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  • やふおく

     いわゆるYahooオークションのことを短縮形でこういうらしい。
     なんだか陽気なおっちゃんのいる八百屋のような雰囲気(八百福・ヤオフク?)だが,私のイメージは魑魅魍魎集まる淫猥な巣窟(中国・韓国の一部偽造品販売店のような…?)であった。実際にやってみるまでは・・・。
     弁護士は,日頃から詐欺・恐喝,破産・債務整理といった事件に接しているので,気づかないうちに世間一般に対するイメージも性悪説になっていってしまったようだ。友人にこの話をしたら,「やはり弁護士は最悪の隣人だね」と言われてしまった。
     実際の「やふおく」は素人同士の信頼関係に基づいた売買契約が滞りなく締結され,実施されていた。これがごく普通の姿なのだと実感できて,やふおくを体験してよかったと思う。正直言って,最初は半分以上の取引でなんらかのトラブルに巻き込まれるはずと覚悟していたが,いまのところすべて順調のようである。
     弁護士感覚でいうと,瑕疵担保責任はどうなるのだろうかとか,錯誤無効を言われたらどうしようとか,いろいろとよけいなことを考えて,契約書の一通でも添付したくなってしまうのだが,なにはともあれ,相互の信頼関係が基礎となっているということが,この社会に対する信頼を再認識させてくれて,うれしかったと同時に反省もした。
    このような形でセカンドハンド・アウトレット市場が発展することは,リサイクルを通じて地球環境にもよい効果を上げるだろうし,家計も助かるのだろう。
     また,これだけ個人の破産・民事再生が増えているなか,たいがいの貸金業者が順調に収益をあげているのも,借りたものは返すという素朴な誠実さを素朴に実行している人のほうが圧倒的に多いからなのだろう。

  • なにがなんでも逮捕・勾留か?

    最近のニュースから
    ①死亡した兄を11カ月間放置したとして,警視庁千住署は無職容疑者(女性68歳)を死体遺棄容疑で逮捕(近くのアパートに住む兄(74歳)が死亡しているのを見つけたのに,遺体にごみ袋をかぶせ,大量の芳香剤を置いて放置した。唯一の親族だった容疑者は毎日,朝と夕方に食事を届け,死後も同じ生活を続けていた)
    ②秋田県警大館署は,県立高英語教諭(男性31歳)を偽造通貨行使容疑で現行犯逮捕(ホテル駐車場で代行運転の代金を支払う際,偽の新1000円札1枚を使用した。偽札は表のみを白黒コピーしたもので,透かし部分には裏側から同僚教諭の顔写真がのり付けされていたもの)。
     事件内容の珍妙さも驚きながら,問題はそれって本当に逮捕相当事案なのか?ということだ。
     逮捕には,通常逮捕(刑事訴訟法199条),緊急逮捕(210条),現行犯逮捕(212条)の3種類があり,罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由と逮捕の必要性の要件を満たさなければ,違法な逮捕である。逮捕されると最大72時間の身柄拘束がされ,この間は弁護士としか面会できない。さらに,いったん逮捕されてしまうと,72時間で釈放されるということはほとんどなく,そのまま10日間(最大25日間)の勾留となることが多いし,多額の保釈金を準備できなければ,下手すると裁判が終わるまで(半年以上)身柄拘束されてしまうので,逮捕されるというのは,一般の社会人にとって,とてつもない不利益である。
     それだけのことをしたのだから,仕方がないと言ってしまえばそれまでである。
     しかし,このニュース①のケースは,どんな必要から逮捕したのだろうか。逮捕・勾留は,一般には逃亡・証拠隠滅のおそれがあることが理由とされているが,死体遺棄は死体を放置したことという単純な要件なので,逮捕前の時点ですでに証拠は確定しているし,捜査そのものは逮捕しなくても,まったく支障がない。68歳の女性が単身逃亡することも考えられないだろう。しかし,警察官が書いた逮捕状請求書には,必ず逃亡・罪証隠滅のおそれありとなっていて,裁判官もこれを鵜呑みにして令状を出す。そして勾留となったら逃亡・罪証隠滅のおそれがあると言って,身柄釈放を認めないのだ。
     ニュース②のケースは,通貨偽造(無期・3年以上の懲役)という法定刑の重い事件であるが,これもまた,証拠の固められた事件であって,逃亡はともかく,証拠隠滅はありえないだろう。それでもなお,裁判の実務では,立派に証拠隠滅のおそれがあるということになっているはずである。
     全国の令状担当裁判官に対して聞きたい「あなたが出したその令状のその事件では,具体的に証拠隠滅の手段が想定されていて,本人が逮捕・勾留されていなかったら,それが現実になってしまうと,ほんとうにそうなると,ほんとうに考えているのか?」と。

  • 労働審判法と一般民事紛争

     労働審判法の研修会に出席した。原則3回の審理で,裁判官と労使各1名の労働審判員が調停・審判を行おうというものである。
     これまで,間延びした民事裁判の審理手続きに慣れてきた身にとっては,2回目期日までにすべての主張立証を終えるというのはなかなか困難に思えるのだが,おそらく一般的に紛争解決として望まれているのは,このような迅速手続きなのではなかろうか。
     ただ,激しい民事紛争は時として,当事者間で感情的な対立が著しく,時の経過とともに歩み寄っていくという面もあるので,個人的にはただひたすら迅速化した手続きが最高のものだとも考えていない。
     要するに,当事者が納得できる手続きであれば,極論すれば5分で終わろうが,10年かかろうが,同じ価値があるのだけれども,社会的なコストを考慮すると,自ずとその事件に見合った適切な時間のかけ方というものがあるのは認めざるを得ない。
     弁護士が介入すると,これに弁護士自身の業務コスト・メリットの問題が関係してくるので,さらに事情は複雑になるのだが・・・