成果主義賃金制度がさかんに導入された初期段階から、現在では、運用実務蓄積の時期へと移っており、最近のいわゆるホワイトカラーエクゼンプション(white collar exemption)の議論で、再び新たな問題が派生しつつあります。今回はとりあえずベーシックなところだけ解説します。
成果主義賃金には、いろいろなパターンがありますが、典型的な歩合制のほかに、前年度実績に応じて、翌年度の1年分の給料額を決めて、月割りして支払うという内容がよくあるようです。
給料の決め方としては、労働者の目標設定・その達成度などを考慮して査定しつつも、労使の協議の余地を残して、労働者自身の勤労意欲を引き出すというタイプの仕組が多く採用されているようです。
このような制度を巡り、成績評価の見直しに伴う賃料の減額が不当かどうかで争われた多くの裁判例があります。
まず、成果主義型賃金体系への変更のため、就業規則を変更した場合の有効性が問題とされます。この点につき、「賃金などの労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきであり,この合理性の有無は,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである(最高裁判所第一小法廷平成12年9月7日判決・民集54巻7号2075頁参照)」というのが現在の法解釈ですので、賃金体系の変更はかなりハードルが高い印象があります(従業員の理解が必須となります)。
次に、成果主義賃金への変更と同時に、肩書き役職の見直しを実施した場合に、実質的な降格処分ではないかとして争われるケースがあります。これについては、降格に合理的な理由があるかどうかが審理されます。会社都合解雇や懲戒処分のような従業員に対する不利益処分にあたっては、十分に根拠となる事実をあらかじめ証拠として残しておくことが必要です(業務日誌や始末書、戒告処分通知書など)。
さらに、成果の評価や具体的な賃金決定内容そのものに対する異議があって争われるケースもあります。これは、就業規則の変更が有効かどうかとのセットで問題になることが多いですが、一般的には、この査定内容に関する不満がもっとも頻繁に起こります。協議をしたが、次年度年俸が決まらないときにどうしたらよいかという問題もあります。
裁判上では、ひとまず前年と同額にすべきという結論を出した例がありますが、これについても、前記同様に、いろいろな事情を総合的に考慮して判断されているので、協議ができないときは必ず前年同額にしなければならないということではありません。
賃金の決定基準は、法的には、「総合考慮」と言われていて、具体的な事案に適した一律の法的規制があるわけではありません(最低賃金を除く)。そのため、労使交渉でも難しい話題ではあります。
「労働審判」という手続は、このような「総合考慮型」の労働紛争の解決に適したものとして運用されています。社内で協議が着かなければ、そのような場で第三者を交えて審議するということも考えられます。
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