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  • インターネットの広告宣伝媒体としての効用

    最近,インターネット上で私のWebサイトを見たというお客様からの問い合わせが引き続いた。

    あまり更新もしていないし,リンクも張られていないので,非常に目立ちにくいサイトであるにもかかわらず,非常に真摯なお問い合わせを頂くことに,正直言って,驚きを感じている。

    かつては,いや,いまでもなお,弁護士一般にいえることだが,一見のお客さんは歓迎されない。これは,弁護士が他人の権利義務に直接介入する職業であることから,交渉相手や関係者への影響が非常に大きいために,信頼関係のない相手方からの依頼そのものが何かしらの悪意を持って行われる可能性がなくはないためである。

    たとえば,悪意を持った者は,利害関係を隠した上で依頼し,弁護士が利益相反に追い込まれるように誘導したり,弁護士の回答を勝手に解釈して不法請求の根拠に吹聴したりするなどして,弁護士がもっとも大切にしている社会からの信頼を容易に破壊してしまうことがありうるからである。

    しかし,最近私が経験しているのは,信頼ある紹介者を介した取引にも匹敵する良質な依頼者からの問い合わせである。考えてみれば,市役所等で開催される市民法律相談もその窓口にたまたまアクセスした者の相談であって,決して悪意ある依頼者ばかりでないのだから,窓口がたまたま私のWebサイトであったからといって,悪意があるとはなから決めてかかるのは間違いなのであろう。

    私のような小規模なブティック経営を目指す弁護士事務所にとっては,今後,Webサイトが有用な広告宣伝材料になるだろう。そのときが来るまでに,さらにサイトの内容(ひいては,私自身の専門性)を磨いていきたい。

  • 新司法試験制度に対する見解

    <司法試験制度概観>
     司法試験は,平成18年から,新司法試験になるが,平成23年までは,旧司法試験もそのまま併行実施される。平成23年の旧司法試験は前年の筆記試験免除者に対する口述試験だけなので,実質上は平成22年までが旧司法試験ということになる。また,併行期間中は,新旧いずれか一つの試験しか受けられないので,ダブルチャンスをねらうことはできない。
    <旧司法試験>
     旧司法試験の合格者数は,平成18年が600人,平成19年が300人と予定されており,平成22年までにさらに縮小する可能性もある。
     旧司法試験で,一般に,「司法試験」といえば,二次試験のことを指しているが,大学等で教養科目履修済み者には免除される「一次試験」もあった。その概要は次の通りである。
     毎年1月に実施,受験資格の制限はなく,試験地は,全国6カ所(平成18年),試験科目は一般教育科目(人文科学関係,社会科学関係及び自然科学関係)の短答式・論文式,それと外国語科目(英語,フランス語,ドイツ語,ロシア語又は中国語のうちいずれか一つ)の組み合わせで,イメージとしては,公務員試験に近い,知識問題である。
     第二次試験が一般に司法試験と呼ばれているものである。
     まず,毎年5月に短答式(マークシート)で憲法・民法・刑法の試験があり,その合格者だけが同年7月の論文式試験を受けることができる(前年に短答式に合格していても,翌年に不合格であれば,その年の論文試験は受けられない)。科目は,憲法,民法,商法,刑法,民事訴訟法,刑事訴訟法である(平成18年 ちなみに私が受験した平成7年は訴訟法は選択式で,プラス法律選択科目もあり,私は刑事訴訟法・刑事政策を選択している)。そして,同年10月に,前年と当年の論文式試験合格者を対象として口述試験が実施され,最終合格者が11月に決まる(前年に論文式に合格していれば,翌年に不合格でも,その年の口述試験を受けられる)。
     合格者数は,司法制度改革審議会意見に従って,平成22年ころには3,000人程度とする方向で司法試験管理委員会において検討されており,平成14年からすでにその意見に沿って,旧司法試験合格者も増員されている。
     司法試験合格後は,1年4ヶ月の統一研修があり,その後法曹界へ進んでいくことになる。
    <新司法試験>
     上記の通り,受験資格を制限しないところからスタートする旧司法試験と異なり,新司法試験では,複雑な受験資格制限がある(http://www.moj.go.jp/SHIKEN/shinqa01-04.html 法務省サイト参照)。法科大学院を経由しない「予備試験」が平成23年から実施されるとのアナウンスがあるが,法務省の構想によれば,旧司法試験とほとんど同じ内容・レベルの試験を課すことを想定している模様である。また,旧司法試験には受験回数・期間制限がないが,新司法試験では,同一受験資格につき3回・5年以内での合格を要求している。
     受験制限の仕組みは,複雑である。たとえば法科大学院卒業者が予備試験にも合格していた場合には,どちらかを選択することになり,一度選択すると,5年間は最初の受験資格以外の受験資格では受験できないから,同時に複数の受験資格を備えても意味がない。また,法科大学院生が在学中に平成16年,17年の旧司法試験を両方受けていれば,平成18年の新司法試験が3回目となって,一発勝負をしなければならないことになる。さらに,別の受験資格で再受験するには,前の受験資格による最後の受験後,さらに2年間の待機期間が生じる。これをもとに,現在考えられる最悪のコースを想定すると,「頭は悪いが,一生懸命勉強して少しでも早く合格しようと,平成16年に法科大学院2年(法学既習者)コースに入学し,同年と翌年に2回の旧司法試験を受けたが合格できず,平成18年の新司法試験にも合格できなかったため,平成23年から再び参戦すべく,次の受験資格(予備試験)への合格を目指してまさしく「予備試験のための受験予備校」に通い,晴れて予備試験第一回目にして合格して受験資格を取得したが,平成28年までに3回の受験で新司法試験に合格することができず,大学法学部卒業後12年目にして司法試験を断念」という経過であろう。こうしてみると,平成23年から実施されるという「予備試験」の制度目的は,法科大学院の落ちこぼれ救済にあると思われるが,そうであるとすれば,非常に効率の悪い制度になっているように思われる。
     では,新司法試験の内容はどうか。
     試験制度は,短答式と論文式が,同時期に行われ,口述試験は行われない。短答式で一定数が足切りされ,論文の採点がされるのは,短答式で足切りされなかった者だけである。短答式科目は,公法・民事・刑事に分かれ,科目としては,憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法が対象である。論文式科目は,上記に加えて,倒産法,租税法,経済法,知的財産法,労働法,環境法,国際公法,国際私法のうち一科目を選択するものとなっている。
     司法試験合格後の修習については,当面現行制度が維持されるが,給費制(修習生全員に国家公務員扱いで給与を支給すること)の廃止などが提案されており,制度設計自体も大きく変化する可能性がある。

     この制度が我々既存の弁護士に与える影響については,また後日。

  • 債務問題に対する法的手段選択についての当職の考え方

     法的手段選択の順序を考えるにあたっては,
    1 債務者の経済的な再生を第一とする
    2 費用負担がもっとも少なくなるようにする
    3 無理な計画案を立てない
      (債権者の同意が得られない,また,いずれ破綻するので,弁護士としての信用を落とし,ひいては次の債務整理を困難にする)
    4 債務者にもっとも有利な手段を選択すべきだが,それにとらわれて債権者の利益を不当に損なってはならない
     手段選択
    放置
     放置というと無責任なようだが,そうではない。時期的に法的手続に乗せるのが早すぎる場合や,手続前にさまざまな条件整備が必要な事案がある。ときとして,債権者からの執拗な計画案提示要求や差押の警告にさらされるが,実情を説明し,誠実に対応することによって,多くの場合は乗り切れる。放置の場合には,そのつど相談料(1時間1万円)を受領するか,ある程度見通しをたててそのための費用をあらかじめ請求するか,事案に応じて最初に決めておく必要がある。
     また,時効の援用ができる事案(最終弁済から5年間以上請求がなく,債務名義も取得されていないなど)には,相談料のみで本人名義による時効援用通知の内容証明を作成するサービス(通常,作成のみで別途2万1000円のところを無料)をしている。この場合には,万一時効要件を満たしていない場合は,引き続き債務整理に移行する必要がある場合もあるが,その際には別途料金となる。
    債務整理
     民事再生をとるまでもない圧縮後の債務額150万円未満の簡易な事案や,逆に再生・破産ができない特殊な事案等が債務整理の対象となる。簡易な交渉のみでカタがつかない場合は弁護士側のコスト倒れになるので,最近では債務額が150万円を超える場合には,原則として民事再生で対応することにしている。債権者によっては,10年分割にまで応じる例はあるが,一般には3~5年以内で分割返済が可能であることが債務整理の目安となる。ただし,一部の債権者は3年以内の返済案しか受け付けないという硬直的な対応をするので,その場合には,個別の事情に応じて別の手続を検討しなければならない場合もある。
     当職基準によると,着手金は債権者1社あたり2万円(ただし,最低5万円から,上限74万円),報酬金は減額された額に対する10%または分割対象総額の5%のいずれか高い方の額である。
     なお,近時の最高裁判例の効果により,過払金請求に対する各社の対応が非常に早くなっている。当職は訴訟手続のコストとリスクを勘案し,過払金請求額の9割で示談する方針をとっており,迅速な回収を優先している。
    特定調停
     調停は,3年以内の弁済を原則としており,原則として元本のカットまでは調整しないので,よほど返済余裕のある場合でないと成立は難しい。150万円を超えれば民事再生のほうが有利だし,150万円以内でも債務整理のほうが自由な交渉がしやすい。また,調停体によっては,質が悪く,債務者に無理を押し付ける例もあるし,調停を経ると債権者に債務名義を取得されてしまい,時効も10年にのびるというデメリットがある。そのため,当職としては,特定調停のメリットを感じていないので,選択肢には入れていない。本人に弁護士費用を支払う資力がない場合や,自力で債務整理をしたいという場合には,手続の方法程度の指導にとどめて,あとは本人にまかせる。着手金は任意整理に準じて扱うが,報酬は請求しない(後の手続に関与しないため)。
    個人再生
     最近では,圧縮後の債務額が150万円を超える場合の第一次選択としている。これは,債権者・債務者双方にとって,もっともバランスのよい弁済案を効率的に作成できるという利点からである。また,手続きに約10ヶ月を要するので,その間に弁護士費用を積み立てたり,経済的基盤を立て直す貯金をするなどの余裕が生まれるメリットは大きい。
     ただし,裁判所提出書類の手間を考慮すると,圧縮後の債務額が150万円を下回る事案では,手続きがやや重く,弁護士費用を考えると債務者のメリットも少ない。また,住宅ローン関係の規定が難解で,建物を共有したり,親子ローンを組んでいる事案の場合には,金融機関の理解も不十分なため,準備が難航し,手続が使いにくいという問題がある。また,連帯保証の場合の債権評価についても理論的には問題が多いが,対応としてはゼロ届けとして,異議を待つことを常套手段としている。
     弁護士費用は31万5000円(ただし,住宅ローン特例を使うときは42万円)である。裁判所の費用・実費は計2万円程度である。
     立法・施行当初は,弁護士が履行確保をすることが推奨されていたが,現実問題として,入金遅れが生じると,債権者からの督促への対応に追われ,弁護士が取り立て機関化して,債権者代理人の立場に陥ってしまう問題がある。また,仮に債務者から一定の管理費用を取るにしても,小規模法律事務所では事務負担が大きすぎて割に合わない。債務者自身が振込支払いするよりも余計な費用負担を債務者に負わせることになるので,当職としては,再生案が確定するまでが代理の範囲とし,履行は債務者自身の責任としている。従って,債権者からの問い合わせは初回から債務者自身に対応してもらうことをあらかじめ説明している。
     返済期間は3年が原則で,5年まで伸張できるが,大阪地裁の実務上では,実情の報告をすれば,ほぼ5年までの伸長を認める運用をしているようである。5000万円が適用債務額の上限である(弁済額は500万円が上限)。給与所得者の場合には,計算上の可処分所得が実態以上に大きくなる例が多いので,最近では個人民事再生の申立はすべて小規模で行っている。債権者が異議を述べる例は極めて少ないので,これまでに不認可となった例は経験していない。
    一般再生
     法人事業者の場合には一般の再生事件となるが,10年以内で債務額の10%を弁済できることと,事業安定までの1年間程度の小口債務を現金決済できる資金力があること,というのがもっとも債権者に厳しいぎりぎりの適用ラインであると考えている。債権者との交渉をすすめやすくする観点からは,5年以内で債務額の30%以上を弁済する再生案を立てられることが望ましい。つまり,反面でいうと,その程度の余力もないのであれば,企業単体としての再生よりも,M&Aや廃業を考えた方が現実的である。
    破産申立
     法人・個人を問わず,自己破産は最後のやむをえない手段と考えている。
     かつて事務所に相談に来た顧客のなかで,申立書類まで完備し,提出直前のところで,親類縁者からの援助申し出があり,事業を整理してかろうじて本業で生き延び,現在は再び収益を上げるようになった事業者や,破産を決意して準備に着手してまもなく,大口の継続取引が成立したため,民事再生の方法で準備をやり直して,その後認可成立した事業者の例がある。このような例からも,まずは自助努力,それでもだめなら親類縁者・取引先など,ありとあらゆるチャンネルを使って,簡単には諦めないというファイトが必要である。
     ただし,それが成功するためには,確かな状況分析と資金の裏付け,取引先の協力,経営者の改革意識などが必要であり,弁護士に相談にくる時点では,残念ながら,それらの要素がことごとく摩耗しきっており,経営者の意欲が失われている事例がほとんどである。
     給与所得者の自己破産は収入の範囲内で生活する感覚や技術が身に付いていないこと,さらにそのような感覚や技術を鈍磨させる簡易審査の消費者金融が多数存在して,幻惑的ともいえる営業活動を行っていることが主な原因であり,すこしでも早く借金のできない状態を作る必要がある。
     しかし,最近では,「ブラックOK」と称して,破産経験者にまで高利融資する業者があり,これに手を出してしまう債務者も少なくない。このような債務者の取り扱いには弁護士の間でも様々な意見がある。当職としては,よほど悲惨な状況がなければ,あまり同情する気になれず,過去の経験からも,弁護士が介入しても,おそらくそのまま連絡を絶って逃げてしまうか,返済案を履行できなくなってしまう可能性が非常に高いので,最近では依頼を受けても破産経験者からの受任は断っている。
     基本的には年収を超える債務(住宅ローン含む)があるサラリーマンは,非常に重い返済リスクをかかえており,家族や自分自身,勤務先にひとたび不幸が生じたら,あっという間に経済的に破綻してしまう危険があることを十分に認識して,できるだけ早く無借金(住宅ローンは除く)の家計運営に切り替えるべきである。
     破産事件には,申立段階で,さらにどのような申立内容とするかを検討しなければならないが,この点については,項を改めて説明する。