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  • 通勤災害について

     以前、労働災害のうち、「業務災害」について説明しました。労働者災害補償保険法では、「通勤災害」についての補償規定も置いています。
     通勤災害とは、就業に関して、住居と就業場所との間を、合理的な経路・方法により往復中に生じた災害のことです。

     会社としては、従業員の安全管理上の問題として、従業員に対して、どのような交通手段をとって会社まで出てきてもらうのかについて、具体的に合理的と考えられる指示をすることが出来ます。例えば、公共交通機関の利用指定、自転車・バイク・自動車等による私有手段での通勤の可否などです。

     ただし、会社が認めていない通勤方法で通勤していて事故にあった場合でも、その経路・手段が合理的である限りは、通勤災害になります。例えば、自動車通勤を禁止している会社で、会社に無断で自動車通勤して交通事故にあった場合にも通勤災害扱いになり得ます。なお、そのような場合に、会社の服務規程違反として懲戒することは問題ありません。

     通勤災害になるかどうかは、労基署が判定しますので、会社が直接この問題に関わることはありませんが、労務管理上の知識としては押さえておく必要があります。
     裁判例ではいろいろな点が問題となっていますが、要は、「経路からの逸脱中断がなく、手段が通勤として合理的かどうか」のところが争われます。

    例1)経路上にない場所への寄り道
     経路上(複数可)であれば問題ありませんが、経路をはずれて寄り道をすると、その寄り道以降の分は通勤災害にならないのが原則です。ただし、日用品の購入や保育所への送迎、公選の投票などは例外として、経路の逸脱になりませんので、その後の分は通勤災害扱いが可能です(寄り道中の分はいずれにしろ通勤災害対象になりません)。

    例2)渋滞を避ける為に遠回りした場合
     渋滞を避けることは合理的経路と判断されます。経路が複数あってもかまわないので、いつも必ず同じルートを通ることが必要ということではありません。

    例3)取引先の接待を受けた後の帰路
     就業に関して発生する移動でなければ通勤災害になりませんので、休日の取引先主催の接待ゴルフの行き帰りは通勤災害と認められない可能性もあります。会社主催の歓送迎会等については就業に関するものとされ、業務に関する会合に出席して懇親会に出た後の帰路でも通勤災害を認めた裁判例があります。

    例4)単身赴任者が現住所でなく、家族の住む場所から通勤した場合
     原則として、自宅と就業場所の往復でなければ通勤災害と認められませんが、単身赴任者が家族の住む場所から直接出勤してくるケースでは、自宅からの経路でなくても通勤災害と認められる場合があります。

    例5)出稼ぎ者が帰省先から会社の寮へ帰る場合
     会社の寮は就業場所ではないので、原則として通勤災害になりません。直接会社へ来る場合には単身赴任者の例に近いので、通勤災害になる可能性があります。裁判例上では、建築会社の事案で、会社の寮が工事現場にあったことから、出稼ぎ者の実家から寮への帰路上の災害を通勤災害として認めた例があります。

    例6)いわゆる直行直帰や出張の場合
     就業場所が社外にある場合でも、その場所までの往路・復路が合理的であれば当然通勤災害として認められます。出張の場合にも往復の合理的な経路・手段であれば通勤災害になります。

    例7)通勤途中に強盗被害に遭った場合
     このような場合には、実務上、判断が分かれています。
     平成7年のオウム真理教によるいわゆる「地下鉄サリン事件」では、被害者に通勤災害が認められていますが、通勤途上を待ち伏せされてオウム真理教信者に殺害された事案では、通勤災害が認められませんでした。

    例8)派遣社員が派遣元から派遣先へ移動する場合
     行政の解釈では通勤災害ではなく、業務命令の存在を前提とする業務災害として認定されます。自宅から派遣先への通勤は通勤災害です。

  • 労災(業務災害)の適用範囲について

     労災と聞いてどのようなことをイメージされるでしょうか。

     工場の機械での怪我や、高所からの転落、配送中の自動車事故などが業務災害の典型例ですが、最近では、職場の安全配慮義務が問われるケースとして、過労による心筋梗塞脳出血精神疾患による自殺まで幅広く業務災害性が認められる例が増えています。
     肉体労働系の職種でなくても、あらゆる職域で労災が発生する危険があるといえます。経営者としても、認識を改める必要があるでしょう。
     
    業務災害」とは,「労働者業務上の負傷,疾病,傷害又は死亡」のことであり,業務災害といえるためには,「業務上」の負傷や疾病等である必要があります。
    業務上」とは業務と負傷等との間に法的な因果関係があることです。
    因果関係を判断するためには、「業務起因性」と「業務遂行性」が必要だと言われています。

    「業務遂行性」とは,「労働者が事業主の支配ないし管理下にある状況で事故にあった(疾病が生じた)」という意味です。(1)事業所内で業務に従事している最中に生じた災害や,(2)同じく事業所内ではあるものの,休憩中・始業前・終業後の行動の際の災害が含まれます。さらに,(3)事業所外で労働しているときや,出張中の災害(出張中は交通機関や宿泊場所での時間も含む)も含まれます。
     これらを除くと,業務遂行性が認められないのは,通勤途上(これは通勤災害として労災補償対象になります)と事業所外での任意の親睦活動や純粋な私的行為中のものに限られてきます。

    「業務起因性」とは,「業務遂行に伴う危険が現実化した結果の事故(疾病)といえる」という意味です。
    上記(1)の場合には,原則として業務起因性が認められますが,自然現象・外部の力・本人の私的逸脱行為・規律違反行為などによる場合は認められません。例えば,大工同士が喧嘩をし,一方が死亡したという事案で,最高裁は,喧嘩の発端は作業内容に関する指摘行為にあったものの,災害(死亡結果)自体は被害者の挑発的行為(私的逸脱行為)が原因であり,それは業務に随伴する行為とはいえないため,業務起因性は認められないと判断しました。
    (2)の休憩中等の場合は,生理的行為や移動行為は含まれますが,スポーツによる負傷等は原則として業務起因性が認められていません。
    (3)の場合については,特に出張中の災害が問題となります。出張は事業主の指揮命令に基づくものなので,原則として事業者の支配下のものとして業務遂行性が認められますが,その一方で,出張中に私的な行為が行われることもあるため,業務起因性が問題になるのです。

     例えば,「出張先で仕事を終え,宿で酒を飲みながら夕食をとった後、酔いが回って階段から転倒し頭を強打し,それが原因で約1か月後急性硬膜外血腫により死亡した」という事案で,トイレからの帰りの際,間違えてトイレの履物を履いてきたことに気づき返却のためにトイレに向かう途中の事故であったのであり,被害者が業務と全く関連のない私的行為や恣意的行為ないし業務遂行から逸脱した行為によって自ら招いた事故として業務起因性を否定するべきとはいえない,と判断し業務起因性を認めた裁判例があります(福岡高裁)。
     その他の裁判例では,長期出張中の同僚の送別会の後に溺死した事案や、出張先で接待を受けた後に入浴中に心臓麻痺によって死亡した事案など,飲酒を伴う事故については,業務起因性を否定する判断のほうが多いようです。

     階段から転倒した福岡高裁の事案で業務起因性が認められたのは,出張先での食事の際の程度の飲酒をもって,業務と全く関連のない行為とはいえないとの考えによるのではないかと思われます。
     しかし,どのような飲酒の仕方であるなら業務と全く関連のない行為であり業務起因性が否定されるのか,といった判断は事案によっては難しいものになると考えられます。
     飲酒の嗜好がある社員を出張させるときは、羽目を外さないように、釘を刺しておく必要があるかもしれません。

  • 年次有給休暇

     有給休暇制度は、個々の労働者ごとに一定の条件が備わった場合には、当然に付与しなければならない法律上の制度です。労働者との合意であっても、有給休暇を一切認めないことはできません。

     現行法では、6か月以上勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、勤続年数に応じた日数(最低10労働日)の休暇を与えなければなりません。短時間のパート勤務者でも、1週の所定労働日数が5日以上か、週の所定労働時間が30時間以上あれば、正社員と同じ扱いです。この基準未満の場合でも、所定労働日数に応じて正社員よりも少ない日数の付与をする必要があります。
     行政解釈では、休暇は1日単位で与えればよく、午前だけとか午後だけの指定に応じる必要はないとされていますが、会社側から任意に時間単位の休暇を認めるのは差し支えありません。ただし、時間単位での付与を認める場合は、労働者代表との間で協定を締結することが必要です。

     労働者から年休取得の要求があった場合には、使用者側から取得時期を別の機会に変えるように求めることはできます(時季変更権といいます 労基法39条5項)。しかし、この時季変更権は、やむを得ない場合にだけ行使すべきとされているので、むやみに変更を指示すると、違法な制限だとして無効を主張される可能性があります。従って、どうしても代替人員が確保できない事情がなければ、基本的には労働者の申し出通り認める必要があります。

     特に、国際的に、日本の「過労」が取りざたされ、その議論のなかで年休取得率が低いことが労働者団体側から問題にされたため、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成17年改正前は労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法)」という法律が作られています。この法律は、事業者に年休を取りやすい環境を整備する義務を規定しています(2条)。平成20年にガイドラインも改訂されています。

     罰則規定はありませんが、会社の業務の品質は、システムとそれを運用する人材によって決まります。
     品質が落ちるとクレーム対応などで、生産性・収益性も下がります。
     従業員が働きやすい環境を作ることは、人材の確保のためにも企業戦略として重要ですので、従業員のワークライフバランスには経営者として、配慮を欠かさないようにしたいものです。