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  • 代理店契約の打ち切りと損害賠償請求

     不正競争防止法案件でよく問題になるのは、代理店契約の打ち切りです。

     外国のブランド品を日本での知名度が低いうちから資金を投下して販促し、大きく育てていく方法は、ハイリスク・ハイリターンの投資方法です。その方法として、国内独占代理店契約を結び、販促を一手に引き受けて、国内販売を伸ばしていく等の手法がとられます。

     しかし、当該ブランド品が国内で次第に著名になってくると、外国ブランド本社が直販に乗り出したり、現行代理店よりも有利な条件を提示して代理店契約を奪おうとする競争業者が現れたりすることがあります。

     そうならないようにするためにも、契約内容は十分に事前に吟味すべきなのですが、未成長ブランドの場合だと、比較的安易な相互依存の契約を結んでしまったりすることもあり、いざ、関係が壊れた時の法的な清算が難しくなるケースも出てきます。

     無名時代から長年にわたって、当該ブランドを支え続けた代理店からすれば、突然外国ブランドが商品供給を停止して代理店契約を破棄したり、別の代理店に独占権を与えたりされてしまうと、心情的にはもちろんのこと、投下資金が十分に回収できていない段階では、経済的な損失も大きなものになってしまいます。

     そのような場合、代理店側に契約違反がないのであれば、不当な解除であることを主張して、外国ブランド相手に損害賠償請求をすることができます。しかし、契約期間の満了や、一定の違約条項への該当などを理由とする契約終了・解除などが主張された場合には、損害賠償の請求は極めて困難となります。

     裁判例としては、代理店契約の終了とともにブランドからの供給を打ち切られた業者が、新規に代理店となった業者を相手として損害賠償請求をしたものがあります。
     請求の根拠として、新規代理店が販売する商品は、旧代理店のブランドであると主張しましたが、裁判所は、旧代理店のブランドではなく、外国のブランドとみるべきで、不正競争防止法では旧代理店が新代理店に損害賠償請求することはできないし、新代理店の販売は不法行為にもならないと判断しました。
     外国ブランド本体を相手にしても勝てないと考えて、無理に新代理店を相手にしたのでしょうが、やや無理が過ぎました。

     契約条項を、事業の清算や解除後のことまで考慮したものとして、詰めておくのは、結婚前に離婚を考えるようなもので、相手との友好関係を考えると気が引けますが、やはり、そこは、まだ信頼関係がある最初の段階で、きちんとやっておくべきことといえるでしょう。

  • 著名商品等の表示

     以前の記事「不正競争防止法19条で保護されるケース」で、一定の場合に自由に使ってよい表示があること(地名、自己の氏名、先使用)を説明しました。
     今回は、一定の場合に使ってはいけない表示についてです。

     不正競争防止法2条1項2号では、他人の業務について、すでに使われている商品や営業の表示を使ったらダメと規定しています。長い名称の一部として紛れ込ませることも基本的に不可です。
     裁判で負けた事例としては、「青山学院」という名前を、青山学院とはまったく関係のない人が、自分の経営する学校の地名にくっつけて、「呉青山学院」という名前にした例があります。この類型の裁判で勝つためには、当該名称が「著名ではない」ことを主張しないといけないので、とにかく、誰もが知っているようなすでに有名な名称を使いたいときには、許諾を得ることが先決と思います。
     裁判になって、被告が負けている例としては、ほかに「虎屋」「三菱」「J-PHONE」「JACCS」などがあります。どれもその文字を見ただけで、どんな事業をしているかすぐにわかるようなものばかりですよね。

     ところで、J-PHONEやJACCS、sonybank事件などは、「ドメイン」に関する事件である点で、特徴があります。
     ドメインとは、インターネット上で使われる名前のことです。インターネット上で情報のやり取りをするためには、IPアドレスという番号(我が家の玄関の表札みたいなものです)をインターネット全体に周知させる必要があります(これによって、世界中から間違いなく目的地を訪問できます)。IPアドレス(IPv4の場合)は、「177.133.144.155」のように、3桁×4組の数字で示されています(このほか、IPv6というやつもあり、こちらはもっと長いですけど、そこの解説が目的ではないので、省略します)。
     この数字の羅列だけでは人の目による識別性が悪いので、番号と名称を対応させた仕組みが「ドメイン」です(ごく簡単に説明しましたが、実際はもっと複雑な仕組みです)。
     私の保有ドメインは、「uhl.jp」です。全世界に同じものは絶対にありません。重複しないように、ドメイン管理組織によって管理されているからです。ちなみに「.jp」は、日本を表すトップレベルドメインです。最近では、業種別とかグループ別などの新しいトップレベルドメインが次々に設定されていて、もはや国別を表すトップレベルドメインは少数派になってしまっています。申請者が希望したドメイン文字列が同一トップレベルドメイン中に既存でなければ、どんなものでも、だれでも、簡単に取得できます。

     かつては、ドメインが全世界で一つしかないというユニークさと、誰でも無審査で取得できるという点を悪用して、上記のように、J-POHNEとかsonyとかを含む名前を、それらの企業と関係のない人が勝手に取得し、いざ当該企業がそのドメインを必要とした際に、高値で売りつけようとする事例が頻発していました。
     現在では、著名ドメインを取っても、裁判で負けて無駄骨になることが周知されたので、以前のような紛争は激減しています。また、日本知的財産仲裁センターがJPドメインに関する紛争処理の仲裁を受け付けていますので、類似ドメインの排除が必要になった場合に、裁判をするまでの必要は通常の場合ありません。

  • 示談書の書き方について

     示談書の目的は、一定の紛争状態について、当事者が一定の合意をして、その紛争を「完全に」終了させることです。
     そのため、①紛争を完全に終了させない合意書は、「示談」というより、「覚書」「確認書」というべきであり、②「示談書」である限りは、どの範囲の紛争に適用するのかを厳格に特定する必要があります。

     示談書の内容を順に検討してみましょう。

    1 タイトル
     「示談書」「和解書」「合意書」いずれでも結構です。ただし、上記の通り、中間的な合意は「覚書」「確認書」と表現されることがあるので、最終の合意であることを示す意味では、「示談」「和解」のタイトルがよいです。

    2 頭書き
     示談書に署名する当事者を列挙して、それらの者の間の合意であることを確認します。その際、主に権利を主張する側を甲、義務を負う側を乙とし、その他の関係者には、順次丙・丁(ヘイ・テイ 普段使うのはせいぜいここまで、以下・戊・己・庚・辛・壬・癸 ボ・コ・キョウ・シン・ジン・キ と続きます)と符号をつけると後の記述が楽です(ただし、混乱して表示を間違わないようにしましょう)。

    3 各条項
    (1)案件の特定
     まず、その示談書が何の解決のために作られたのかを明示します。事件・事故の場合は、5W1Hで、対象を具体的に特定します。
     この特定が重要なのは、最終条項で、「本示談書に定める条項のほか、本件に関し、当事者間に一切の債権債務のないこと」を確認するときに、「本件」として引用されるためです。
     たとえば、当事者甲・乙の間に、全然別のA事件とB事件があって、それぞれ紛争になっている場合、A事件の示談書で、「・・・条項のほか、当事者間に一切の債権債務のないこと」と記述して「本件に関し」の部分を書かないでいると、最悪の場合、B事件のほうもその示談書で解決済みと扱われても仕方がありません。そのため、「本件に関し」を入れるか入れないか、よく考えて決定する必要があります。

    (2)権利の行使条件
     示談書は、単なる当事者間の約束事に過ぎず、公正証書にしない限り、裁判なしでは強制執行ができません。また、公正証書にした場合であっても、強制執行できるのは金銭給付請求部分のみであって、建物の明け渡しや、物の引き渡しを強制することはできません。
     内容があいまいであったり、違法が含まれていたりして、公正証書にできないようなレベルの示談書を作成してしまうと、後に違約があった場合の対応措置が制約される危険性があるので、権利義務の内容や、行使の要件などは、民法・商法・会社法その他の法令に適合し、かつ一義的に特定できるように記述し、誰から見ても同じ意味での解釈をされるように留意する必要があります。

    (3)違約時の対処
     違約があったらどうするかを事前に完全にカバーすることは結構難しい問題です。しかし、合意なしに法的に主張できる制裁手段は非常に限られているので、話し合いができるうちにできるだけ有利な条件設定をしておくことは有効です。

    (4)包括的清算条項
     「示談書」完成時点では、原則として、当事者間のすべての債権債務関係の清算が合意されている必要があります。一般には、「相互に請求を放棄」「その他の債権債務なし」の二つのセンテンスで権利関係をリセットします。

    (5)日付・署名
     日付は原則として作成日です。持ち回りなどで署名時期がずれる場合は、最後の日とすればよいでしょう。
     日付を遡らせることは可能ですが、当然合意が必要ですし、具体的な状況次第では遡らせることに意味がなくなるケースもあるので、事実と違う記述をするのはあまり好ましくありません。
     示談書は最終合意で基本的には変更不可のものなので、慎重を期するためには、きちんと当事者が面談をして、その場で自署・捺印を確認するのが原則です。代筆や印刷では、後日信用性を争われた際に反証が難しくなる可能性もあるので、自署にしましょう。

    (6)その他
     契約ですので、各自1通づつ原本を持つのが原則です。ただ、印紙税の節約のために、一通だけを作って、債務者にはそのコピーを控えとして渡すという方法もあります。

     合意書のなかでもっとも難しいのは、上記(2)の書き方です。これは、法律の体系をきちんと理解していないと、正確な記述をするのが難しい部分ですから、示談前に専門家にチェックを依頼していただくほうがよいでしょう。