事業活動の取引相手についての問題点

1 企業活動は,個人を相手にする場合と会社を相手にする場合があります。
 法的には,自然人法人という大きな区別があります。
 普段取引をしているときには,あまり意識されていないのですが,取引相手が,法的にどのような主体なのかを確認しておかないと,いざトラブル時に法的責任の所在が曖昧にされてしまうことがあるので,注意が必要です。

2 個人の場合
 個人が,会社組織を作らないで,自分の屋号だけで商売をしている場合です。
 たとえば,マエダさんが,「前田商店」として小売店を経営している場合には,法的に表現すると,「前田商店 こと マエダ某」となります。当然,本名だけで取引をしてもかまわないのですが,実は,「前田商店」の部分(屋号)は,「商号」として保護されるケースがあります。ここではひとまず説明を省略します。
 このような個人との取引の場合には,どんなに大勢で仕事をしていても,最終的に責任追及できるのは「マエダ某」一人に対してです。
 個人的な出資者があっても,出資金の返還を約定していれば,マエダ某に対する債権者の一人として出資金を返してもらうことが出来ますので,出資者にまったく責任追及できないばかりか,かえって競合することになります。会社の株主が出資の範囲で責任を負う(倒産すれば株の価値がゼロになる)のとは違っています。
 そして,万一この「マエダ某」が亡くなったときには,金銭債権は各相続人の持分割合に応じた分割になってしまいます。たとえば,マエダ某さんに奥さんと子ども二人がいて相続された場合,400万円の債権が残っていたとしたら,奥さんには200万円、子どもには100万円づつを分割して請求するしかありません(連帯債務にはなりません)。相続人全員が相続放棄すれば,ゼロになります(正確には、何か遺産が残っていれば、相続財産管理人選任の申立をして、それを相手に回収します)。
 これを防ぐためには,個人との取引の場合には,その事業の後継者にも一定の保証債務を負担してもらうことが有効です。そのためには必ず保証契約書が必要です(口約束は無効とされています)。なお,根保証といって,一定の範囲で責任を負わせる場合には,必ず極度額(限度額)を決めなければならず,保証期間にも一定の制限があります。
 個人の特定のためには,住民票印鑑証明書の提出を求めて,運転免許証パスポートなどの顔写真のある公的証明書と照合することがほぼベストの方法です。社員証や健康保険証などは偽造が容易で,後日検証ができないので,個人特定には適していません。

3 会社の場合
 会社との取引の場合には,相手が登記された法人なのかどうかを確認することが第一歩です。
 かつては多額の資本金を準備しないと株式会社が作れなかったのですが,現在は事実上資本金に意味がなく,登記手続き等の費用さえあれば,簡単に株式会社が作れます。会社にはそのほかにも持分会社というものもあり,有限会社もあります(但し,有限会社は現在新設出来ず、すでに設立済みの有限会社も法律上は株式会社と見なされています)。
 いずれにしろ,法務局に有効に登記がされていれば,法人ということになります。
 登記のある法人であれば,今度はその代表者が直接の取引相手になります。代表者は住所氏名が登記されているので,これを手がかりにして個人を特定します。
 本来,会社の業務は代表取締役が権限を持つのですが,社内の決済システムが整備されていて,事業部の部長や専務取締役が,対外的な契約の権限を任されているケースもあります。法的に厳密に言えば,それらの人が「支配人」として法的に会社の業務の一部を代理できる権限があるとして登記されていなければ,対外的な処理をすることができません。ただ,一般的には会社に帰属するものとして信頼して取引されているのが実情かも知れません。

4 取引先管理上のチェック
 屋号だけで把握している個人は,営業所だけでなく,できる限り現実の住所,住民票の住所を情報として押さえておく必要があります。
 そうでないと,夜逃げをされたらいざというときに追跡しようがありません。
 会社については,登記されていることを確認するのは当然として,代表者の交代などにも注意を払う必要があります。ごく希に,登記があるけども実体がないペーパー会社を隠れ蓑として使い回す者もありますので,必ずしも登記事項証明書が万能ではありません。会社との取引の場合は,その会社そのものの資産のほかに,代表者個人の資産,収入なども把握しておいて,可能であれば保証契約書をとっておくことが望ましいといえます。