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  • 需要者の間に広く認識されている って何

     行政官庁は法律に書かれたことを忠実に実行し、裁判所は法律適合性を評価するのがそれぞれの仕事ですが、法律の実行・評価には必ず解釈という作業が必要になります。

     その際に、行政と司法の判断が分かれることはもちろん、司法の中でも、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所の判断が分かれることも十分にあり得ます。
     いずれにしろ、法律の解釈・適用を最終的に決めるのは、司法の最終審理を担当している最高裁判所になります。そのため、法律の世界では、最高裁判所の判決のうち、先例としての価値があり、一般化できるレベルの判決の該当部分を「判例法理」と呼んで、実務上尊重する扱いをしています。この「判例法理」は、いずれ法律や政省令の改正を通じて、「成文法」となることが多く、法律のレベルアップに役立っています。

     今回は、商標法と不正競争防止法で使われている「需要者の間に広く認識されている」という同一表現が、その適用場面の違いから、同じ言葉なのにかなり違う意味として判例法理上捉えられていることを紹介します。また、「混同を生ずる」という表現は、商標法と不正競争防止法とでほぼ同じ意味とされているのですが、なぜそうなのかを説明します。

    事例1
     「需要者の間に広く認識されている」ことを端的に「周知性」ともいいます。
     コーヒー等の飲料を卸販売していたX社は、H県でシェア3割を持っていましたが、それ以外の地域ではほとんどシェアがありませんでした。その状況で、X社が使用していた「DCC」というマークを、Y社が先に商標登録してしまったので、X社は周知性を理由とする登録無効の審判を請求しました。ここでは、X社のDCCマークがどの程度の範囲で「周知」されていれば保護されるのかという点が問題となります。
     X社は、H県での高いシェアや多額の広告宣伝費を主張しましたが、特許庁も裁判所も、X社の周知性を否定して、登録は有効としました。不正競争防止法上は、ある程度の地域的範囲であれば、必ずしもそれが全国的なものでなくても「周知性」が認められていますが、商標法では、H県と周辺程度のシェアでは、商標法での「周知性」を満たさないとされたのです。
     これは、商標権が日本全国に通用することから、その商標を無効とするためには、まさに全国的に周知されているべきという判断に基づくものといえます。不正競争の場合は、不正な行為を防止するという負の側面から規制するので、一地域レベルでの問題でも周知性ありとして被害を防がなければなりませんが、商標法で周知性ありとされて登録商標が無効になるという結果は全国レベルに波及してしまうので、周知性はかなり広い範囲を対象とする必要があるとされます。
     そのような違いから、法律に「需要者の間に広く認識されている」と書いてあっても、その意味が場面により大変違うという結果になるわけです。「そんなに違うなら、なぜ違うように書かないか。」という疑問が生じるかもしれません。確かにその通りですが、法律は時期を違えてどんどん制定改廃されていくので、最初からすべての問題を他の法分野との整合性まで考慮して解決しておくことは非常に難しいといえます。ひとまずは従前から使われている言葉で定義しておいて、問題が生じたら裁判所で細かい解釈を決めてもらうという流れは、一つの合理的な方法論といえるでしょう。

    事例2
     商標法と不正競争防止法にはどちらにも「混同を生じる」という表現があります。
     Yが装身具等を対象として「*****(カタカナ)」の商標を登録したので、香水等を対象とする「*****(フランス語表記)」という商標を持っているXが無効審判を申し立てました。特許庁も東京高裁もXの請求を認めませんでした。その理由は、商品の名前としてはある程度「*****」が有名だったかもしれないが、商標として著名とまでは言えず、カタカナと欧文とで表示も違うので、香水と装身具とで出所について混同を生じるおそれがないというものです。
     しかし、最高裁判所は、混同は、商品そのものだけで比較して決めるのではなく、類似性、独創性、商品の関連性、需要者の共通性などから、そのような表示がされていれば、商品自体は識別されたとしても、その商品が、親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係や商品化グループ(複数企業が統一ブランドで商品展開していくような事例)に属する関係にある者が取り扱っているかのごとき混同を生じる可能性があると判断し、Xの無効審判が認められて、Yのカタカナ商標は無効とされました。
     この件では、特許庁も東京高裁もXの訴えを認めませんでしたが、最高裁はXの訴えを認めました。
     客観的に、香水等商品の著名性に便乗して、同じ趣味嗜好の需要者層に訴求する装身具を同じブランドのように見せかけて販売しようとしていたことが疑われる状況であったことも、最高裁判断の論拠になったもの思われます。

     この事例からの教訓は、法解釈論のほかに、「あきらめない」という精神論の面もあります。
     行政や下級裁判所から納得のいかない結果を示されても、あきらめずに最高裁まで戦っていけば、いい結果が出ることも(ときには)あるということです(まあ、普通はあまりないですが・・・)。

  • 交通事故賠償額表計算シート tracalcu リリース

    業務上使っている独自のプチソフトのシェアです。


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    ざくっと使えるレベルになってきたので、生乾きですが、公開します。

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  • 楽で安全な抜け道は、ほぼ ない。

     弁護士に対する世間一般の俗説で、「弁護士は法の抜け穴を知っていて、うまい具合に法の網をくぐるやり方も知っている」というようなことを言う人がいます。これはやや悪意を持って言われる方向ですが、善意でも「弁護士だから、なんか特別なうまくいくやり方でできるでしょう」と言うのは、それと似たようなことです。

     確かに、現行法令には抜け穴(不備)があって、表面的なすり抜け方は少なからずあるのかもしれませんが、まともな弁護士は抜け穴を通りぬけて利益を図るようなやり方を好みません。抜け穴はほとんどの場合、紛争に至ると裁判所段階で塞がれてしまうからです。

     商標の世界にも似たようなケースがあり、登録の早い者勝ちだからといって、他人を出し抜いて不正な目的で商標を取得したり、外国の商標が日本で登録されていないのを知って、妨害目的で商標を取得したりすることは、特許庁段階では可能でも、後に裁判を通じて無効とされたり、損害賠償請求をされたりします。

     例えば、外国で発売された製品を、日本で並行輸入販売するために、国外販売者が日本での商標登録をしない隙間を突いて、販売者に無断で日本の商標登録をしたという事件があります。このケースでは、正規品販売者が日本で商標登録をしようとしたら、先に無断登録されてしまっていて、登録が拒否されたことで、無断登録が発覚しました。当然、販売者は、先の無断登録の取消を求め、裁判所は取消を認めました。
     法律の原則としては先に商標権を取得した者が優先するのですが、上記のような他人の権利を先取りして押さえてしまう申請は、特許庁段階で通っても、裁判所が無効にしてしまいます。

     また、外国の鞄メーカーの製品の日本での独占販売権を取得しようとして、その外国メーカーと交渉をし、その後交渉が不成立になって、独占販売権を得られなくなった日本の販売会社が、その外国鞄メーカーが使っているロゴ(日本では未登録)に非常に良く似た商標を日本で登録したという事件がありました。このケースでは、外国メーカーは日本での商標権をもっていなかったのですが、日本の販売会社が商標登録に先だって、その外国メーカーと交渉をしていたという事実から、日本での商標登録は、その外国メーカーの日本進出を妨害する目的でなされたものと裁判所に認定されてしまいました。

     上記のケースはどちらも特許庁での商標登録までは認められ、後に裁判所で無効になったという例です。
     このように、「できる」ことであっても、後々の事を考えれば「やらない」という選択をすべきことはいくらでもあります。

     行き止まりの道、高い塀の上などを歩かないように、あらかじめ法律専門家の意見を求めて頂ければ幸いです。