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  • 最近腹の立つこと 消費者金融

     債務整理をする際に,長期の取引があると過払金を回収しなければならない。
     これは,①貸金業の規制等に関する法律利息制限法とで,利息の上限が違っていること,そして,②貸金業者の大半が,貸金業規制法を守っていないために,合法的に利息を収受できないこと(この点はあまり注目されていないが,まさにそのとおり。彼らは端的に違法営業をしている)の二つの問題から発生してくる奇妙な現象である。

     私が腹立たしいのは,この過払金返還について,消費者金融の特定の会社の態度が悪いという点である。大手でいうと,とくに対応がひどいのは,CFJアコムレイク(GEコンシューマクレジット)

     中小はもっとひどいが,それにしても,CMで「ちゃーんとアコム」とか,「話せるDIC」とか,「いつでも返せるレイク」とか言っているのだったら,法律に従って,過払金も「ちゃーんと」「話せば」「いつでも」返してくれたらいいのに,取引履歴を開示しない内容証明を送っても反応がない電話をすれば担当が変わっただの,前の担当から引き継いでいないだの,多重債務者の言い訳も真っ青の,厚顔無恥な対応をしているのが,彼らだ。

     比較的マシなのは,アイフル武富士だが,いずれもかつてひどく叩かれた過去を持つので,神妙にしているのだろう。社会的制裁は,ときに有効なのだと理解できる。
     それにしても,債務整理では,「びた一文負けない(従って,示談なら一括7割払えるのに,手間のかかる民事再生をやるハメになって,債務者には時間・費用(1年・30万円)がかかって,法定の最低配当(2割)長期分割(3年)返済計画になり,結果的には債務者にも債権者にもメリットがない)」という頭の固い対応に終始するくせに,過払い返還となると,とたんに「負けてくれ,7割で示談してくれ」とくる。ほんとうに,消費者金融業界のコンプライアンスとは,いったい何者なのだ。普段滅多に怒ることがない温厚な(?)私だが,最近の彼らには心から腹立たしい

     最近話題の金利引下げ問題で,消費者金融業界が激震を被っている事情はよくわかる。過払い返還なんて,自分が貸金業者の立場だったら正直言って「冗談だろ」と思ってしまう奇怪なシロモノだ。しかし,業界の実体が上のようなコンプライアンスとはほど遠いものである限り,まったく同情する気になれないのが実情の一端を知る弁護士としての率直な意見である。

     消費者金融は武富士アイフルを入れて上位5社くらいが残ってくれたら,あとは滅んでも大きな混乱はないだろう。本当の意味でしっかりとしたコンプライアンスを保つことのできる業者だけが消費者金融の利益を得られるような健全な業界になってほしい。
     そもそも年利20%を超える利息でも借りる需要は,到底正常な経済観念の持ち主のものではない。なぜなら,年利2割での借金は,借金額の2割相当の減収を意味するからだ。
     もし年収600万円世帯が恒常的に300万円の借金を抱えて年利2割の利子を払っていたら,その年の年収は1割も減る計算になる。そうやって,次第に実質収入が目減りして,ちょっとした誤算で最後には経済的に破綻してしまうのだ。

     年2割のパフォーマンスを持つ投資がある一方で,年2割の減収となる借財がある。金銭の世界では,豊かな者ほど財を増やし,貧しい者ほど財を減らす。そのこと自体はことさら非難すべきものとは思わない。それもまた一つの社会のあり方だろう。
     しかし,そうであればこそ,なぜ,貧しい者が財を減らしてまで借金しなければならないのか,破綻に至ること必至の貸金需要とはいったい何者なのか,そういったことを問わずして,ハイリスク層の需要があることを高金利維持の根拠とする論調には同調しがたい。

    日弁連,大阪弁護士会では,金利引下げの署名活動をしている。

    ぜひご協力願いたい。

    URLはこちら
     http://www.osakaben.or.jp/web/03_speak/iken/iken060606.pdf 弁護士会の意見書
     http://homepage2.nifty.com/yamanouchi-katsura/kinrisyomeidaiben.PDF 署名用紙
    (とりあえず,暫定的に私のホームページ上に置いてますが,そのうち弁護士会のほうにも掲載されるでしょう)
     

  • 管理費滞納者に理事の資格を認めないことは適法か?

    まず結論から。

    違法・適法の問題ではないので,集会や理事会で議論して自由に決めてください。その意味では,管理費滞納者に理事資格を認めないことは法律上可能です。

    <以下結論に至る考察>
     いわゆる分譲マンションオーナーの権利を区分所有権という。
     「建物の区分所有等に関する法律」が,区分所有権を規律している。
     区分所有者は共有部分や一棟の建物の管理のために,「管理費」や「修繕積立金」などを支払っている場合が多い。
     裁判例では,この管理費等の滞納が,同法第6条の「区分所有者の共同の利益に反する行為」となることが認められているが,仮にそのような行為に該当するとしても,管理費滞納は「支払わない」という消極的行為なので,たとえば,共有部分を勝手に取り壊して増改築したりするような積極的行為とは若干性質が異なると考えられる。
     一般には,1~2回分の管理費の滞納だけで,直ちに「障害が著しい」とまでは言えないであろうから,競売請求(同法59条)が認められるのは比較的悪質な場合である(なお,管理費滞納を理由とする専有部分の使用禁止請求を認めなかった事例として,大阪高等裁判所平成14年5月16日判決平成13年(ネ)第3322号参照)。
     法律上,区分所有権に対する権利制限は57条以下の「義務違反者に対する措置」の限度でしか許されず,それ以外に,たとえば「管理費を滞納した場合には,電気・ガス・水道の供給を滞納解消まで一時停止する」などの措置を総会決議や管理規約で定めることはできない。法30条が「法律に定めるもののほか,規約で定めることができる」としているのは,そのような意味であると反対解釈されている。

     余談だが,弁護士会の機関誌に「自由と正義」という月刊誌があり,その末尾ページに懲戒の公告欄(弁護士の人気ナンバーワン記事?)がある。そこで,懲戒事案として,マンションの管理規約中の「管理費滞納の場合は,共有部分の使用を禁止し,電気・ガス等のライフラインを切断できる」との条項に基づいて,うかつにも電気・ガスの配線切断に立ちあってしまった弁護士の(かわいそうな?)事案が掲載されていた。みんなで決めたから…とか管理規約に書いてあるから…といって,そのまま鵜呑みにしてはならないという教訓である。

     では,管理費滞納者に対して,管理者あるいは管理組合理事長やその一部門の役員の資格を認めないとする管理規約や理事会内部での申し合わせは法律に違反しないのだろうか。
     これについては,違法・適法二つの考え方があり得る。
     違法説の根拠は,管理費滞納者の権利制限は法に定める限度でのみ許されるところ,前記の通り義務違反者に対する措置の内容は極めて限定的なので,それ以外の種類の制約は一切認められないとする考え方による。
     他方,適法説は,管理者資格あるいは理事の資格について法律はなんら規定していないから,資格制限は原則として当該団体の自由であるとの考え方による。

     少々切り口を変えて,私的団体の理事の被選任権内容に司法的判断が及ぶのかどうかという議論の建て方をすると,いわゆる「部分社会の法理」の問題になる。
     この点,最高裁判例は,「司法裁判権が、憲法又は他の法律によつてその権限に属するものとされているものの外、一切の法律上の争訟に及ぶことは、裁判所法三条の明定するところであるが、ここに一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない。一口に法律上の係争といつても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがあるのである。けだし、自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあるからである。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。(尤も昭和三五年三月九日大法廷判決―民集一四巻三号三五五頁以下―は議員の除名処分を司法裁判の権限内の事項としているが、右は議員の除名処分の如きは、議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止らないからであつて、本件における議員の出席停止の如く議員の権利行使の一時的制限に過ぎないものとは自ら趣を異にしているのである。従つて、前者を司法裁判権に服させても、後者については別途に考慮し、これを司法裁判権の対象から除き、当該自治団体の自治的措置に委ねるを適当とするのである。)(昭和35年10月19日最高裁判所大法廷判決昭和34年(オ)第10号懲罰決議等取消請求事件)」としており,その後の政党内部の処分に関する昭和63年12月20日最高裁判所第3小法廷判決昭和60年(オ)第4号家屋明渡等請求事件で「政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばないというべきであり、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても、右処分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり、その審理も右の点に限られるものといわなければならない」としている。
     要するに,①一般市民としての権利侵害でない内部問題については,完全に自治に委ねられており,国法上適法かどうかの判断はされない。②仮に一般市民としての権利侵害であっても,まずは内部規範を参照し,その規範が公序良俗に反しないかどうかを確認し,規範が合法であれば規範による。③規範が無効・不存在であれば条理(ここでは,わかりやすくするため「一般常識」と言い換えておく)に基づいて,適正手続が取られていたかどうかを判断する。という論理流れになる。

     この考え方に基づいて,管理者や理事の被選任資格に「管理費滞納者でないこと」を定める内部規約を再考してみると,管理者や理事の資格についてはなんら法律上の規律があるわけではないので,その内容は当該団体内部で自由に定めればよいということになる。もし当該資格制限の事由が,「外国人であること」「女性であること」だったりすると,直接に一般市民としての権利侵害(平等原則違反)の問題となってくるが,「管理費滞納者であること」というのは,純然たる内部問題にすぎないので,当該資格制限が適法か否かを問題にする余地がないことになろう。

     この考察からすると,タイトルの質問に対しては,「違法・適法の問題ではないので,集会や理事会で議論して自由に決めてください。その意味では,管理費滞納者に理事資格を認めないことも法律上可能です。」ということになる。

  • 忘れかけの滌除・・・

     徳永英明「壊れかけのRadio」(1990)より

     かつてあった悪名高き滌除(てきじょ)について,平成15年改正前に実務で滌除権者側に立つ機会がなく,そのまま忘れ去ってしまいそうなので復習しておく。

     滌除とは,抵当不動産(所有権,地上権,永小作権)を取得した第三取得者が,抵当権者に対して,適当に(ここがミソ)評価した金額の支払いを申し出て(現実の提供までは不要),抵当権者の承諾があれば遅滞なくその金額を弁済または供託して,抵当権を消滅させることができるという制度である。

     沿革的にはフランス民法の制度を参照したものだそうだが(新版注釈民法(9)416~419頁),フランス民法と違う制度設計をした点が,ことごとく日本における滌除に現実の弊害(抵当権者の過大な負担・増価競売・保証金の問題)を産んでしまったように思える。

     滌除の手続は次のとおりであった。
    ① 抵当権者→滌除権者
       抵当権実行通知
    ② 滌除権者→抵当権者
       滌除権の行使(①の到達から1ヶ月以内
          これがなければ,抵当権者は通常の不動産競売を実施する)
       ちなみに主債務者,保証人など債務の全額弁済義務を負う者
        は第三取得者でも滌除権を行使できない
    ③ 抵当権者が滌除を拒否する場合
       増加競売請求通知(②の到達から1ヶ月以内 期限後は承諾
          と見なされる)
      抵当権者が滌除を承諾する場合
       滌除権者は抵当権者へ滌除金額を弁済または供託し,抵当
        権は消滅する (競売は行われない)
    ④ 増価競売申立(③の発送から1週間以内)
       滌除金額の1割増の金額で落札されなければ,その価額での
         買い取りが抵当権者に義務づけられる
    ⑤ 増価競売の手続により終結

     平成15年担保・執行関連法の改正があり,滌除は廃止され,類似の制度として,抵当権消滅請求制度が設けられた。
     この制度では,上記①の通知義務がなく,第三取得者が抵当権消滅請求の申し出を行い,抵当権者が競売をするかどうかを判断するという順序になり,増価競売制度は廃止された。消滅請求を受けた場合の不動産競売の申立義務はあるが,第三取得者の消滅請求通知から2ヶ月以内に行えば良くなった。消滅請求ができる期限は,競売による差押までである。