該中小企業者の当該確認に係る特定後継者(要は,経営承継の候補者)であり、かつ、当該代表者の被相続人(遺贈をした者を含む。以下同じ。)の死亡の直前において当該中小企業者の役員(取締役,執行役員,会計参与,監査役)であったこと(次に掲げるいずれかに該当する場合を除く。)。
     (ⅰ)当該代表者(二人以上のときは,だれか一人を指名する必要があります)が、被相続人の親族であり、かつ、当該被相続人が六十歳未満で死亡した場合
     (ⅱ)当該代表者が、その被相続人の親族であり、かつ、当該被相続人の死亡の直前において当該中小企業者の役員であった場合であって、当該被相続人の死亡の直前において当該代表者が有していた当該中小企業者の株式等に係る議決権の数と相続(公正証書遺言で分割方法が定められたものに限る)又は遺贈(公正証書遺言で特定名義で行われたものに限る)により取得した当該株式等に係る議決権の数の合計数が,総株主等議決権数の過半数であるとき。
     (ⅲ)当該特定後継者が死亡した場合であって、当該代表者が規則15条1項の確認を受けた当該中小企業者の当該確認に係る新たに特定後継者となることが見込まれる者であるとき(規則14条6号参照)。

      ③当該代表者の被相続人の死亡の日から法12条1項の認定申請日までの間に,当該代表者がその被相続人から相続又は遺贈により取得した当該中小企業者の株式等の全部又は一部を譲渡していないこと。

      ④当該代表者の被相続人が第十五条第一項の確認を受けた当該中小企業者の当該確認に係る特定代表者(第十四条第四号の特定代表者をいう。)であったこと((2)(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれかに該当する場合を除く。)。

      ⑤当該代表者の被相続人が、その死亡の直前において、当該被相続人に係る同族関係者と合わせて当該中小企業者の総株主等議決権数の過半数の議決権数を有し、かつ、当該被相続人が有する当該中小企業者の株式等に係る議決権の数がいずれの当該同族関係者(当該中小企業者の経営承継相続人となる者を除く)の誰よりも多いこと。

     注* 法15条の指導助言について「中小企業者であって,その代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い,従業員数の減少を伴う事業の規模の縮小又は信用状態の低下等によって当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じることを防止するために,多様な分野における事業の展開,人材の育成及び資金の確保に計画的に取り組むことが特に必要かつ適切なものとして経済産業省令で定める要件」として,規則14条に要件が定められ,それに該当するものは,規則15条に従って,経済産業大臣から要件に該当している旨の確認を受け,行政の指導助言制度を利用することができます。

    (8)当該中小企業者が種類株主総会を要する種類株式を発行している場合(会社法108条1項8号)は,当該株式を当該中小企業者の代表者(当該中小企業者の経営承継相続人に限る。)以外の者が有していないこと。

    第二章の解説は後日と致します。
    本日はこれまで。
    参考サイト
    中小企業庁 http://www.chusho.meti.go.jp/
    日本政策金融公庫 http://www.jfc.go.jp/

  • 「それでもボクはやってない」

    http://www.soreboku.jp/index.html
     3月1日フジテレビで放映されたので,見た。二人の裁判官に真実味があった。あれはいずれも決して架空の裁判官ではない。まさに典型的に存在する実際の裁判官の姿が描かれていた。弁護士は東京風の味付けで少々物足りなかった。大阪の刑事弁護士が監修したらもっとアグレッシブな弁護になったかもしれない。
     いずれにしろ,刑事裁判に無縁の一般市民は,この映画を見てもなお,「それでも裁判官は間違えない」「警察官は法廷で嘘を言わない」と思っているかもしれない。しかし,実際に裁判を戦うことは,現状の刑事司法制度では,両手両足を縛られて泳げといわれているくらいに、非常に大変なことなのだ。冒頭のシーンで出てきた「当番弁護士」の言葉を,えん罪被害を受けた無実の当人が受け入れるのは難しいだろう。しかし,それが現実である以上は,そう言わざるを得ない。確かに,弁護士でなければあの当番弁護士の心情を理解するのは難しいかもしれない。

     文明国で,取り調べに弁護士が立ち会えない法制度はもはや少数である。もしかすると,警察の取り調べに弁護士が立ち会えないという現状を知って驚く方が多いかもしれない。外国映画では,弁護士が警察署の留置場にまで入り込んでくる場面があるが,日本では,決してあり得ないのだ。
     日弁連では,捜査過程を透明化し,法廷での審理に反映させるため,「取り調べ過程の録画を求める請願」を集めている。
     個人的に刑事司法への絶望は深く,ここ数年,刑事は控訴案件しか扱わないことにして,民事弁護士に専念している。しかし,刑事弁護士は,絶望の壁を乗り越えようとしてがんばっている。
     法務大臣は「えん罪」という言葉が嫌いなようだが,どう呼ぶにしろ,無実の者が刑事司法の欠陥により危うく有罪にされそうになったり,現に有罪になってしまったりするという現実は存在する。一人二人のえん罪被害者を出しても,真犯人を逃さないことが大切だと考えるのも,一つの思想かもしれない。しかし,私はそれに与しない。

  • 「内容証明」ってなんですか

    (意味)
    「内容証明郵便」とは、相手に送付した郵便の控えを郵便局が保管することにより、「誰が・いつ・誰に・どんな内容の文書を送付したのか」を公に証明できるというしくみです。
     通常は、これに「配達証明」を付けて、「その文書がいつ相手にとどいたのか」まで証明してもらいます。内容証明と配達証明をあわせて「ナイハイ」と言っています。

    (目的)
     内容証明の目的は、相手方に対する「意思表示」の事実を公に証明できる状態にすることにより、後日の紛争を避けたり、権利を確保したりすることです。
     内容証明で「~を支払え」と請求されても、それ自体には何の強制力もありません。内容証明がきたらすぐに払わないと大変なことになると思っている人が結構多いようですが、そんなことはありません。なんらかの内容証明を受け取ったら、慌てず騒がず、まず弁護士へご相談ください。

    (用意するもの)
     A4の紙 必要枚数×3
     封筒   1通
     郵便代金 必要額(後記)
     筆記用具(エンピツは不可です)またはワープロ
     印鑑(三文判で結構です)
     大きな書店・文具店では、内容証明のセットが販売されていますので、それを使うのも便利ですが、別にどんな紙でも封筒でもよいのです。鉛筆書きは不可ですが、ワープロ打ちはかまいません。
     修正液等は使えません。筆記よりも、ワープロで作成されることをお薦めします。

    (書き方)
     A4の用紙を縦に使って、横20文字、縦26行で記載してください。この字数制限は必ず守ってください。なお、文字には句読点も含みますので、ワープロをお使いの場合には、禁則処理をしないでください。
     綴じ代として左側に3cmほど余白を残しておくと、いざ裁判になったときの資料として美しく提出できます。
     複数枚になる場合には、差出人名の契印(用紙のつづり目に渡って押印すること)が必要です。
     封筒には前もって差出人と宛名の両方を記載しておきます。これは本文の末尾に記載した差出人・宛名と一致していていなければなりません。
     書く内容は弁護士に相談し、過不足ないように書くのがスマートです。あまりにも素人的な文章だと、相手から侮られることがありますし、最悪の場合、せっかく出したのに意図した効果が発生しないなんてことにもなりかねません。

    (出し方)
     集配をしている大きな郵便局でないと受け付けてくれません。
     窓口へ封筒1通と本文の同文3通を持参し、「ナイハイで!」と言って差し出します。
     すると、局員が文字数制限を守っているか、押印はあるか、差出人・受取人宛名は本文と封筒で一致しているか、などをチェックしたうえ、受付印を押して、本文1通を返してくれます。場合によっては、封筒と本文2通を返される場合がありますが、これは自分で封筒に入れてくれという意味ですから、封筒のなかに本文1通を入れて封をして再び窓口へ渡します。結局手元に必ず本文1通が残り、封筒に入った1通が相手へ届き、残る1通が郵便局で保管されることになります。

    (費用)
     内容証明郵便のみだと用紙1枚で920円、用紙が1枚追加されるごとに、250円がかかります。配達証明をつけると、300円かかります。
     なお、弁護士に内容証明の作成を依頼する場合の基本料金は、本人名義で出す場合は1~3万円、弁護士が代理人名で出す場合には3~5万円です。
     但し、訴訟事件や示談事件の依頼を受けた弁護士がその事件の処理に関連して内容証明を作成する場合には、別料金をとらないことのほうが多いと思いますので、内容証明の作成のみを依頼するのは、かえって高コストになるでしょう。

  • 親子・兄弟の縁を切るにはどうすればよいですか

     親子兄弟との縁を切りたい。非常に良くある法律相談ですが、回答としては「法的には不可能」です。

     まず、養子縁組により血縁関係に入った場合は、離縁すればよいので、問題ありません。
     しかし、生まれながらの血縁関係については、その血縁関係を切断・清算する手段は法律上、なんら用意されていません。むしろ「直系血族(親子孫)および兄弟姉妹は相互扶養義務を負う(民法877条)」として、法的にはお互いの面倒を見る義務まで課されています。

     縁を切りたいという希望をかなえるには、住所・電話番号その他あらゆる個人情報を出来る限り秘密にしておくことです。
     たとえば、住民票を移さないままに他所へ転居すれば、住民票による追跡が不可能になります。ただし、これには住民票が必要となる行政上のサービスがほとんど受けられなくなることや、移転届出義務違反による過料の制裁があるという大きな不利益を伴いますから、お薦めできません。

     なお、現実に面会を強要されたり、意に添わない仕打ちを受けたり、付きまとわれたりする場合には、裁判上の処分により「面談禁止・架電禁止の仮処分」の決定を取ることで、ある程度被害防止を図ることは可能です。
     これは、「自宅等の立ち寄り先や自己の所在地から半径何メートル以内に立ち入ってはならない」とか「電話をかけてはならない」、「面談を強要してはならない」などという個別の禁止条項を裁判所に決めてもらい、相手に通知するやり方です。もし相手がその条件を守らない場合には、例えば、1回の違反行為につき10万円の違約金を請求するという条項(間接強制といいます)をプラスすることもあります。
     仮処分の具体的な進め方等については、専門的な知識経験を要しますので、弁護士会から紹介を受けた弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

    補足 2011/10/11
     こんなコメントをいただきました。

    私は、中学2年生です。
    法律上親子の縁が切れないのは
    分かりましたが、
    養子縁組を組めば、
    今の親とは縁を切れるのでしょうか?

    結論からもうしますと、養子縁組をしても、元の親との縁は切れません。養子縁組をした人の戸籍を見たらわかりやすいのですが、戸籍には元の親(実親)が記載されており、扶養義務や相続権など、親族関係の定めは養親とともに適用されます。

    例外的に、「特別養子」という制度があり、夫婦で6歳未満の子どもを養子にとる場合に、家庭裁判所の許可により、元の親との関係を法的に切ってしまうことが可能です。特別養子の場合には、扶養義務や相続権などは養親との間にだけしか発生しません。

    補足2 2023/08/01
     別のコメントをいただきました。

    18歳です。現在、両親が離婚し母の戸籍に入っている状態です。父の戸籍に入れば母との縁を切ることは可能でしょうか?

     結論としては、父方の戸籍に入っても、母(親)と子の縁を法的に切ることは不可能です。
     どちらの戸籍に入るかは、現行制度上では単に姓(氏)の統一の意味だけしかありません。

     単に母の戸籍から抜けたいだけならば、役所に「分籍届」を提出することで、自分ひとりだけの新戸籍が作れます。
     父方戸籍に入りたい場合は、家庭裁判所で父方の氏への変更許可を受けたあと、役所に「入籍届」を提出すればよいです。

     *ご相談メールありがとうございます。
      上記の回答で不明の点がございましたら気兼ねなくお問い合わせください。
      なお、メールでの返答は致しませんので、あしからずご了承ください。

    親族問題参考文献リスト

  • お手柄警察官!

    【神奈川】県警薬物銃器対策課と横須賀署は7日、横須賀市荻野のとび職人、相馬雄二容疑者(28)を大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕した。同市子安の山中の大麻草が台風9号で折れないか心配して見に行ったところを、張り込んでいた捜査員に逮捕された。相馬容疑者が大麻草を栽培したとみて同法違反(栽培)容疑でも追及する。(MSN:毎日新聞ニュース鈴木一生2007/9/8)

     まさにドンぴしゃりでした。台風の中、神奈川県警グッドジョブ!!。
     最近一部の警察官に不祥事があったので、こういう記事を見ると、警察も捨てたものじゃないと安心させられます。
     あとは、最新の捜査手法を駆使して、ヤミ金を根絶してほしいです。

     がんばってください>大阪府警の皆様 も
     

  • 刑務所・少年院は無菌室である

     以前担当した業務上過失致死事件の国選弁護刑事事件の被告人(加害者)が,受刑者となってある刑務所で服役している。この刑事事件は,放縦な生活をしていた受刑者が,不眠の影響下に自動車を運転して事故を起こし,同乗者らを重傷・死亡させたものだった。

     この受刑者から,刑務所での作業賞与金が溜まったので,被害者(故人)へ線香代を送りたいとの手紙が届いた。私は,遺族への取り次ぎを引き受け,後日受刑者から送られてきた1万円札1枚を,受刑者の手紙とともに被害者遺族へ送った。

     このようなことは滅多にあることではなく,大半の受刑者は裁判が終われば再び弁護人に接触して被害者に被害賠償をすることはない。有り体にいえば,「逃げてしまう」のである。

     被害者遺族からは「受刑者の気持ちは分かった。しかし,彼は刑務所という,世間から隔絶された無菌室にいて,反省する環境が十分に用意されている。だから,彼が出所してからさらに年月が経ってみないと,彼の本当の気持ちは分からない。もし,そのときにもまだ謝罪の気持ちがあったら,そのときは墓前へ参ってほしい。」との返事があった。

     最近,民事専門になってきて,刑事弁護事件をほとんど扱っていない。しかし,刑事事件をやっていると,ときどき,こんないいこともある。
     さだまさしの「償い」が私の頭の中でリフレインしている。