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  • 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」を知っていますか?

     この法律は,平成15年7月16日に公布され,平成16年7月16日から施行されています。
     性同一性障害については,フリー百科事典Wikipediaの説明がコンパクトでわかりやすいので,一読をお勧めします。
     この法律は,性同一性障害者について,性別の変更を法的に認容する要件を定めたものです(1条)。
     性同一性障害者は,法律上では,『生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているもの』と定義されています(2条)。これは,社団法人日本精神神経学会の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第2版)」に従った診断で確定されることになります。
     この法律に従った「性同一性障害者」となれば,次の要件を満たす場合に限って家庭裁判所に「性別の取扱いの変更の審判」の申し立てをすることができます。これは本人申立に限られ,親族や検察官等が申し立てをすることはできません(3条)。
     ① 二十歳以上であること
     ② 現に婚姻をしていないこと
     ③ 現に子がいないこと
     ④ 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
     ⑤ その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
     いかがでしょうか。かなり厳格な要件となっており,身体的概観の近似まで要求されているので,いわゆる性転換手術(学術的には性別適合手術と称するようです)は必須ということになります。

  • 破産債権・財団債権とはなにか

    破産手続開始が基準になる
    「破産手続」が開始(法30条1項)されると,破産会社に属するすべての財産は,「破産財団(法34条)」となり,裁判所が選任した「破産管財人(法31条)」によって管理され,管財人はこれを換価(法第7章)して配当(法第8章)の準備をします。
    債権者が,破産会社に対して有する債権には,大きく分けて「破産債権」,「財団債権」の別があります。破産手続開始の時点を基準として,その前の原因に基づいて生じた請求権はすべて「破産債権」となるのが原則です。
    破産債権は,「管財人報酬」,「財団債権(破産手続開始後の原因による債権等で,破産債権よりも優先して支払を受けることができる債権)を破産財団から控除し,なお残額があれば配当に与るという種類・順位の債権です。
    ちなみに,破産手続開始は正確に時刻で表現されます(例:平成18年1月27日午後5時決定)。従って,たとえば,破産会社に対して,破産手続開始1分前に販売した商品と,開始1分後に販売した商品とでは,破産前に販売した分の代金は破産債権となり,破産後に販売した分の代金は財団債権になるという違いがあります(ただし,後述するとおり,継続的給付契約の場合の例外があります)。
    (2012/11/30追記:最近閲覧数が増えてきていて、この部分の不正確さが気になっているので、補足しておきます。官公庁の方もご覧になっているようなので・・・)
    *租税等債権については、単純に「前・後」だけでは区別できませんので注意してください。まとまって書かれているサイトを見つけましたので、こちらをご参照ください。>http://www.yokotax.com/wp1/sozei.html 他人様のサイトなので、別窓表示されます。

    (2013/8/29追記:なぜかわからないが、依然として閲覧数が多いので、ますます不正確さが気になっています。大きな間違いは書いてないつもりですが、かなり要約しているので、やはり不正確なところはたくさんあります。より詳しい情報を知りたい方は、破産法学習ノート2 財団債権 関西大学法学部教授 栗田 隆先生のサイトがお勧めです。)

    債権回収の方法

    商品の売主として,「破産債権」である代金債権を回収するには,動産売買先取特権(民法311条5号)に基づいて「別除権(破産財団に属する特定の財産<この場合は販売した商品>から,他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利 破産法65条1項)を行使することができます。具体的には,当該商品を破産管財人の同意を得て引き上げるか,動産競売(民事執行法190条)により売却換価するなどの方法をとります。また,別除権を行使しないで,当該別除権を放棄するなどにより,一般破産債権者として配当に参加することもできます。「財団債権」にあたる代金債権は,そのまま破産管財人に請求すれば足ります。
    なお,破産財団の実態は,破産した会社の資産ですから,破産者に対するすべての債権(管財人報酬,財団債権,破産債権)の財源は破産財団しかありません。また,財団債権のための財源だけを破産財団と称しているのではありません。 破産会社は大幅な債務超過に陥っているので,「破産債権」に対する配当は,ほとんどないのが通例です。場合によっては,「財団債権」すら払うことができず,按分弁済をすることもありますし,もっとひどくなると,管財人報酬だけで破産財団が消えてしまうという例すらあります。

    継続的供給に関する債権の例外

    基本契約に基づいて一定の期間ごとに料金が算定される継続的な供給(電気、ガス等)は,破産法55条2項により,申立の日が含まれている料金算定期間(例:申立が平成18年1月25日の場合,その日を含んでいる1月20日~1月27日まで)の供給分は,破産手続開始前の分であっても例外的に財団債権になります。また,破産手続開始後の債権は法148条1項2号により当然に財団債権です。

    延滞金等の扱い

    財団債権の遅延利息延滞金は財団債権ですが,減免をお願いしているのが通例です。破産債権の破産手続開始後の遅延利息延滞金は劣後破産債権となり,一般破産債権(元金・破産手続開始前の利息など)の次の順位で配当されます(破産法97条)。

    破産法の実務文献リスト

  • 下請代金支払遅延等防止法を知っていますか?

    第1 はじめに
     この法律は,下請代金の支払遅延等を防止して,親事業者の下請事業者に対する取引の公正をはかり,下請事業者の利益を保護することを目的にしています(1条)。法律の中で,親子概念が流用されているのはおもしろいですね。とても零細事業者に優しそうな印象の法律ですが,現実には親による子の虐待を防止するための法律という実態にあるといえるでしょう。
     建築業の孫請けを除いて,ほとんどの下請事業者に適用されます(2条)。親事業者はすべて法人で,下請事業者との規模の差と委託する事業内容の違いで次のように規定されており,地方公共団体を除きます(2条7項)。
      製造委託等下請
       1号 資本金3億円を超える法人が,個人(資本金問いません)又は資本金3億円以下の法人を下請けとする場合
       2号 資本金1000万円超3億円以下の法人が,個人又は資本金1000万円以下の法人を下請けとする場合
      情報役務提供下請
       3号 資本金5000万円を超える法人が,個人又は資本金5000万円以下の法人を下請けとする場合
       4号 資本金1000万円超5000万円以下の法人が,個人又は資本金1000万円以下の法人を下請けとする場合
     個人の場合は,規模要件がありませんので,資産規模が100億円にも及ぶような,とてつもなく巨大な個人事業(そんなものが実在するかどうか知りませんが)であっても,資本金50億円の法人との関係では「下請事業者」になります。
     また,再委託による脱法行為を禁止するために,資本金1000万円超の法人から役員の任免や業務執行等について支配を受け製造委託等を受けている者が再委託をする場合には,元の親と再委託先との関係を比較して上記に当てはめて,親・下請関係を判定します。たとえば,親事業者の委託先が資本金300万円の有限会社であった場合,再委託先(孫請)との関係をみると2号要件に当てはまりませんが,この委託先が親事業者から支配を受けている場合には,親事業者と再委託先との関係を見て2号要件を判定するので,やはり再委託先も本法で保護されることになります。

    第2 具体的な保護条項概説
    1 下請代金の支払期日が短期に制限されています(2条の2)

     給付・役務受領時から60日以内のできる限り短い期間内を支払日と定めて,その日までに払う必要があります。検査が完了していないことは支払留保の条件になりません。このような支払留保は一般の取引基本契約書中によくある条項ですが,親・下請関係にある事業者同士にあっては,当該条項が本条に違反して無効になりますので,注意してください。
     もし,取引に当たって支払期日を定めなかった場合は,現実の給付・役務受領日が支払日となり,60日を超える期日を定めたときは現実の給付・役務受領日から60日目が支払日となります。

    2 法定書面の交付義務があります(3条)
     親事業者は,下請事業者に対して製造委託等をした場合には,直ちに(社会通念上即日が目安です),下請事業者の給付内容,下請代金の額,支払期日及び支払方法その他の事項を記載した法定書面を下請事業者に交付しなければなりません。ただし,正当な理由により,未定のまま発注しなければならない場合は,その事項の内容が定まり次第,直ちに当該事項を記載した書面を下請事業者に交付すれば足ります(3条1項 なお,電子受発注システム(EOS)によることも可能です 同条2項)。

    3 親事業者には一定の遵守義務が課せられています(4条)
    (1)親事業者は次のような行為をしてはなりません(4条1項)。
     1号 受領拒否
      下請事業者の責任がないのに,下請事業者の給付の受領を拒むこと(*製造委託等のみ適用)
     2号 支払遅延
      下請代金を支払期日が経過しても支払わないこと
     3号 不当減額
      下請事業者の責任がないのに,下請代金の額を減ずること
     4号 不当返品
      下請事業者の責任がないのに,一旦受領した物の引き取りを強要すること(*製造委託等のみ適用)
     5号 買いたたき
      通常支払われる対価に比べて,著しく低い下請代金の額を不当に定めること
     6号 購買強要
      自己の指定する物や役務を強制して購入・利用させること
      ただし,下請事業者の給付内容を均質にしたり,改善を図るための必要がある場合など正当な理由があれば可
     7号 報復行為
      上記の行為を下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に通報したことを理由に,取引停止等の不利益な取扱いをすること
     なお,7号は,通報先が限定列挙されていますが,同条の趣旨から見て,マスコミや系列企業への情報提供であっても,それを理由として取引停止等をすることは違法となるものと解されます。
    (2)また,親事業者は,次のような行為により,下請事業者の利益を害してはなりません(4条2項)
     1項の場合は,規定された行為をすること自体が禁止されていますが,2項では,下請事業者の利益を害さない限度ではそのような行為をすることが認められるという違いがあります。
     1号 早期決済
      必要な原材料等を親事業者から購入させた場合に,下請事業者の責任がないのに,当該原材料等を使った給付に対する下請代金の支払期日よりも早い時期に,その原材料等の代金を支払わせたり下請代金から控除したりすること
     商法の交互計算(529条)の仕組みを使っている場合にも,本法の適用があるときは,支払日に注意する必要があります。
     2号 割引困難手形の交付
      下請代金の支払につき,支払期日までに一般の金融機関での割引を受けることが困難な手形(サイトが繊維業で90日を超え,その他製造業で120日を超えるものなど)を交付すること
     3号 不当な利益提供要求
      親事業者が自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること
     4号 不当変更
      下請事業者の責任がないのに,給付内容を変更させたり,給付受領後にやり直させたりすること

    4 遅延利息の支払義務があります(4条の2)
     遅延損害金の始期は民法412条に定められていますが,本法では,給付受領日から起算して60日を経過した日を起算日と定めています。利率は,公正取引委員会規則により,年14.6%と定められています。
     なお,この利率を変更する特約が有効かどうか問題になりますが,本法は下請け事業者保護のための強行規定ですから,当事者間の合意により,この利率を超える下請事業者に有利な条項を定めることは問題ありませんが,逆に,特約でこの利率をさらに低くすることはできません。

    5 書類作成・保存義務があります(5条)
     親事業者は,公正取引委員会規則で定められているところに従って,下請代金の支払その他の事項について記載・記録した書類や電子ファイルを作成し,保管(2年間)しなければなりません。

    第3 その他情報
    1 相談窓口
     本法の管轄官庁は,中小企業庁公正取引委員会です。
      経済産業省・中小企業庁事業環境部取引課
         tel 03-3501-1669 fax 03-3501-6899
      公正取引委員会近畿中国四国事務所下請課
        〒540-0008 大阪市中央区大手前4-1-76
        大阪合同庁舎第4号館 tel 06-6941-2176
     このほか,大阪では,中小企業支援センターも相談窓口になっています。

    2 罰則
     残念ながら,罰則があるのは,法定書面不交付,不作成・虚偽作成(3条1項・5条・10条 50万円以下の罰金)と,報告・検査忌避(9条・11条 50万円以下の罰金)のみで,法人罰も割り増し罰金ではありません(12条)。
     この意味では,手ぬるい感の否めない法律ではありますが,精一杯活用して参りましょう。