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  • 商標法違反になる場合とは

    「商標法違反」で「刑罰」をうける可能性があるのはどんな場合でしょうか。

     商標法では、「侵害」「詐欺行為」「虚偽表示」「偽証」「秘密保持命令違反」と一定の場合の「過料」とを規定しています。

     侵害罪(商標法78条)は、商標権または商標の専用使用権を侵害したとき、10年以下の懲役・1000万円以下の罰金(法人に対しては3億円以下)に処される規定です。かなり罪が重いのは、窃盗や横領などと同様に、財産的被害を商標権者に与えるものであり、その被害が、際限なく拡大し得ることが考慮されているためです。類似品や防護商標による侵害の場合には、法定刑が上記の半分になっています(法78条の2)。

     詐欺行為罪(法79条)は、詐欺によって商標登録等の権利についての決定・審決を受けたとき、3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金に処せられる規定です。これは主に登録を出願する側で問題になる規定です。

     虚偽表示罪(法80条)は、商標保護対象でないのに、他人の商標を虚偽で表示したりするような行為が処罰され、刑罰は詐欺行為罪と同じです。

     偽証罪は、一般の刑法上の偽証罪と同じ要件効果ですが、自白の場合の刑の軽減・免除が可能な点で、刑事責任が緩和されています。

     秘密保持命令違反は、平成16年改正で追加され、商標申請上の営業秘密などを開示することに対して、5年以下の懲役・500万円以下の罰金に処される規定です。

     過料は刑罰とは違って、特許庁や裁判所の判断で、ペナルティとして10万円以下で課されるものです。対象となるのは、偽証や審理への非協力、妨害などの行為です。

     商標権を持っていない会社でも、侵害罪等になる行為をしてしまう危険性はありますので、商標法なんてそんなんわが社に関係ないとは言えません。

     侵害行為の類型は、法37条が参考になります。まとめると、

    1. 商標権の対象として登録された指定商品・指定役務(以下まとめて指定対象等)について、登録商標・類似商標・防護商標(以下まとめて登録商標等)を使ってはいけない。
    2. 指定対象等と類似した商品・役務に対して、登録商標等を使ってもいけない。
    3. 商品そのものでなく、包装にも登録商標等を表示してはいけない
    4. 商標権侵害品を所持、製造、譲渡、輸入してはいけない
    5. 侵害品そのものでなく、侵害商標を製造する専用物品も製造、譲渡、輸入してはいけない

     以上のうち、輸入に関しては関税法の適用もあります。
     具体的には、関税法69条の11の1項9号該当で、同2項により没収廃棄されますし、同法109条2項により未遂でも10年以下の懲役・1000万円以下の罰金になり、予備すら処罰されます(5年以下・500万円)。刑法の感覚でいうと、予備が処罰されるのは、放火、殺人、強盗、身代金誘拐など限られた重い罪だけなので、不正輸入がいかに重くみられているかが分かります。

  • 商標・意匠の概要

     商標や意匠は、身近にあふれている一方で、その法的意味や、会社実務への影響の理解が不十分であるために、危険な塀の上を綱渡りで歩いているような中小企業・個人事業も案外散見されます。

     例えば、長年研究を重ねた画期的なデザイン・機能をもつ照明器具を開発し、大々的に売り出したいという場合、もし、ライバル社へ情報が漏れて、自社製品と見分けがつかないような類似品が発売されてしまったら、研究開発費用を回収出来ず、販売戦略にも大きな支障が生じてしまいます。また、運良く競業他社をしのぐ高評価を市場から得ても、後発の類似品・粗悪品が似たような名称・デザインで発売されてしまうと、自社の売り上げばかりか、製品の信用まで落ちてしまうことになりかねません。

     そのような事態を防止し、意匠(独創的なデザイン)や、商標(商品を特徴付ける呼称やマーク)に伴う信用を保護するための法律(知的所有権に関連する諸法)があります。

     おおまかにいうと、
     意匠とは、工業製品のデザインのことで、形状や色彩の組み合わせが他のものと違う特徴的な独創性をもつものを登録意匠として保護します。
     商標とは、製品やサービスにつける目印(マーク)のことで、文字や図形の組み合わせが特徴的で他と区別できるものを登録商標として保護します。

     意匠や商標の登録を管理しているのは、特許庁という国の行政機関です。早口言葉にある東京都特許許可局は実在しません。

     意匠や商標は類似のものを登録できない仕組みになっていて、データベースで検索出来ます。

     最初に挙げた新製品発売前の準備として、これらの意匠や商標を調査し、重複・類似していないかどうかを確認し、登録がうまくいくように支援する業務は、「弁理士」という国家資格者の仕事として、「特許事務所」で取り扱われています。もし、それらの調査をしないまま、登録済みの意匠・商標にかぶってしまうと、積極的な悪意がなくても権利者から販売の差止請求や、損害賠償請求をされてしまう危険があるので、自社が持っている特徴的な独創性ある商標・意匠は(それほど安くはない費用は掛かりますが)登録申請をしておくのがベターといえます。

     商標は、通用範囲が広くなるほど信用が増える性質があるので、10年の期間ごとに何度でも更新出来ます。
     他方、意匠は、一定の形態を保護するもので、それが長期間になってしまうと、創作を阻害する性質があるので、登録から20年に限って保護されます。

     商標や意匠を侵害する類似品を製造・輸入・販売等した場合には、権利者から差止請求や損害賠償請求をされる恐れがあります。また、法律上、損害額の推定規定があり、権利者の保護が強化されています。

     うっかり権利侵害をしてしまわないように、ブランドやデザインを売りにする商品やサービスを扱う場合には、相応の注意を払う必要があるということです。

  • 競業避止義務

     競業避止義務は、①在職中に使用者の不利益になる競業行為(兼職など)を行なわないこと、②企業において、誓約書や就業規則に含まれる特約(競業禁止特約)に基づいて,従業員の退職後に競業他社への就職や同業種の開業をしないこと、などを含む義務のことです。
     従業員や元従業員が,同業他社への就職や同業種での開業をすると、せっかく育てた会社の秘密やノウハウが競争相手に漏れたり、取引先を奪われたりして商売に悪影響が生ずる可能性があります。このような事態を防止するために,競業避止義務を課しておく必要が生じます。

     そもそも、従業員が在職している場合には,労働契約に付随する義務として,勤務先に対して誠実に職務を遂行する義務を負っています。このような誠実義務の一つとして,競業避止義務も含まれるので,在職中には誓約書や就業規則で特約を定めなくても,従業員に競業避止義務違反の責任を負わせることができます。ただ,万一の紛争を考えれば,競業避止義務の範囲を明確にしておくことが重要で,就業規則や誓約書で、競業避止特約を定めて、従業員にも認識させておくべきでしょう。

     在職中の競業避止義務は労働契約に付随する義務ですので,労働契約が終了すれば,被用者の競業避止義務も消滅します。
     そこで,従業員が退職後に競業を行った場合にも,元従業員の責任を追求するためには,就業規則等によって,退職後も競業避止義務を負う旨の特約を結んでおかなければなりません。
     民法には「契約自由の原則」があるので,どのような内容の契約を締結することも,当事者の自由だという考えがあります。
     しかし,競業避止義務特約は,職業選択の自由(憲法22条1項)を制限し,労働者の生存権を脅かすおそれがあると同時に,自由な競争を制限する性質がありますので,それらの制限にも配慮した合理的な範囲内で定めなければなりません。合理的な範囲を逸脱する内容を定めた競業避止義務特約は,公序良俗に反し無効になってしまいます。

     競業避止義務特約が合理的な範囲内であると判断されるための要素としては,①期間の限定がある(最高で2年程度まで)、②地域を限定している(業種に応じて広狭はあります)、③業種や職種を限定している、④何らかの代償的な手当を支払うようになっている、⑤重要なノウハウに触れる特別な業務についていた、などがあります。企業としては,それらを参考にして、無効にならない範囲での競業避止義務特約を規定しておくことが肝要であると考えられます。

     競業避止義務が有効かどうか争われた裁判例は数多くあります。
     例えば、元従業員Yが,使用者であったX社で勤務していた際に研究員として得た知識を利用して,X社を退職した後に同様の製品を製造して,X社の得意先に営業をかけた事件で、X社が製品の製造販売を差し止める仮処分を申し立てたという案件があります。仮処分とは、損害の拡大を防ぐために、判決が確定する前に、とりあえず製造販売等の行為を止めておくための手段で、不正競争の場面ではよく使われています。
     裁判所は、上に述べたような考慮要素を元にして、合理的範囲にあるかどうかを判断するのですが、この件では、「制限の期間,場所的範囲,制限の対象となる職種の範囲,代償の有無等について,X社の利益(企業秘密の保護),Yの不利益(転職,再就職の不自由)、社会的利害(独占集中のおそれ,それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点にたって慎重に検討していくことを要する。」と述べ、「本件では,制限期間が2年間という比較的短期間であり,X社の営業が特殊な分野であることから対象の制限は比較的狭く,技術的秘密については場所的に無制限であってもやむを得ず,またYは在職中に秘密保持手当の支給を受けていた」ので、競業制限は合理的範囲だと判断しています。

     競業避止義務違反が認められた場合には、競業行為を行った者に対して、損害賠償請求ができます。しかし、その場合の損害額の計算は、単に売り上げが落ちたことだけの立証では足りません。そのような主張をすると、他の要因での売り上げ減と区別ができることまで立証しなければならなくなります。そこで、多くの場合には、前使用者の営業上の秘密を用いてあげた利益そのものが,企業の損害であると主張して、相手の利益の資料を提出させることで立証とします。もっとも、この点についても、相手方が資料を出さない場合や、不正確な資料である場合には、損害立証が不十分となりがちで、実際の賠償請求訴訟は非常に困難なものです。

     また、先ほど説明した「仮処分」についても、裁判所は、「利益が侵害される具体的かつ差し迫った危険」の疎明を求めますので、相手がすでに販売自粛を公表していたり、販売活動の実績が全くなかったりする場合や、すでにその製品の製造を自社側でも中止していた場合などは、差し迫った危険がないと言われる危険性もあります。

     競業避止義務はあるというものの、その権利実現には会社側に高いハードルが課せられているのが現実ですので、秘密保持契約や競業避止義務契約があるからといって、情報や権利の管理に手を抜かないようにすることが必要です。