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  • 営業の秘密管理に対する裁判例

     前回に続いて営業秘密の問題についてです。

     今回の事案は、コンサートや各イベントの企画・制作等を業務とする会社での事件です。
     全従業員は4人しかいない小さな会社で、うち2人(元従業員・アルバイト)が退職後、同業種で独立しました。
     原告会社は、その行動に腹を立て、顧客リストや登録アルバイトのリストを不正に持ち出したとして、元従業員らを提訴し、損害賠償と顧客リスト等の使用差し止め、情報消去を請求しました。

     裁判所が認定した管理状況は次のとおりです。
     アルバイト登録リストは、ファイルの背表紙に「社外秘」と記載されて、扉のない書棚においてありました。しかし、従業員に対して秘密保持を求める就業規則はなく、秘密保持の誓約書等も作成されていませんでした。コピーの部数制限やコピー物の回収などの措置もとられていませんでした。
     結果として、この裁判では、秘密として管理されていたとは言えないとして、訴えた側の会社が敗訴しました。

     実は、秘密管理に対する裁判所の判断は、平成15年前後から、比較的厳格なものになってきていると言われています。
     これは、自由経済社会の中では競業が基本的に肯定されるべきだという、規制緩和・自由経済の風潮が強く言われるようになってきた国際・国内の政治経済状況を反映したものとも考えられます。
     裁判所は、世の中のことを見ていないようで、ちゃんと見ているような感じもあります。

     鍵をかけ、コピーの回収もしっかりしていたとしても、情報を管理する立場の人物が情報を流出させることは、究極には防ぎようがありません。
     信頼して会社の情報を取り扱わせていた担当者の裏切りに遭うのは、会社としてもつらいことです。
     小さな会社にあっては、信頼しているからこそ何も書面を交わしていないというのが実情と思われますが、上記の裁判例のように、客観的に秘密管理状況がないというだけで、秘密保護をしないという判断をされてしまう危険がありますので、情報取扱い担当者に対する損害賠償等の実現のためには、秘密保持契約が必須ということになるわけです。

     秘密管理に対する裁判所の見方がより客観性を求める方向にあることを考えると、秘密管理については、文書化が基本であろうと思います。

  • 営業秘密の判断

     今回は競争業者を意識した秘密管理の問題についてです。

     多くの裁判例がありますが、要点は、対象となる資料・情報が(1)どの程度秘密として厳格に管理されていたか。(2)どれくらい有用であるか。(3)公知のものでないか。の3点です。

     とある裁判例を見てみましょう。
     事案は、墓石販売業者の元従業員が、①会社にある顧客名簿(電話帳から見込み客として抜粋したものも含む)、②取引のあった顧客情報の管理簿、③墓地使用契約書、④墓地来訪者名簿、⑤墓地・墓石の加工図、⑥墓石の原価表を、自ら設立した独立後の新会社に持ち込んで、その営業に使ったというものです。

     裁判所(東京地裁)は、①~⑤全部について(1)秘密管理性と(2)有用性を認めました。しかし、⑤と⑥は墓石の外観と価格が載っているだけのものであり、すでに公知(社外の者でも容易に知りうる)と判断されました。この事案で、販売業者が得られた損害賠償金額は630万円でした。

     個別に要件を見ますと、
    (1)秘密管理については、「テレアポ専用の部屋に、責任者が決められて、①と②は施錠可能なロッカー内に保存され、③と④は社員が日常業務で使う事務室内の営業課長の引き出し内に保管されていた。⑤は事務室内の書棚においてあり、⑥は営業課長の机の引き出しに保管されていた。会社は、営業資料を営業活動以外に使わないように指導を徹底していた」という状況でした。
     本件以外の裁判例を見ると、このあたりの認定は、裁判所によって比較的判断が分かれやすいところですが、弁護士の感覚からすれば、この墓石事案は、その程度でも秘密管理性が認められる可能性があるというぎりぎりの案件かと思われます。
     一般的には、専用の施錠可能な保管場所を決める。一定の役職者以外閲覧できないようにする。社外秘情報であることを明示する。等の措置が必要であり、鍵のかかっていない書棚においてあり、社員誰もがいつでも参照できるようなものは、事案によっては秘密管理性が否定される危険があります。また、それらの事実を後日に裁判上で立証するため、保管場所の整備や責任者の定め、文書・情報管理規定の作成、秘密保持契約など、客観的証拠を整備しておくほうがよいでしょう。
    (2)有用性について、裁判所は、「①②には、継続的な営業(テレアポ含む)で得られた補足情報が含まれており、無差別に電話・訪問営業をするより効率的な営業が可能になる」「③④には関心を持って来訪した見込み客の情報が載っており、成約に至る可能性が高い顧客資料として有用である」「⑤⑥は①~④と比べるとそれほど有用とは言えないが、一応の有用性はある」と述べています。ただ、⑤⑥は結果的に公知と判断されており、端的に営業上有用な情報とまでは言えないとの判断もあり得たのではないかと思われます。
    (3)公知・非公知を区別するには、営業に関連して社外の業者等にその資料を示す機会があるのかどうかという視点で見るとよいでしょう。加工図や原価表は、状況によっては加工業者や顧客に対して示す可能性もある資料ですし、上記事案でもそのようなものとして扱われていたのだと思われます。その場合には、当該加工業者や顧客との間でも、当該情報が秘密であること、その秘密は外部に出さないことについての了解がなければ、非公知だというのは難しいでしょう。

     御社には営業上の秘密と思われる情報はおありでしょうか。この機会に情報管理について一度検証してみてはいかがでしょうか。

  • ありふれたものでもパッケージに凝ると

     今回は、商品化にあたって、法的観点からの対策も必要というお話です。

     裁判例の事件は、子熊の絵が書かれたタオル類の販売案件です。
     X社は、ベアーズクラブという名前で、子熊をモチーフにしたタオル類を籐籠に詰めて販売していました。そこへY社が違う子熊の図柄を使ったクロス製品のセット商品の販売を開始しました。
     X社は、Y社商品が不正競争防止法違反(形態模倣)であるとして、提訴しました。
     タオル類はユーザーの元でセットから外されて使用されるので、基本的には、セット全体としてではなく、個々の製品単位で模倣かどうかが判断されます。しかし、不正競争防止法は、先行者が行った企業努力に報いるために一定の範囲で独占的権利を保護する法律ですので、個々の商品がありふれたものであっても、セットやパッケージが凝っていて独創的なものであり、消費者がそのセットに着目して関心を引かれるものであれば、セット単位での法的保護を考える余地があります。

     裁判所は、流通経路に出す時点でパッケージに創意工夫が凝らされているか(店頭ディスプレイでは足りない)、販売単位を調整するための単なるパック・小分けではなく、パッケージに消費者の関心を引く意味があるか、ばら売り販売を並行していないかどうか、組み合わせ内容がパックとしての特徴があり、ばら売りを適当に組み合わせただけではないかどうか、などを見て、セット商品として固有の取引形態であると認められるかどうかで判断すると言っています。
     それだけの要素が満たされない限りは、セット商品として保護されることはありません。

     他に問題になった事例としては、宅配寿司のセットの例があります。
     これは、競合する宅配寿司業者が、他社の販売している商品のパッケージ・商品内容が自社のものを真似しているとして提訴した事件ですが、裁判所は、寿司の詰め合わせとしてありふれたものであるから、不正競争防止法では保護されないと判断しています。
     前掲の例でもそうですが、単体としてありふれたもの(タオル、握りずし)は、それらを組み合わせて裁判所の認める独創性を出すことは非常に難しいと思われます。そこをクリアしていけるのは、いわゆるキャラクター商品くらいかもしれません。

     これらの事案の教訓は、セット商品の開発に当たっては、いかに他社との差別化を図るかを十分検討し、差別化が難しいのであれば、その部分ではあえて勝負しないという選択をすることが必要ということです。

     ありふれた製品について、独創性の要件をうまくクリアしたのが、いわゆる「ワイヤーブラシセット事件」です。
     このケースでは、いわゆる百均ショップに卸す商品(ワイヤーブラシ)が問題となりました。
     裁判所は、ワイヤーブラシそのものは、よくある普通の製品であって、保護対象にはならないと判断しましたが、当該商品の容器や包装に特徴があり、商品本体と一体化して消費者に独自の訴求をしていることを評価し、結論としては、一部について先行販売者の利益を保護しました。このように、ありふれたものでも、パッケージを工夫すれば、その努力が報われる場合もあるわけです。