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Category: 企業法務

  • 代理店契約の打ち切りと損害賠償請求

     不正競争防止法案件でよく問題になるのは、代理店契約の打ち切りです。  外国のブランド品を日本での知名度が低いうちから資金を投下して販促し、大きく育てていく方法は、ハイリスク・ハイリターンの投資方法です。その方法として、国内独占代理店契約を結び、販促を一手に引き受けて、国内販売を伸ばしていく等の手法がとられます。  しかし、当該ブランド品が国内で次第に著名になってくると、外国ブランド本社が直販に乗り出したり、現行代理店よりも有利な条件を提示して代理店契約を奪おうとする競争業者が現れたりすることがあります。  そうならないようにするためにも、契約内容は十分に事前に吟味すべきなのですが、未成長ブランドの場合だと、比較的安易な相互依存の契約を結んでしまったりすることもあり、いざ、関係が壊れた時の法的な清算が難しくなるケースも出てきます。  無名時代から長年にわたって、当該ブランドを支え続けた代理店からすれば、突然外国ブランドが商品供給を停止して代理店契約を破棄したり、別の代理店に独占権を与えたりされてしまうと、心情的にはもちろんのこと、投下資金が十分に回収できていない段階では、経済的な損失も大きなものになってしまいます。  そのような場合、代理店側に契約違反がないのであれば、不当な解除であることを主張して、外国ブランド相手に損害賠償請求をすることができます。しかし、契約期間の満了や、一定の違約条項への該当などを理由とする契約終了・解除などが主張された場合には、損害賠償の請求は極めて困難となります。  裁判例としては、代理店契約の終了とともにブランドからの供給を打ち切られた業者が、新規に代理店となった業者を相手として損害賠償請求をしたものがあります。  請求の根拠として、新規代理店が販売する商品は、旧代理店のブランドであると主張しましたが、裁判所は、旧代理店のブランドではなく、外国のブランドとみるべきで、不正競争防止法では旧代理店が新代理店に損害賠償請求することはできないし、新代理店の販売は不法行為にもならないと判断しました。  外国ブランド本体を相手にしても勝てないと考えて、無理に新代理店を相手にしたのでしょうが、やや無理が過ぎました。  契約条項を、事業の清算や解除後のことまで考慮したものとして、詰めておくのは、結婚前に離婚を考えるようなもので、相手との友好関係を考えると気が引けますが、やはり、そこは、まだ信頼関係がある最初の段階で、きちんとやっておくべきことといえるでしょう。

  • 著名商品等の表示

     以前の記事「不正競争防止法19条で保護されるケース」で、一定の場合に自由に使ってよい表示があること(地名、自己の氏名、先使用)を説明しました。  今回は、一定の場合に使ってはいけない表示についてです。  不正競争防止法2条1項2号では、他人の業務について、すでに使われている商品や営業の表示を使ったらダメと規定しています。長い名称の一部として紛れ込ませることも基本的に不可です。  裁判で負けた事例としては、「青山学院」という名前を、青山学院とはまったく関係のない人が、自分の経営する学校の地名にくっつけて、「呉青山学院」という名前にした例があります。この類型の裁判で勝つためには、当該名称が「著名ではない」ことを主張しないといけないので、とにかく、誰もが知っているようなすでに有名な名称を使いたいときには、許諾を得ることが先決と思います。  裁判になって、被告が負けている例としては、ほかに「虎屋」「三菱」「J-PHONE」「JACCS」などがあります。どれもその文字を見ただけで、どんな事業をしているかすぐにわかるようなものばかりですよね。  ところで、J-PHONEやJACCS、sonybank事件などは、「ドメイン」に関する事件である点で、特徴があります。  ドメインとは、インターネット上で使われる名前のことです。インターネット上で情報のやり取りをするためには、IPアドレスという番号(我が家の玄関の表札みたいなものです)をインターネット全体に周知させる必要があります(これによって、世界中から間違いなく目的地を訪問できます)。IPアドレス(IPv4の場合)は、「177.133.144.155」のように、3桁×4組の数字で示されています(このほか、IPv6というやつもあり、こちらはもっと長いですけど、そこの解説が目的ではないので、省略します)。  この数字の羅列だけでは人の目による識別性が悪いので、番号と名称を対応させた仕組みが「ドメイン」です(ごく簡単に説明しましたが、実際はもっと複雑な仕組みです)。  私の保有ドメインは、「uhl.jp」です。全世界に同じものは絶対にありません。重複しないように、ドメイン管理組織によって管理されているからです。ちなみに「.jp」は、日本を表すトップレベルドメインです。最近では、業種別とかグループ別などの新しいトップレベルドメインが次々に設定されていて、もはや国別を表すトップレベルドメインは少数派になってしまっています。申請者が希望したドメイン文字列が同一トップレベルドメイン中に既存でなければ、どんなものでも、だれでも、簡単に取得できます。  かつては、ドメインが全世界で一つしかないというユニークさと、誰でも無審査で取得できるという点を悪用して、上記のように、J-POHNEとかsonyとかを含む名前を、それらの企業と関係のない人が勝手に取得し、いざ当該企業がそのドメインを必要とした際に、高値で売りつけようとする事例が頻発していました。  現在では、著名ドメインを取っても、裁判で負けて無駄骨になることが周知されたので、以前のような紛争は激減しています。また、日本知的財産仲裁センターがJPドメインに関する紛争処理の仲裁を受け付けていますので、類似ドメインの排除が必要になった場合に、裁判をするまでの必要は通常の場合ありません。

  • 示談書の書き方について

     示談書の目的は、一定の紛争状態について、当事者が一定の合意をして、その紛争を「完全に」終了させることです。  そのため、①紛争を完全に終了させない合意書は、「示談」というより、「覚書」「確認書」というべきであり、②「示談書」である限りは、どの範囲の紛争に適用するのかを厳格に特定する必要があります。  示談書の内容を順に検討してみましょう。 1 タイトル  「示談書」「和解書」「合意書」いずれでも結構です。ただし、上記の通り、中間的な合意は「覚書」「確認書」と表現されることがあるので、最終の合意であることを示す意味では、「示談」「和解」のタイトルがよいです。 2 頭書き  示談書に署名する当事者を列挙して、それらの者の間の合意であることを確認します。その際、主に権利を主張する側を甲、義務を負う側を乙とし、その他の関係者には、順次丙・丁(ヘイ・テイ 普段使うのはせいぜいここまで、以下・戊・己・庚・辛・壬・癸 ボ・コ・キョウ・シン・ジン・キ と続きます)と符号をつけると後の記述が楽です(ただし、混乱して表示を間違わないようにしましょう)。 3 各条項 (1)案件の特定  まず、その示談書が何の解決のために作られたのかを明示します。事件・事故の場合は、5W1Hで、対象を具体的に特定します。  この特定が重要なのは、最終条項で、「本示談書に定める条項のほか、本件に関し、当事者間に一切の債権債務のないこと」を確認するときに、「本件」として引用されるためです。  たとえば、当事者甲・乙の間に、全然別のA事件とB事件があって、それぞれ紛争になっている場合、A事件の示談書で、「・・・条項のほか、当事者間に一切の債権債務のないこと」と記述して「本件に関し」の部分を書かないでいると、最悪の場合、B事件のほうもその示談書で解決済みと扱われても仕方がありません。そのため、「本件に関し」を入れるか入れないか、よく考えて決定する必要があります。 (2)権利の行使条件  示談書は、単なる当事者間の約束事に過ぎず、公正証書にしない限り、裁判なしでは強制執行ができません。また、公正証書にした場合であっても、強制執行できるのは金銭給付請求部分のみであって、建物の明け渡しや、物の引き渡しを強制することはできません。  内容があいまいであったり、違法が含まれていたりして、公正証書にできないようなレベルの示談書を作成してしまうと、後に違約があった場合の対応措置が制約される危険性があるので、権利義務の内容や、行使の要件などは、民法・商法・会社法その他の法令に適合し、かつ一義的に特定できるように記述し、誰から見ても同じ意味での解釈をされるように留意する必要があります。 (3)違約時の対処  違約があったらどうするかを事前に完全にカバーすることは結構難しい問題です。しかし、合意なしに法的に主張できる制裁手段は非常に限られているので、話し合いができるうちにできるだけ有利な条件設定をしておくことは有効です。 (4)包括的清算条項  「示談書」完成時点では、原則として、当事者間のすべての債権債務関係の清算が合意されている必要があります。一般には、「相互に請求を放棄」「その他の債権債務なし」の二つのセンテンスで権利関係をリセットします。 (5)日付・署名  日付は原則として作成日です。持ち回りなどで署名時期がずれる場合は、最後の日とすればよいでしょう。  日付を遡らせることは可能ですが、当然合意が必要ですし、具体的な状況次第では遡らせることに意味がなくなるケースもあるので、事実と違う記述をするのはあまり好ましくありません。  示談書は最終合意で基本的には変更不可のものなので、慎重を期するためには、きちんと当事者が面談をして、その場で自署・捺印を確認するのが原則です。代筆や印刷では、後日信用性を争われた際に反証が難しくなる可能性もあるので、自署にしましょう。 (6)その他  契約ですので、各自1通づつ原本を持つのが原則です。ただ、印紙税の節約のために、一通だけを作って、債務者にはそのコピーを控えとして渡すという方法もあります。  合意書のなかでもっとも難しいのは、上記(2)の書き方です。これは、法律の体系をきちんと理解していないと、正確な記述をするのが難しい部分ですから、示談前に専門家にチェックを依頼していただくほうがよいでしょう。

  • 不正競争防止法19条で保護されるケース

     不正競争防止法は,需要者の間に広く認識されている商号,商標等(以下,「商品等表示」といいます。)について,同一のものや類似しているものを他人が使用することを禁止し,周知された著名表示を保護しています。事業者間の公正な競争を確保するためです。その結果、特定の商品等表示の使用を,誰か特定の人や会社に独占させることになります。  他方、このように特定の商品等表示の使用を特定の人や会社に独占させることは,他人の事業活動を著しく制限することにつながりかねません。  そこで,不正競争防止法は,例え需要者の間に広く認識されている商品等表示であっても,一定の場合には,誰でも自由に利用することができると定めています。  今回は,その代表的なものとして,以下の3つを紹介します。 1「大阪」は誰のもの?~普通名称・慣用表示~  不正競争防止法は,「普通名称」や「慣用表示」については保護の対象外とし、誰でも自由に利用できるとしています。普通名称や慣用表示はいわば公共の財産ですので,特定の人や会社に独占させることは妥当ではないからです。  例えば,「泉佐野」で,泉佐野クリニック,泉佐野不動産,泉佐野クリーニング,泉佐野鮮魚店がそれぞれ営業している場合に,仮にいずれかが全国的に有名になったとしても,「泉佐野」という商号をその人に独占させることがいかに不都合かを考えてみると分かりやすいと思います。  もっとも,何が普通名称か(逆にいえば何が「固有名称」か)の判断は困難な場合もあります。例えば,「正露丸」は,最初に「征露丸」という名前で発売された整腸薬の名称でしたが、同様の製品がいくつかの会社から「正露丸」の名称で長年販売され続けたために、裁判所においても、固有名称から普通名称に変化したと判断された代表例です。普通名称か固有名称かで結論が大きく変わりますから,商品等表示がどちらであるかは非常に重大な問題といっていいでしょうが、その判断はなかなか微妙なところがあります。 2 私の名前ですが?~自己の氏名~  不正競争防止法は,自己の氏名については不正な目的でなければ誰でも自由に使用することができるとしています。自己の氏名を使用することができなければ個人が営業主体の場合にその特定性に不都合をきたすことや、自己の氏名を使用することはいわば人格権の行使であってこれを制限することは妥当ではないことが理由とされています。  古川さんが開業しようという場合に,古川という自分の名前を使用するのは当然のことですし、仮に「古川」という商品等の表示がすでに全国的に有名になっていたとしても,それに便乗しようという不正な目的がないのであれば,全国の古川さんは自分の名前である「古川」を自由に使えるべきだという考えは常識にも合致するところでしょう。 3 先に使ったもの勝ち?~先使用の抗弁~  不正競争防止法は,特定の商標等表示が著名となる前から当該商標等表示を継続的に使用していた者は,不正の目的でなければ,当該商標等表示を自由に使用することができるとしています。これを「先使用の抗弁」といいます。当該商標等表示が継続的に使用されると社会生活上で、一定の信用力,識別力が備わり,いわば既得権として保護する必要が生じるためです。  例えば,山之内さんが小学生時代のあだ名だった「ヤンマー」を商標にして、家電製造販売の事業を開始したとします。その事業はそれほど軌道に乗らず,長年経営しながら「ヤンマー」の認知度は極めて低いままでした。その後,他の会社が「ヤンマー」という商標を用いて農業用機械販売の事業を開始したところ,その機械が爆発的にヒットし,「ヤンマー」の機械は全国的に有名になりました。この場合、山之内さんの家電製品を機械の「ヤンマー」製だと勘違いする需要者も出てくるかもしれません。しかし,それでも,山之内さんは,「ヤンマー」という商標を用いて事業を継続することができるのです。  ただし、そのような場合でも、山之内さんが不正目的で「ヤンマー」の機械を作って混同防止の措置も取らずに販売すれば、違法になる可能性はあります。常に早い者勝ちというわけでもありませんので、注意は必要です。

  • 不正競争になる「類似・混同」

     一気に例を挙げます。  不正競争の例「マンパワージャパン vs 日本ウーマン・パワー(同業種)」「ヤシカ(カメラ) vs ヤシカ(化粧品)」「NFL(衣類) vs NFL(家具)」「シャネル vs スナックシャネル」「シャネル vs ラブホテルシャネル」「ヨドバシカメラ vs ヨドバシポルノ」「東急(鉄道) vs 高知東急(タレント)」「VOGUE(ファッション誌) vs ラ・ヴォーグ南青山(マンション)」  不正競争でない例「リーバイス501 vs 505(同業種)」「泉岳寺(寺院) vs 泉岳寺駅(都営地下鉄)」  実際の事件では、膨大な証拠資料と相互の言い分が文書で飛び交いつつ争われるので、焦点が見えにくいのですが、要は、商号や商標・意匠などによる他人のブランドイメージに、タダ乗り・悪乗りして利益を得ようとしたのか、それともたまたま似ているだけで、他人のブランドのイメージを利用する意図やブランドを侵害する可能性は全くないか、その違いが事実上の争点です。  上記のうち、不正競争とされた案件は、名前があまりにも似ていたり(同じだったり)、販売方法や広告表示などがブランドにただ乗りするようなものだったり、実際に消費者・取引相手から混同したことで問い合わせが多発して業務に支障をきたしたり、風俗上のイメージでブランドの価値を著しく下げてしまうものだったりというものでした。  なお、法律には「混同」と書いてあるので、シャネル事件のように、あの一流ブランドのシャネルがまさか場末のラブホテルやスナックを経営しているはずがないと誰もが考えるだろうという点をとらえれば、宝飾品ブランドとしての誤認混同がない以上、侵害にならないのではないかとの考え方もあります。  しかし、最高裁は、不正競争防止法の「混同」概念には、ブランドがもともとしている営業との同一性誤認だけではなく、その他の業種であっても当該表示が使われた場合に一般消費者が受け取るイメージが模倣元のブランドに通じるところがあれば、侵害になりうると判断しています。  他方、不正競争でないとされるケースは、上記の争点の判断で、似ているといえば似ているかもしれないが、その表示の使用によって、元のブランド表示が侵害されたり、あるいはブランドイメージにただ乗りして利益を上げようとするものではないとされたものです。  以前にも申しましたが、他人の努力にただ乗りしないという道徳的ともいえる規範が「不正競争」という法律用語を通じて法規範になっている分野ですので、実務上はできる限り謙抑的な事業企画をするべきといえるでしょう。難しいことではありますが。。。

  • 不正競争防止法で保護される「地域範囲」

     会社法ができるまでは、同一市町村内での同一商号が登記できなかったのですが、会社法施行後、商業登記のルールも変わり、同一所在地の同一商号だけが禁止され、そのほかのケースは登記自体は可能な仕組みになりました。  しかし、会社法8条では、不正な商号利用を規制しており、不正競争防止法2条1項1号でも同一・類似の商号使用が不正競争の一つされています。そのため、法務局で登記が認められた商号だったとしても、他の同一・類似商号の会社から、会社法や不正競争防止法違反を理由として訴えられる可能性がないとは言えません。  ちなみに、会社法上の保護では「不正の目的」という主観的要件(故意に準じる)がありますが、不正競争防止法では、不正の目的の有無にかかわらず、客観的に「需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似」の商号を使って「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」をすれば、損害賠償責任を負います。その意味では、会社法違反より、不正競争防止法違反のほうが引っかかりやすいといえます。  そもそも、「主観的要件」の主張立証は、民事・刑事問わず、裁判で難しい争点の一つです。たとえば、殺人事件で、もし「殺すつもりはなかった」という言い分が通れば、結果的に人が亡くなっていても、「傷害致死」になってしまうようなことです。  不正競争防止法に基づく損害賠償請求事件では、「広く認識されている」の点について、どのような地理的範囲を意味するのかが争われることがあります。事案としては、老舗のとんかつ屋さんが横浜・川崎を中心に店舗展開していたところ、神奈川県鎌倉と静岡県に同じ店名のとんかつ屋が開業したので、それをやめさせようとして提訴したという案件があります(勝烈庵事件)。  結論としては、鎌倉の店のほうは表示の使用禁止が認められましたが、静岡の店のほうは、不正競争行為にならないとして、表示の使用禁止は認められませんでした。  古い法律では、周知範囲を「日本国内」と読めるような規定になっていたので、神奈川県一帯というような狭い範囲でも「周知」といえるのかどうかが議論になりうるのですが、現行法上は、一定の地域範囲に限った周知でもよいが、その保護範囲は、当該周知の範囲内に限られると解釈されています。上記のとんかつ屋さんの件では、静岡県にまでは周知されたといえないという判断がされたことが結果に影響したわけです。  この「周知性」に関しては、注意を要する点が一つあります。それは、他人Aが長年扱ってきて実績のある商品等XをBが譲り受けた場合にも、B自身がほかの競争者から当該商品等の利益を守るためには、XがA社のものではなく、B社のものであるという点の周知をしていなければ、不正競争防止法上保護されなくなる場合もありうるということです。この点については、営業権譲渡やのれん代などといった話に関連してくるのですが、譲渡対価を見積もる場合には、譲受側での周知に要するコストも考慮する必要があります。

  • 不正競争防止法で保護される「形・色」

     関連の事件には次のようなものがあります。  会計伝票事件。経理で使う会計伝票(原告主張では、両サイドに綴り用の穴が等間隔に連続してあけてあり、帳簿につづった時に罫線が連続するように上下の余白がカットされた形態を特徴とする)を模倣されて、損害を被ったと主張した事件です。一審は、原告主張の特徴は、技術的に必要な形態であって、不正競争防止法上の保護を与えると特許や実用新案での保護範囲を超えてしまうとして、請求を棄却しました。二審では、技術的に必要な形態であったときも、不正競争防止法上の観点から独自の保護を検討してよいとして一審の論理を否定しましたが、本件では、原告主張の特徴自体は、需要者に対して商品表示性(それを見た一般需要者の大半が製造販売者を特定認識する程度に周知されているという状態)がないので、不正競争防止法上の保護は認められないとしました(最高裁も高裁同旨です)。  ルービックキューブ事件。あの立方体色合わせパズルです。これはいくつか事例があって、結論もまちまちですが、東京高裁の裁判例では、パズル本体には商品表示性がないとしています。事情としては、本体だけでは特徴と言えないとされたもので、別の大阪地裁の裁判例では、ルービックキューブのパッケージの類似について争われて、不正競争による損害賠償が認められたケースがあります。  三色ラインウェットスーツ事件。ウエットスーツとしてはこれまで使われていなかった独自の配色の組み合わせで新商品を売り出したところ、これがヒットして模造品が出回ったという事例です。色づかいに関しては、デザインの範囲であって、それが創作性のある著作・意匠として保護される場合以外は法的保護対象にならないのが原則です。しかし、特定の色彩・配色を継続使用し、それがその製造販売者に、際立って特徴的なものであるとして市場で広く認識された場合(商品表示性と周知性の獲得)には、その使用利益を保護されるとの結論です。このケースでは意匠権の登録が拒否されたデザインの案件でしたが、一審・二審ともに損害賠償請求を認めました。  濃紺家電事件。もう20年前くらいの話になりますが、それまで生活家電といえば白しかなかった時代に、三洋電機が濃紺色を採用した家電製品のシリーズを売り出しました。私もつい最近までそのころ買った濃紺色の炊飯器を使っていました。それは余談として、この商品シリーズがヒットしたので、他のメーカーもこれを後追いして、同じような色の商品を販売してきました。そこで、三洋電機は競合メーカーを不正競争防止法で訴えました。裁判所は、一審・二審ともに、統一色そのものでは製品の識別機能があるとはいえず、消費者はメーカー名表示と併せて識別していることなどから、請求を棄却しています。  前記の三色ライン事件との違いは、色が一色のみであり、それ自体では特徴的とまでは言えなかったことです。同じような事件でオレンジ戸車事件(それまで黒か白だった戸車をオレンジ色で発売したらヒットした事例)というのがありますが、これも請求棄却案件です。単色だけで不正競争と認められるためには、販売形態や商品識別について、需要者に対するさらに一層のアピールが必要ということです。

  • 不正競争防止法で保護される「商品等表示」

    この関連で問題となった事案には、次のようなものがあります。 VOGUE事件。米国で1892年に創刊された著名なファッション雑誌の名前を分譲マンションの名前の一部に使った事件です。裁判所は、不正競争行為であると判断しています。「Vogue」は英語(語源は仏語)で「流行」の意味らしいですが、ファッションと不動産という違う分野であってもダメだとされました。 映画・書籍・ゲーム等のタイトルに関しては、「超時空要塞マクロス」「究極の選択」「スイングジャーナル」「ゴーマニズム宣言」「D・カーネギー」「ファイアーエムブレム」などの裁判例があります。それらの結論は、不正競争とされたものもあれば、そうでないものもあり、保護範囲に関しては、具体的な事情により、判断が分かれている状況です。 裁判の勝敗を分けるのは、権利者側が当該表示をどれくらい市場に周知・認識させていたか、侵害者側が当該表示を使って、どの程度消費者を誤認させたか、その二つの程度の問題です。この立証のために、不正競争の商品表示が問題となった事案では、新聞雑誌の記事やパンフレット、取引状況など膨大な証拠資料の提出が必要になります。 契約に基づく請求は比較的簡単な事件ですが、上記のように、双方の言い分が真正面からぶつかり合う種類の裁判は労力が大変なものになりがちです。一般の事件でいえば、双方過失のある交通事故、専門的判断が争われる医療事故、離婚原因に争いのある離婚事件などの不法行為案件は、立証に苦労する類型の事案です。 裁判実務をよく知る弁護士の多くは、この手の事案は、最終結論を判決に委ねずに、早期に和解をすることが望ましいと考えていると思いますが、一般の方にとって、自分の言い分を貫徹させない決着方法は、なにか、負けを認めるようで、あまり受けのいいものではないかもしれません。 目先の勝ち負けにこだわらないことは、いろんな戦陣訓でも言い古されていることではありますけれども、まさに言うは易く行うに難しです。しかし、本当に判決まで取るべき難しい事件というのは、結構限られた数しかないように思います。 弁護士が増えて訴訟社会化と言われる今日、当事者の利益そっちのけで法的手続きを強行し、紛争をあおるような弁護士も巷間少なからず出現しているようですから、当事者にとって本当の利益がどこにあるのかを見失わないように、紛争が起こってもまずは落ち着いて対処することが肝要です。

  • 不正競争防止法で保護される「営業」

     不正競争防止法は、いわゆる自由主義経済を前提として、各事業者間で、公正なルールの下で自由に競争をすることが、経済全体の健全性の維持に役立つという理念のもとに制定されている法律です。  この法律で保護される「営業」に関して、面白い最高裁判例があります。それは、宗教法人の名称に関するものです。理解の前提として、宗教法人の仕組みについてまず説明します。  宗教法人には、その法人が独立して一つの団体となっている「単立」宗教法人と、ある宗派の名前のもとに同じ宗派の宗教団体が多数集まっている「包括」宗教法人とがあります。多くの著名な宗教団体は、本部が包括宗教法人となり、各地に設けられた支部、分教会、末寺などがそれぞれ「被包括宗教法人」となって、上部団体である包括宗教法人に所属するという形をとっています。包括・被包括ともに、それぞれに代表役員という代表者の定めがあり、法的な観点からはそれぞれが独立した法人としての取り扱いを受けます。本件で問題となった「T」もこの包括宗教法人でした。  さて、紛争の発端は、Tの分教会を主催する代表役員が、T本部と異なる独自の教義解釈に基づいて、T本部からの独立(被包括関係の廃止といいます)をしたにも関わらず、独立後も依然として「T・・教会」の名前で宗教活動をしていたことから始まります。本部の教義と違うことをTの名前で実行されたのでは、宗教団体としての統一が図れませんし、誤認をする信者などの出現により、布教活動にも支障が出ます。そこで、当然ながらT本部としては、その名称を変更するように、その元分教会の代表者に要請したのですが、全く聞き入れられませんでした(その代表者としては、自分の考え方こそがTの教義に合致しているとの信念があったのかもしれません。多くの伝統的宗教でも、いくつかの宗派に分かれていることは、今日当たり前ですから、それと対比して考えると、同じ宗名で別派があるという状況が必ずしもありえないものとまでは言い切れません)。  結果的に、T本部は、裁判の手段を使いました。そこで、T本部が主張したのが、不正競争防止法2条1項の不正競争と、宗教法人としての名称使用権の侵害の二点でした。  一審の地方裁判所は不正競争防止法の適用を認めましたが、二審の高等裁判所は、不正競争と名称権侵害の両方を否定しました。最高裁は高裁の結論を採用して、権利侵害を否定しました。  ただし、最高裁は、宗教法人の活動全部に不正競争防止法が適用されないとしたわけではありません。「宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動」には適用されないが、「それ以外の(例えば、境内地を駐車場として貸し出して収益を上げるような)収益事業」には適用されるとしています。これは、不正競争防止法が「経済収支上の計算に基づいて行われる活動分野での競争を公正の理念に基づいて規制しようとする目的」の法律であることによる適用場面の限定をした判断であり、司法として、宗教活動の自由に従前からかなりの配慮をしている傾向の一環でもあるとみられます。  このような宗教活動に対する司法の抑制的な姿勢は、名称権侵害の判断にも影響しており、最高裁は、「多少の不利益があっても」本件の程度では、まだ名称権侵害ありとは言えないとの判断を示しています。本件のような場合には、同一の名称使用の事実だけではなくて、その名称使用により、包括法人側にも現実の経済的被害(たとえば、教義を混同されて、週刊誌等から名誉棄損を受けたとか、誤認によって一般信者が離反したとか)が発生したことまで立証できなければ、法的な損害賠償や名称使用の差し止めを求めることはできないと考えられます。  Tがこの裁判でいったいいくらの弁護士費用を払ったのかは知りませんが、不正競争防止法を持ち出すのはかなりの無理があったように思われます。  特に、宗教団体の内紛に対して、裁判所は信教の自由の観点から、積極的な判断を回避する傾向にあります。一般の事業会社にあっても、たとえば、「二人の社長候補のうち、どちらが適任か」などという問題を裁判所で争うことはストレートには不可能です。そのような事案では、手続きの瑕疵を主張したり、職務代行者選任申立のなかで、実質的な不都合を多数列挙して主張立証していく必要があります。  裁判所だからといって、なんでもかんでも判断するのではなく、あくまでも憲法以下の法規範の適用を判断しているわけです。

  • タイプフェイス事件

     だれもがコンピューターを美しい見た目の画面で操作できる(WYSIWYG)ようになって20年以上が経過し、現代のコンピューターやプリンターにはいろいろな種類のフォントがたくさん入っています。  このフォントに関する文字デザイン部分(タイプフェイス)にはどのような法律の保護があるのでしょうか。  考えられるのは著作権、意匠権、一般の不法行為法上の法律上保護相当利益、不正競争防止法などです。  著作権については、かなり高度の創作性・審美性がなければ、保護しないと判断した最高裁判例があり、この判例による限り、タイプフェイスを著作権で保護するのは無理があります。最高裁基準で著作権の対象になるのは、書家の筆致などに限られるものと思われます。ただし、フォントを一定のプログラムに基づいて創作するソフトウエアに関しては、著作権法での保護対象です(これは諸外国でも同様)。  意匠権については、アメリカ合衆国やEU諸国でタイプフェイスが保護対象とされている例があるものの、平成18年・19年に財団法人知的財産研究所が実施した調査によると、日本の意匠法の保護制度とは違った面があり、そのまま日本法には取り入れがたい状況と言われています。  一般の不法行為法で、例えば完全な模倣(デッドコピーといわれます)をしたものであれば、違法性があり、タイプフェイスとして法的に保護される場合があるとは言われていますが、これも実務上確立した見解とまではいえません。  不正競争防止法ではどうかというと、平成5年の東京高裁決定(モリサワフォント事件)では、平成5年改正前の法律に基づいて、デジタル化した書体を収めたプリンター等の販売の差し止め仮処分に関して、不正競争行為と認めて、差し止めの仮処分を認めた例があります。しかし、その後法改正で模倣商品の譲渡に関する規定が加わったことで、この裁判例がそのまま一般化できるかどうかには議論があります。  以上のとおり、タイプフェイスが知的財産であるという共通認識はあるものの、それを法的にどのような枠組みで保護していくかは、なかなか難しい問題のようです。  現状としては、利用許諾契約でユーザーを囲い込むことでデザイン業者の利益が確保されていますが、タイプフェイスの権利性がはっきりしないために、海賊版や模倣品による侵害からの防御が意匠や特許などの場合よりもさらに困難な実情もあります。  とはいえ、もともとは先人が意思伝達のために数千年を経て育ててきた結果が文字になって現代に流通していることを考えると、文字の変形バージョンに対するデザイン料の収受を超えて、万人に主張できる一般的な権利性を認めることに、やや躊躇を覚えるのは、、、私だけでしょうか。 参考文献リスト