投稿者: YamanouchiKatsura

  • 忘れかけの滌除・・・

     徳永英明「壊れかけのRadio」(1990)より

     かつてあった悪名高き滌除(てきじょ)について,平成15年改正前に実務で滌除権者側に立つ機会がなく,そのまま忘れ去ってしまいそうなので復習しておく。

     滌除とは,抵当不動産(所有権,地上権,永小作権)を取得した第三取得者が,抵当権者に対して,適当に(ここがミソ)評価した金額の支払いを申し出て(現実の提供までは不要),抵当権者の承諾があれば遅滞なくその金額を弁済または供託して,抵当権を消滅させることができるという制度である。

     沿革的にはフランス民法の制度を参照したものだそうだが(新版注釈民法(9)416~419頁),フランス民法と違う制度設計をした点が,ことごとく日本における滌除に現実の弊害(抵当権者の過大な負担・増価競売・保証金の問題)を産んでしまったように思える。

     滌除の手続は次のとおりであった。
    ① 抵当権者→滌除権者
       抵当権実行通知
    ② 滌除権者→抵当権者
       滌除権の行使(①の到達から1ヶ月以内
          これがなければ,抵当権者は通常の不動産競売を実施する)
       ちなみに主債務者,保証人など債務の全額弁済義務を負う者
        は第三取得者でも滌除権を行使できない
    ③ 抵当権者が滌除を拒否する場合
       増加競売請求通知(②の到達から1ヶ月以内 期限後は承諾
          と見なされる)
      抵当権者が滌除を承諾する場合
       滌除権者は抵当権者へ滌除金額を弁済または供託し,抵当
        権は消滅する (競売は行われない)
    ④ 増価競売申立(③の発送から1週間以内)
       滌除金額の1割増の金額で落札されなければ,その価額での
         買い取りが抵当権者に義務づけられる
    ⑤ 増価競売の手続により終結

     平成15年担保・執行関連法の改正があり,滌除は廃止され,類似の制度として,抵当権消滅請求制度が設けられた。
     この制度では,上記①の通知義務がなく,第三取得者が抵当権消滅請求の申し出を行い,抵当権者が競売をするかどうかを判断するという順序になり,増価競売制度は廃止された。消滅請求を受けた場合の不動産競売の申立義務はあるが,第三取得者の消滅請求通知から2ヶ月以内に行えば良くなった。消滅請求ができる期限は,競売による差押までである。

  • 新会社法でどうなる「有限会社」?

     新会社法の制定に伴い,旧有限会社法は「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という)」1条3号により,会社法施行とともに廃止された。
     存立根拠法を失った「有限会社」は,新会社法のもとで,いったいどのような扱いをうけるのか。というのが今回のテーマである。

    参考サイト 法務省民事局 (条文や概説が掲載されています)

     新会社法施行日(平成18年5月1日)時点で「現存する」旧有限会社は,「株式会社」として存続する(整備法2条1項)。つまり,新会社法下で株式会社の規定の適用を受けることになる。この会社を「特例有限会社」という。
     旧有限会社での「定款,社員,出資持分,出資一口」は,そのまま株式会社の「定款,株主,株式,一株」へスライドする(同条2項)。旧有限会社法では増資の上限を定める仕組みがなかったので,株式会社化初期の「発行可能株式総数」は,「発行済株式総数」と一致することになる(同条3項)。

     法律上は「株式会社」として扱われるにも拘らず,特例有限会社は,新会社法の下でも,「有限会社」と名乗ることが強制されており,「株式会社」と名乗ることが禁止されている(整備法3条1項,2項)。法律上株式会社だからといって,勝手に株式会社を自称することはできない。そのためには,整備法による変更の手続を取ることが必要である(後述)。
     旧有限会社法下でなされた資本増加,合併,分割,組織変更等の決議は,施行日前に完了して所定の手続を取っていなければ無効となってしまうので注意が必要である(整備法4条)。
     定款の記載事項のうち,「目的,商号,本店ノ所在地,公告方法」は,そのまま特例有限会社の定款として引き継がれるが,「資本総額,出資一口金額,社員氏名・住所,各社員出資口数」は意味がないので引き継がれない(整備法5条)。なお,複数の公告方法を定めている定款はその記載部分が無効になるので,官報掲載のみが公告方法となる(会社法939条1項1号,同条4項,整備法4条4項)。
     定款に関する整備法の特別の定めのため,定款に記載がなくても一定の定めが擬制されることになる(先ほどの公告の例や,後述の譲渡制限の例など)。そのため,定款の閲覧請求があった際には,記載のない事項についても説明しなければならない(整備法4条5項)。

     旧有限会社の「社員名簿」は、会社法上の「株主名簿」とみなされる(整備法8条1項)ので,新たに作成する必要はないが,そもそも社員名簿が全く更新されていない旧有限会社もあるので,この際,現在株主を確認する意味で作成しておくほうがよい
     特例有限会社では,株式譲渡制限および株主の追加株式取得にあたって会社が承認したとみなす規定が定款にあるものとみなされ,これと異なる定款を設けることができない(整備法9条)。施行日前の譲渡,自己株式取得,持分の消却(資本減少除く)手続は従前通りに扱えばよい(整備法11条~13条 ただし,消却の登記事項は新法による)。
     なお,資本減少・営業譲渡に関しては,施行日前に招集手続が開始されていれば当該社員総会で従前の例によって進めることができる(整備法29条 ただし,資本減少の登記事項は新法による)。

     株主総会については次のような特則がある(参照 会社法297条)
    1 特例有限会社の総株主の議決権の十分の一以上を有する株主は,取締役に対し,株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して,株主総会の招集を請求することができる(整備法14条1項本文,ただし定款に別段の定めがある場合除く)。会社法本則と違って,割合が高いこと(会社法では100分の3以上)と,保有期間制限がないこと(会社法では6ヶ月前から)が違っている点である。
     裁判所の許可による招集の要件は本則どおりである(整備法14条2項)。
    2 特例有限会社の株主総会の普通決議については,「総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)であって,当該株主の議決権の四分の三」が要件となる。本則は「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の三分の二」となっており,特例有限会社においては定足数の定めがなく,議決権要件が本則より重い点が異なっている
    3 特例有限会社は,株主総会において議決権を行使することができる事項(会社法108条1項3号)についての定めがある種類の株式に関し,その株式を有する株主が総株主の議決権の十分の一以上を有する株主の権利の行使についての規定の全部又は一部の適用(例:総会招集請求権など)については議決権を有しないものとする旨を定款で定めることができる。 本則では,そのような制約がない。
    4 特例有限会社については,総会招集手続,議決権行使書面の交付,株主提案権,総会検査役選任,検査役報告を端緒とする裁判所の総会招集等(会社法297条,301~307条まで)の規定は、適用しない。
     なお,施行日前の社員総会招集手続は原則としてそのまま生かされ,それにより開催される株主総会(旧社員総会)の権限と手続は旧有限会社法の例によればよく,役員選任等の決議もその決議の日に,会社法による決議があったものとみなされる(整備法15条,同16条)

     新会社法では,機関のメニューが多彩になったと指摘されているが,特例有限会社で置くことができるのは,取締役のほかは,監査役のみであり,その権限は会計監査に限定される(整備法17条,24条)。役員の任期はない(整備法18条)。

     会計帳簿の閲覧等の請求等に関する特則もある(整備法26条)。
     特例有限会社の会計帳簿の閲覧等の請求については「総株主の議決権の十分の一以上の議決権を有する株主」「親会社社員であって当該親会社の総株主の議決権の十分の一以上を有するもの」とされており,本則(100分の3以上,親会社社員の持株数要件なし)より要件が重い。なお,旧有限会社法で各社員が閲覧請求できるようにしていた場合に附属明細書作成義務が免除される条項(旧有限会社法44条の2第2項)は,そのまま適用される。
     計算書類の公告義務はなく,支店への備付け義務もない(整備法28条)。
     役員解任の訴え(会社法854条)ができる株主は,総株主の議決権の十分の一以上の議決権を有する株主のみに限定されている(39条)。

     その他清算会社について上記と同様の趣旨の特則が定められている(整備法33条,34条)。

     休眠会社のみなし解散に関する規定・特別清算に関する規定・株式交換及び株式移転に関する規定(会社法472条)は適用されない(整備法32条,35条,38条)。

     最後に特例有限会社が商号を変更して通常の株式会社へ移行する方法を説明する(整備法45条,46条)。
     まず,株主総会(社員総会ではない)を開催し,整備法45条1項に基づく定款変更の決議を行う。
     次に,本店所在地について2週間以内,支店所在地について3週間以内に,特例有限会社の解散登記と変更後の株式会社の設立登記をする。
     このように,単なる商号変更ではなく,解散と設立の二つの登記をしなければならないが,それぞれの解散・設立手続は定款変更決議一本で事足りる。

    (後記)

    株式会社でありながら,有限会社を名乗ることを強制され,会社法の規定も整備法で制限適用される非常にユニークな存在である「(特例)有限会社」は,法史学的観点からは,昭和13年から平成18年までの間に法律制度が現実と理論の間を迷走した痕跡として,後世の評価を得るだろう。

     いっそのこと,特例有限会社には,株式会社化せずにこのまま頑張ってもらい,数百年後に「日本の伝統を遺す名門企業-特例有限会社-」ってなタイトルで経済雑誌に特集されるようになったりすると,大変おもしろいのではないかと思ったりしている。

     がんばれ有限会社!!

  • 公益通報者保護法ってなんだ

     2004年に制定され,周知期間を経て,今年4月,様々なニュースに紛れてひっそりと施行となった公益通報者保護法。
     内閣府は専用のサイトを立ち上げてPRしているが,やる気があるのかないのか,人材・資材に余力のある大企業はともかく,一般の中小企業経営者にとっては,いったいなんだそれはというコトになっているのではないだろうか。
     2002年には,すでに一部の有志弁護士たちが内部告発者支援のための団体(公益通報支援センターを作って活動をはじめているが,このたび,法の施行に伴って,日弁連をはじめ,各単位弁護士会でも支援の仕組みをつくって運営していくことになった。
     当然ながら日本最先端の弁護士会を自負する(・・・と思っているのは私だけか?)我が大阪弁護士会も,すでに相談窓口を設置し,支援体制を始動させている。
     この法律はとにかく,内容がわかりにくいうえに,適用範囲も狭いというもので,必ずしもこの法律に従ったものでなくても一般法理で保護される場合がある(同法6条)ということであるから,「ないよりまし」なレベルのものだといえる。
     ともあれ,内部告発・公益通報が企業不祥事を暴き,国家社会の秩序を維持するに極めて有効であった過去の事実(牛肉偽装事件,リコール隠し事件等),それにもかかわらず告発者が冷遇されがちであるという現実にあっては,そのような内部告発者・公益通報者が法的保護の対象なのだと宣言することにはそれなりの意味があるともいえよう。
     大阪弁護士会の無料電話相談は毎週月曜日の12:00~15:00,06-6364-6251で実施している。