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Category: 債務問題

  • 債権の管理回収の話(3) 仮契約、オプション

    1-3 オプション条項 一方的意思表示により当該契約に基づく履行請求ができる条項を「オプション」と言います。 オプション条項は、将来的なリスクを回避するために、相応の危険費用をあらかじめ想定して、不確定さを織り込んだ契約とすることができる点で、履行の柔軟さと契約の明確さを両立できる手法といえます。 ただ、一般の契約にオプション条項を設けることは、双方にとって大きなリスクを含むこととなりますので、権利行使条件や期限などは、あいまいにしないで、一義的に取り決めておく必要があるため、商取引の実際上の応用は利害関係があまり対立しない親子会社・グループ会社間のリスクヘッジ取引に限られてくるだろうと思われます。

  • 債権の管理回収の話(1) 契約交渉段階の基本

    1-1 契約交渉段階 (1)大前提  口約束でも原則として法的に有効な契約です(保証契約などの例外あり)。  しかし、重要なビジネスを口約束だけで進めることはとても危険です。それはなぜでしょう。  最大の理由は、後日の紛争に備えられないことです。口頭での表現は、文脈に応じた「解釈」の幅が広がりすぎる危険があります。もし、交渉全体を通じた録音がなければ、最悪の「言った・言わない」議論に陥り、相互に悪魔の証明が課されることになり、裁判紛争の場面では、立証責任を負うほうが不利な立場に置かれます。債権者は債権発生原因事実、債務者は債務消滅原因事実の立証責任を負う立場にあります。  債権の管理回収に際しては、大原則・大前提は、「文書化」です。契約交渉段階から、決済に至るまで、あらゆる局面で、判断の分岐点が後日トレースできるように、内部文書や対外的書面を目的に沿って整備しておく必要があります。 (2)文書の形式  法的観点から、文書で重要なポイントは、「原本性」「時期特定」「作成者確定」の3つです。  ①原本性とは、その文書以外に代替できるものがないという性質のことです。たとえば、人が署名捺印した文書は原本性が極めて高度な重要書類といえますが、それをコピーしたものは、原本による代替性があるものなので、証拠価値も落ちます。ですから、代替性のない文書は、滅失・棄損したり、無用に改変されないように、確実に保管・管理しておく必要があります。  ②時期特定とは、文書の表現がいつされたのか、わかるようにしておくことです。これをもっとも厳格に実行できるのは、紙ベース文書であれば、作成日付を記載したうえ、公証役場で確定日付の印を押してもらうことです。ただ、1件あたり700円もかかるので、どのような場合に確定日付をとっておくかは、リスクとコストの天秤で判断します。電子文書であれば、電子公証制度を使うことができますが、やはり費用は掛かります。もうすこし緩やかな証明力でよいのであれば、内容証明・配達証明・配達記録郵便の利用とか、ファックスや電子メールでの送信記録などが考えられます。  時期を特定する目的は、事実の変化を後日検証するためです。つまり、法的な紛争が起こった場合、常識的に考えて、A事実は必ずB事実の後に起こるという論理が成り立つならば、A事実とB事実の時間的な前後関係は、当事者にとって非常に重要な要素になります。  ③作成者確定とは、当該文書の作成者を明確にすることです。文書の表示内容は、誰かの意思に基づくものですが、誰が作成したのかわからない文書の内容の真正は、多くの場合、確かめようがないので、一般にその信用性は低いものとみられます。特に法律文書の場合、作成者が文書上に法的な意思を表現する権限を持たない場合、「意思表示の瑕疵(カシ・キズ)」につながる可能性があるため、作成者を明示することは絶対条件と言えます。  以上の3つの形式的な要件が整えば、ひとまず法的観点からの文書としての信用性・証拠能力は合格レベルにあるといえます。あとは、その文書に表示されている内容が、真実に基づいて、的確に表現されているかどうかによって、文書の証拠価値が定まります。

  • 秘密の流出と対策

     今回は秘密流出後の対策についてです。  一般的に、取り急ぎ実効性のある法的措置を取りたい場合に役立つのが、「仮処分」という方法です。  ずいぶん前になりますが、仮処分については一度解説したことがあります。重要なキーワードなので、再度説明します。  裁判所の判決は,確定して初めて,その効力が発生するのが原則です。「確定」とは、相手方がその裁判の結果を争う手段がないという状態に至ることです。  具体的には、裁判のなかで、「和解」をするとか、一審判決に対して、相手が控訴しないで2週間を経過するとか、いろいろなパターンがあります。そのため、相手が徹底的に争って来れば、最高裁まで事件が続き、確定まで最短でも2年くらいかかってしまうことがあります。  「仮処分」は,判決が確定する前の段階で,相手方が勝手に紛争の目的物を処分したり,価値を減らしたりするのを防いだり、現に侵害されている権利がそれ以上侵害されないようにするための措置を講じたりするために、裁判所に申し立てて、一定の命令を出してもらう法的手段です。  よく使う例としては、賃貸していた不動産の賃借人が賃料を払わないので,解除をして明渡を求めた場合に、賃借人が「占有屋」のような人物に不法占拠させて、追及を逃れようとするのを予防するために、「占有移転禁止仮処分」をするというものがあります。もし、この仮処分をしないままに、裁判を起こすと、裁判で勝って確定時に執行官を使って明け渡しをさせようとしても、その時点での占有者が裁判の相手と違っていた場合には、明渡を強制できません。これは、「賃借権」が、賃貸人と賃借人の間の約束であるためです。つまり、明渡の裁判は、賃借権者の地位に基づく権利行使なので、賃借人に対してしか効果がないのです。  ただし、不正競争の場面での「仮処分」は、上記「相手方特定機能」ではなく、「仮の満足」すなわち、不正な侵害をひとまず中止してもらうという機能を目的として申し立てをします。賃借権の場面でも、例えば、賃貸事務所が暴力団に占拠されているような不法性の明白なケースでは、このような「満足機能」を目的とした「断行仮処分」をすることがあります。  これまでに紹介した不正競争関連の裁判事例でも、「販売差し止め」や「商標使用禁止」を仮処分で申し立てた例があったと思いますが、そのような仮処分を執行することによって、時間の経過によって拡大する可能性がある損害を早い段階で食い止めることが可能となるわけです。  他方、仮処分の相手の側(「債務者」といいます)からみると、万一裁判で権利侵害でないという結論が出た場合には、仮処分のせいで販売機会を失ってしまう結果に対して、ある程度の損害の発生が考えられることになります。そこで、この両者の権利関係を調整するために、仮処分を申し立てた側(「債権者」といいます)は、債務者の損害を担保するために、「保証金」を供託しなければなりません。これは裁判で勝訴すれば戻ってきますが、万一敗訴して、債務者が担保の権利を行使すれば、債務者に取られてしまう可能性があります。  保証金の金額には、裁判所がおおよその目安になる基準を示していますが、前記の通り、保証金は債務者のための担保なので、債権者の権利がどれぐらい確実らしいかどうかで、上下に幅があります。前述の暴力団の事務所占拠などに対する仮処分では、数万円程度の保証金で決定が出ることもありますし、申立段階で債権者の権利が不確実と判断されれば、保証金は高額になり、そもそもいくら保証金を積んでも仮処分命令を出してもらえないこともあります。  どんな法的手段であれ、まず最重要であるのは、「事情を知らない第三者(裁判官)に、債権者としての主張内容が真実であろうと信じてもらえる程度の証拠資料」をきっちり集めておくことです。  そのためには、日常業務から、紛争予防のための記録化・証拠化を意識する必要があるといえます。

  • 示談書の書き方について

     示談書の目的は、一定の紛争状態について、当事者が一定の合意をして、その紛争を「完全に」終了させることです。  そのため、①紛争を完全に終了させない合意書は、「示談」というより、「覚書」「確認書」というべきであり、②「示談書」である限りは、どの範囲の紛争に適用するのかを厳格に特定する必要があります。  示談書の内容を順に検討してみましょう。 1 タイトル  「示談書」「和解書」「合意書」いずれでも結構です。ただし、上記の通り、中間的な合意は「覚書」「確認書」と表現されることがあるので、最終の合意であることを示す意味では、「示談」「和解」のタイトルがよいです。 2 頭書き  示談書に署名する当事者を列挙して、それらの者の間の合意であることを確認します。その際、主に権利を主張する側を甲、義務を負う側を乙とし、その他の関係者には、順次丙・丁(ヘイ・テイ 普段使うのはせいぜいここまで、以下・戊・己・庚・辛・壬・癸 ボ・コ・キョウ・シン・ジン・キ と続きます)と符号をつけると後の記述が楽です(ただし、混乱して表示を間違わないようにしましょう)。 3 各条項 (1)案件の特定  まず、その示談書が何の解決のために作られたのかを明示します。事件・事故の場合は、5W1Hで、対象を具体的に特定します。  この特定が重要なのは、最終条項で、「本示談書に定める条項のほか、本件に関し、当事者間に一切の債権債務のないこと」を確認するときに、「本件」として引用されるためです。  たとえば、当事者甲・乙の間に、全然別のA事件とB事件があって、それぞれ紛争になっている場合、A事件の示談書で、「・・・条項のほか、当事者間に一切の債権債務のないこと」と記述して「本件に関し」の部分を書かないでいると、最悪の場合、B事件のほうもその示談書で解決済みと扱われても仕方がありません。そのため、「本件に関し」を入れるか入れないか、よく考えて決定する必要があります。 (2)権利の行使条件  示談書は、単なる当事者間の約束事に過ぎず、公正証書にしない限り、裁判なしでは強制執行ができません。また、公正証書にした場合であっても、強制執行できるのは金銭給付請求部分のみであって、建物の明け渡しや、物の引き渡しを強制することはできません。  内容があいまいであったり、違法が含まれていたりして、公正証書にできないようなレベルの示談書を作成してしまうと、後に違約があった場合の対応措置が制約される危険性があるので、権利義務の内容や、行使の要件などは、民法・商法・会社法その他の法令に適合し、かつ一義的に特定できるように記述し、誰から見ても同じ意味での解釈をされるように留意する必要があります。 (3)違約時の対処  違約があったらどうするかを事前に完全にカバーすることは結構難しい問題です。しかし、合意なしに法的に主張できる制裁手段は非常に限られているので、話し合いができるうちにできるだけ有利な条件設定をしておくことは有効です。 (4)包括的清算条項  「示談書」完成時点では、原則として、当事者間のすべての債権債務関係の清算が合意されている必要があります。一般には、「相互に請求を放棄」「その他の債権債務なし」の二つのセンテンスで権利関係をリセットします。 (5)日付・署名  日付は原則として作成日です。持ち回りなどで署名時期がずれる場合は、最後の日とすればよいでしょう。  日付を遡らせることは可能ですが、当然合意が必要ですし、具体的な状況次第では遡らせることに意味がなくなるケースもあるので、事実と違う記述をするのはあまり好ましくありません。  示談書は最終合意で基本的には変更不可のものなので、慎重を期するためには、きちんと当事者が面談をして、その場で自署・捺印を確認するのが原則です。代筆や印刷では、後日信用性を争われた際に反証が難しくなる可能性もあるので、自署にしましょう。 (6)その他  契約ですので、各自1通づつ原本を持つのが原則です。ただ、印紙税の節約のために、一通だけを作って、債務者にはそのコピーを控えとして渡すという方法もあります。  合意書のなかでもっとも難しいのは、上記(2)の書き方です。これは、法律の体系をきちんと理解していないと、正確な記述をするのが難しい部分ですから、示談前に専門家にチェックを依頼していただくほうがよいでしょう。

  • 商行為・商事契約のまとめ

    会社法は,わざわざ「事業行為」と「事業のための行為」を「商行為」だと決めています(会社法5条)。なぜ「商行為」という定義が必要なのでしょうか。 それは,「商行為」であるかないかによって,「民法」「商法」のどちらが適用されるかが決まるからです。 もともと,会社法は,平成18年改正までは「商法」の一部として規定されていました。いまでも「商法」という法律は残っていて,そこに「商行為」が規定されています(商法501条、502条)。 商行為であるとき(商事)とないとき(民事)の、法律行為に関する違いは次の通りです。これらの規定は商行為全般に適用されます。 商事 民事 代理・顕名(本人のためにすることの表示) 不要(商法504条) 顕名必要(民法99条) 委任 明示的委任外の行為も可(505条) 明示的委任範囲に限る(643条) 委任による代理権 本人死亡により消滅しない(506条) 本人死亡で消滅する(653条) 申し込み 直ちに承諾しないと申し込みは失効(507条) 民法には規定なし 隔地者申し込み 相当期間内に承諾しないときは申し込み失効(508条) 承諾の通知を受けるのに相当な期間経過を要す(524条) 諾否通知義務 通知義務あり・見なし承諾あり(509条) なし また,商事契約に関しては次のような違いがあります。 商事 民事 多数当事者の共同債務 当然に連帯債務(511条) 当然には連帯債務にならない(452条) 委任の報酬 当然に相当額を請求できる(512条) 当然には報酬請求はできない 貸金の利息 当然に商事法定利率(年6%)を請求できる 利息の取り決めをしなければ請求できない。 流質処分 流質できる(515条) 流質できない(349条) 債権の消滅時効 原則5年(522条) 原則10年(167条) 要するに,一般民事よりも,素早く・簡単に物事をすませようというのが「商事」の基本的発想になっています。 このほかにも当事者双方が商人である場合の売買については,次のような特別な取扱がされています。 受領拒否・受領不能の場合に裁判所の許可なく競売が可能(商法524条) 履行期日が重要な意味を持つ売買で,履行期が経過してから直ちに履行を請求しないときは解除とみなされる(商法525条) 買主は通常の瑕疵は遅滞なく通知しなければ瑕疵担保・損害賠償責任を追求できない(商法526条) 前記の商事法定利息(商法513条1項)は,両当事者にとって商行為である場合に限り適用されます。つまり,貸すほうは同じ貸金会社でも,商人に貸せば当然に商事法定利率(6%)で利息の請求ができますが,商人でない人に貸した場合は利息を約定しないと利息が取れません(利息を決めても利率を決めなければ5%です)。

  • 取扱業務の項目について、追加・改定しました。

    サイト本体のコンテンツを久々に追加・改定しました。 メニューの「取扱業務」に、「マンション管理」と「親族・相続」の事例を付け加えて、「医療過誤」に事例を追加しました。 医療用語略語もバージョンアップしましたので、よろしければご参照ください。

  • 生活保護引き下げは生活保護受給世帯だけに影響するわけではない

    詳しくは日弁連作成のパンフレット集をご覧ください。 それがよいことか悪いことかは国民自身が決めることですが、今の政権は、間違いなく、貧富の格差を広げる方向性にあると思います。 生活保護は働かない人の最低基準だから、真面目に働く勤労者には関係ないと思っていませんか。 実は決してそうでないということが、いろいろ説明されていますので、やや割引ながらでも一読してみてください。 日弁連パンフで論点はほぼ網羅されていると思いますが、あえて付け加えるとしたら、最近実感したことでいうと、 例えば、債権差し押さえにおいて、「差し押さえ範囲変更」の申し立てというものがあり、裁判所の裁量によって、法定の割合での差し押さえ範囲を特別に増減できる仕組みがあります。 これは、減額変更の場合、基本的に「生活保護水準を満たすかどうか」という発想から斟酌されていて、法定の差し押さえ割合を適用した場合、「生活保護水準+勤労経費」に満たなければ、ある程度の減額変更を認めてくれます。 生活保護水準が引き下げられれば、勤労者である債務者は、債務名義に基づく差し押さえがされた場合、これまでは認められていた差し押さえ範囲の変更が、却下されたり、減額変更幅が少なくなったりします。 過払い請求が落ち着いて、今後は有名義債務を背負った方々に対する差し押さえ案件が増えてくるかもしれません。そうなると、この生活保護水準引き下げは、確実に債務者世帯の生計を圧迫するでしょう。 経済全体で考えると非常に難しい問題ではありますが、税制や予算などでもうちょっと別のやりようがあるのではないだろうかと、個人的には思います。 みなさまはいかがでしょうか。

  • 仮差押・仮処分(民事保全)とは

     前回に引き続き,法的手続きによる回収に関連して,民事保全の手続についてレポートします。  裁判所の判決は,確定して初めて,その効力が発生するのが原則です。判決に「仮執行宣言」が付されていれば,確定しなくても預金や不動産の差し押さえの手続(強制執行)に進むことができますが,そうでないときは確定を待たなければ、そのようなことができません。  裁判を起こしてから判決を確定させるまで、争いがない事件ですら3か月程度はかかりますし,相手方が徹底して争えば,最高裁まで上がって2~3年がかりになってしまうこともあります。そうなると,その裁判をやっている間に,相手方の経営状態が悪くなったり,返還や引き渡しを求めていた物品が処分されてしまったりすることがあり,せっかく判決をとっても意味がなくなってしまう危険性があります。  そこで,「仮差押」「仮処分」という「民事保全手続」が用意されています。  どちらも「仮」とあることからもわかるとおり,本裁判での判決が出る前に,あくまでも,「仮に」権利の実現を認めるという制度です。  「仮差押」とは,判決が出る前に,相手が持っている預金や不動産等の「資産」を押さえておくことです。  仮に押さえておくだけなので,差押(本差押といいます)と違って,仮差押の時点で現実に金銭を受け取れるわけではありません。処分されてしまわないように,原状維持を図るという制度です。もし仮差押中の預金や不動産が,他の債権者によって本差押された場合には,債権額に応じた按分額が供託される仕組になっていますので,一定範囲で債権回収が確保できます。  「仮処分」とは,判決が出る前に,相手方が勝手に紛争の目的物を処分したり,価値を減らしたりしないように,処分を禁止するなどの命令をすることです。  仮処分命令が出されると,権利関係は現状で固定され,相手方は自分の所有物であっても処分できなくなりますし,仮処分後の譲受人は権利主張できません。  この仕組が使われるのは,物品の引き渡し(典型的には,賃貸不動産の解除明渡請求など)の場合です。  たとえば,賃貸していた不動産の賃借人が賃料を払わないので,解除をして明渡を求めたとします。この明渡の裁判では,現にその建物を占有している相手方を特定しなければなりませんので,もし,最初の賃借人が,裁判の途中で勝手に第三者に又貸しをしてしまうと,その第三者を裁判の相手に追加しなければならなくなります。素性の分からない人が占有者として入ってきてしまうと,誰を相手に裁判すべきかわからなくなってしまい,判決をとっても,実際に明渡請求できなくなってしまう危険があります。  そこで,「仮処分」の仕組を使って,賃借人が他の人に又貸ししたり,第三者を勝手に住まわせたりすることを,裁判所の命令によって禁止しておきます。そうすれば,裁判の相手方は仮処分時点での占有者に特定され,以後の占有者は当然に排除できるので,安心して最初の賃借人だけを相手に裁判をすることができます。  上記のような「処分禁止の仮処分」のほか,「地位保全の仮処分」もよくあるパターンです。  例えば,勤務先を解雇された従業員が,解雇は無効だとして会社を相手に裁判をする場合に,「労働者の地位」を失っていないことを「仮」の状態として裁判所に認めてもらいます。そして,それに基づいて,給料の仮払いを求めるというような使い方をします。  また,会社等の団体の役員が不当に解任された場合に,役員の地位にあることを仮の状態として裁判所に認めてもらうというような使い方もあります。  さらに,たとえば,右翼の街宣車が自宅や会社へ押し寄せてきて誹謗中傷を繰り返すようなケースや,暴力団がらみの恐喝事件などの場合には,「接近禁止,面談強要禁止の仮処分」といって,一定の禁止事項を裁判所から命令してもらい,違反した場合には一定の制裁金(間接強制)の支払いを命じるなどの手段によって,それらをやめさせるという使い方もできます。  日本の法律では,裁判所を通さないで,相手の意思に反する行為をさせたり,自由や財産を奪ったりすることは「自力救済」と呼ばれ,正当防衛など限られた場面を除き,原則として違法行為になります。たとえば、家賃を滞納した賃借人を追い出すために、賃借人に無断でカギを交換して入れなくしたり、家財道具を放り出したりすることは、違法な行為です。  そのため,仮処分の制度は,法律実務上,たいへん重要な権利実現の補助手段になっています。

  • 売掛金回収(法的回収の基本編)

     前回に引き続き,売掛金の法的手続きによる回収について,一般論をレポートします。 債権の発生  企業会計原則では,発生主義(例えば,物やサービスを提供したら,その時点で「売掛金(資産)」を「未収金(収入)」として計上し,後に現金が入金された時点で,「未収金(収入)」を「現預金(資産)」で消す)の原則が要求されています。法的にも,一般的な売買契約では、支払期日が先であっても,売掛を建てた時点で,相手方に対する請求権が発生する(ただし、相手方には「引き換え給付」「同時履行」とか、「期限の利益」とかの抗弁があるのがふつう。)と考えてよいでしょう。 履行期の到来  請求権があるだけでは,直ちに相手に請求できることになりません。一般には,履行の期限があり,相手は履行をその期限まで猶与してもらえる立場にあります。従って,相手への請求をするには履行期になっていることが必要です。 履行の催告  履行期が来ても,支払われないときには,催促をします。この催促に法的な意味があるかどうかはケースに応じた判断になります。一般には,その履行準備等に必要な相当期間を定めた催告が法的意味をもつことになります。ただし,履行の催告だけでは消滅時効が中断しませんので,注意が必要です。 法的な回収手段の実行  担保(抵当権などの物的担保、保証契約書面による人的担保)を取っていれば,債務者本人から任意回収しなくても、競売等を申し立てたり、保証人に請求したりする方法で回収できる可能性があります。  担保を取っていなくても,取引内容等によっては,先取特権という執行力を伴う債権になっている可能性もあるので,その活用も考慮します。  反対債権(相手側から請求されている債務)がある場合には,それが不法行為債務(詐欺や暴行等による損害賠償の債務のことです)でないかぎり,相殺ができます。  以上の,「担保権実行,先取特権等の優先権実行,相殺」が,ひとまず優先的に考慮すべき債権回収手段です。  それらの手段が執れないときには,いよいよ提訴する必要が出てきます。 提訴  売掛金回収請求の民事裁判を起こします。ちなみに、詐欺でもない限りは、単なる代金の支払い遅延が刑事裁判になることはありません。  一般論として,自力救済(いやがる相手から無理矢理に金品を奪って「債権回収」すること)は違法です(たとえ,債権回収として相当範囲であっても,手段方法の違法として場合によっては恐喝や強要などに問われる)ので,任意に払わない相手から強制的に金品を取るためにはどうしても裁判によって「債務名義」を取得する必要があります(まえもって執行力ある公正証書を作っておくという手もありますが、ここでの説明は割愛します)。  このことは見方を変えて言うと,支払いを渋る相手から,交渉で金品を受領するときには,それがその債務者の「任意(自由な意思)」で支払われたという状況を,記録保存しておくべきということになります。後になって,無理矢理持って行かれたとクレームを付けられると,損害賠償をしなければならなくなる場合もあるからです。 提訴の手続詳細  提訴は,請求権を主張する側が原告として裁判所へ訴状を出してスタートします。一定の手数料が必要です。  裁判所は訴状を審査し,請求内容が法律に沿って正しく構成されており、その主張が仮に全部立証されれば原告側勝訴判決になると判断したらこれを受理し,被告を呼び出す第1回期日を決めて、被告へ送達します。そのような事前審査をするのは、被告が訴状を受け取ったのに答弁書も出さず、第一回期日に欠席をした場合に、無審理で原告勝訴の判決を出す「欠席判決」という仕組みがあるためです。  なお、民事訴訟では原告の反対側を「被告」といい、刑事訴訟の「被告人」に呼び名が似ていますが、民事の「被告」は単に「原告の反対」というだけの意味ですので、「被告」と呼ばれても刑罰を要求されているわけではなく、倫理的な非難の意味もありませんので、落ち着いて対応して下さい)。  ちなみに,裁判所が訴状を受理するだけでは,原告の主張を認めたということにはなりません。主張の当否はその後の審理で決められます。  審理には大きく3つの段階があります。  第一段階は双方の主張を整理することです。これによって,お互いの言い分の内容を裁判所が理解します。  第二段階は主張された事実について証拠を調べることです。これによって,どちらの言い分が真実であるのかを裁判所が判断します。  第三段階は和解・判決等の最終決定へ向けた動きです。  和解とは,判決によらないで,当事者が譲り合うことで事件を納めることです。和解のタイミングとしては,第一段階の主張整理後に切り出されるケースもありますし、第二段階の証拠調(証人尋問等)が終わった段階で切り出されるケースもあります。最終的に和解ができなければ,裁判所が第二段階までの審理をもとに,判決を書きます。場合により判決期日だけ指定され、判決までの間に和解期日を入れることもあります。  一審の審理期間は,事案にもよりますが,短くて3ヶ月くらい,長ければ1年~2年かかることもあります。 一審判決後の動き  一審判決がでて,勝訴判決であれば,まず相手に任意の支払いを求めます。しかし,この判決は相手方が受領してから2週間以内であれば控訴できますので,まだ確定的なものではありません。任意に払ってくれればいいですが,だめな場合は強制執行をすることになります。  ここで注意すべきは,その判決に「仮執行宣言」がついているかどうかです。これがついていれば,判決が確定しなくても(相手が控訴しようがしまいが),相手が判決を受領すれば強制執行ができます。しかし,仮執行宣言がついていなければ,相手が控訴すると判決が確定しないので,第二審で勝ち判決をもらうか,和解をして確定させた後でなければ強制執行できません。第二審後に上訴されたら、さらに確定が先延ばしになってしまいます。  このようなタイムラグは,相手の経営状態が悪化しつつある状況では,非常に原告側に不利に働きます。この不利益を回避するために必要なのが,民事保全(仮差押・仮処分)という制度です。これについては次回の説明と致します。

  • 公正証書とは

    1 公正証書とは  「公正証書」という言葉をご存じでしょうか。  これは,公証役場というところで,公証人が作成する文書です。「公証人」は法務局に所属する特殊な公務員です。公正証書を作ったりする手数料だけが収入であり,国からの給与は出ていません。これに似たような立場としては,裁判所に所属する「執行官(=不動産や動産の強制執行を実施する人)」があります。退官した裁判官や検察官などが公証人になっているケースが大半です。  公正証書には,一般市民が作成する文書(「私証書」といいます)と違う特別の法的効力が認められる場合があります。その効力のうちもっとも強力なのは,「執行力」です。 2 執行力とは  「執行力」とは,強制執行ができる効力のことです。  原則として,裁判所の判決があって初めて,不動産や預金,売掛金などの債務者の財産を差し押さえることができます。  しかし,「公正証書」のなかに,「執行認諾文言(強制執行をされても差し支えない旨の文章」が入っていれば,裁判所に訴えを起こさなくてもすぐに強制執行が出来ます。一般に裁判手続は半年から1年くらいかかりますので,その時間を短縮できるのは大きなメリットです。  ただ,公正証書をつくるためには,原則として当事者の両方が,公証役場に出頭しなければなりません。代理人を立てることもできますが,その場合には,公正証書にしようとする文書と割り印をした委任状に本人の実印を押捺し,印鑑証明を添付する必要があります。  このようなことから,少なくとも相手方の協力が必要になるので,ある程度の信頼関係があるうちに作成しておくのがよいでしょう。相手の協力が得られない紛争継続局面では,公正証書を作ることが困難です。 3 公正証書の実例  よくあるケースは,「債務弁済公正証書」です。これは,一定の債務(貸金だったり,売掛金だったりします)がある場合に,その内容や返済方法,違約条件などを文書化するものです。執行認諾文言を付けて,いつでも強制執行できるようにします。  他には,「協議離婚の公正証書」もあります。これは協議離婚に当たって,子どもの養育費や財産分与,慰謝料などの取り決めをした場合に,その内容でいつでも強制執行できるように作成します。  ただし,注意しなければならないのは,強制執行できるのは「金銭の取り立て」だけなので,例えば「子どもの引き渡し」とか「分与財産(例えば自動車,不動産など)の引き渡し」とか「賃貸借解除後の建物明渡」などは,別途裁判を起こさなければ,公正証書だけでの執行はできません。  賃貸借契約なども公正証書にすることがありますが,解約したのに退去しない場合でも,明渡の執行はできないことに注意する必要があります(金銭の取り立てしかできません)。賃貸借契約のトラブルに関して合意をする場合には、簡易裁判所の「訴え提起前の和解」を利用することが便利です。これなら当事者合意だけで、債務名義が作れますので、建物明渡の強制執行も可能です。  ちなみに,公正証書を作成するためには,公証人に一定の手数料を支払う必要があります。さほど高額ではありません。やりたいことが決まっていれば、書き方の相談は無料でやってもらえるので、気軽に相談できます。  しかし、もめ事の内容が複雑だったり、まだどうするか細部が決まっていないようなときには、公証役場では十分な対応は期待できませんので、先に弁護士へ相談してから内容を決めておいたほうが、公正証書作成までスムーズに進めます。